重ねた罪に侵食の報いを

百舌野

夢想

 偶に悪夢を見る。街外れの家、父さんも母さんも兄さんも元気に暮らしていた。父さんは作物を耕し、母さんはそれを売りに出して、兄さんは街の聖職者ギルドで神官を務めている。俺は現実と同じように薬草師ギルドで調合師になり、日夜薬の調合に励んでいた。結局理想でしかない非日常な日常を見せつけられ、その度に寝苦しくなる。割り切った筈なのに割り切れない感情が夢という形で顕て眠りを浅くし、俺の身体を休めなくする。結局、日が昇る前に目が覚めてしまった。思わず隣のベッドに目を向けたが、兄さんは何事もなかったかのように眠っていた。良かった、まだ現実に居る。もう一度眠ろうと思っても寝付けないので、仕方なく外に出ることにした。


 辺り一面に広がる平原。木々の一つもなく、世界から隔絶された気さえする。

こんなに平和に見えるのに、何一つ満たされていない。どうやったらあの頃に戻れるのだろうか、それしか考えられない。 地を覆い茂った草の上を歩き続けながら物思いに耽るも、何も答えは得られなかった。当たり前だ、自分が選んだ道を今更否定する訳にはいかない。ひとしきり歩いた後、家に戻る。

「おかえり」

戸を開けると、兄さんが一言声を掛けてくれた。

「ただいま」

何事もなかったかのように返事をする。

「眠気はもうないかい?」

「うん、すっきりしたよ」

半端な所で目覚めてしまって、どうしようもなく散歩をしていた事を兄さんは理解している。これが初めてではないからだ。

日はすっかり昇っている。街に向かうために支度を始めていると兄さんが声を掛けてきた。

「今日は遅くなるのかい?」

「うん、薬の在庫が切れそうなんだ。今日の内に調合しておかないと」

「そっか。無理しないでね」

「大丈夫だよ。行ってくるね」

いつも通りの挨拶を行い、家を出る。

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