クールな生徒会長
授業が終わって昼休みになる。
◇◇◇
俺は昼食をとり終えて廊下を歩いているとすごい量の資料を持った銀髪の女の子が前を歩いている。
今にも転けそうだ。
案の定、その人は転けて資料を全て床に落とす。
助けに行こうと思った時にはもう遅かった。
周りに俺と彼女以外に人はいない。
俺は焦っている彼女に近づいて拾うのを手伝う。
「大丈夫ですか?」
話しかけると彼女はさっきまでの焦りを隠すかのように表情が変わる。
「大丈夫だ。すまない、手伝ってもらって」
「はい、これ」
落とした資料を全て集め終えて彼女に渡す。
そこで初めて目が合う。
長い銀髪を縛ったポニーテールの碧眼美少女——この人は前の時、俺たちを助けてくれた生徒会長の霜月瀬奈だ。
可愛いというよりはクール系だと一目見て思う。
そうか、生徒会の仕事で資料を運んでいたということか。
だけど、この量を一人で運んでいるのか? 生徒会の人たちはなにをしているんだ? 一人の女の子にこの量を任せるって……
「手伝い感謝する」
生徒会長はそう言ってまた資料を一人で運ぼうとする。
プルプル震えた足で立ち上がりまた倒れそうになる。
俺は倒れそうになっている生徒会長の体を咄嗟に支える。
緊急事態だったとは言え学校で人気な生徒会長の体に触ってしまった。
俺はすぐさま離れる。
「ご、ごめんなさい」
いや、そんなことよりも……
「手伝いますよ」
そう言って資料を半分取ろうとするがその手を振り払われる。
「いや、これぐらい一人で大丈夫だ」
「そうは言っても、今も倒れそうになってましたし……」
「私が一人でやると言ったんだ。自分から言った手前、今更ほかの人に手伝ってもらうなんてできない」
この人はプライドが高いのか、それとも頼ることが苦手なのか。
いや、違う。多分この人は今までずっと頼られ続けたから一人でやるのが当たり前になっているんだ。
それだったら俺がとる行動は一つだ。
俺は生徒会長が持っている資料を半分奪い取る。
「どこまで運べばいいですか?」
すると生徒会長がため息をつく。
「なんなんだ君は……ほかの人みたいに全て私に任せておけばいいのに……」
今の発言で生徒会の仕事はこの人がほとんどやっているんだと分かる。
一つ年上だと言え生徒会の人たちはこんな綺麗な女性、一人に仕事を任せるのかと少し驚く。
確かにこの人は見るからにクール系だからみんな甘えて頼ってしまうのだろうけど。
「こういう時は誰かに頼ればいいんですよ。生徒会長は可愛いですし男の人に頼めば喜んで引き受けてくれると思いますよ」
そう言うと生徒会長は一瞬、頬を赤らめるがすぐ凛々しい顔に戻る。
「可愛いなんて初めて言われたよ。今まではカッコいいとか頼りがいがあるしか言われてこなかったから頼る側になるなんて思ってもみなかった」
「そんなに一人で抱え込んでいたらいつか倒れちゃいますよ。こんなことを言うのはおこがましいとは思いますけど、俺に頼ってくれてもいいんですよ。生徒会長には借りがありますし」
「それもそうだな……よし、これからは君の言う通り誰かに頼ってみようと思う。改めてお礼を言わせてもらう。ありがとう」
「いやいや、初めに助けてもらったのは俺の方なので……これだけじゃ返しきれないぐらいです」
あの時にもし生徒会長が来ていなければ俺と桃は確実に問題を解決せずに終わっていた。
こんなちょっとした手伝いで全て返しきれるわけがない。
「分かっている。だからこれから君にはたっぷり働いてもらう」
「え?」
もしかしてこれから俺は生徒会に入れられるのか?
普通の生徒からすれば光栄なことかもしれないが俺は借りを返したいだけで生徒会に入りたいわけではないのだが……
それに俺みたいなのが入れば生徒会の質が下がってしまう。
「それよりもまずはこの資料を運ぼうか」
「それもそうですね。どこまで運べばいいですか?」
「生徒会室までだ——生徒会室はここから少し遠い別校舎の三階にある」
この学校は広いから今いる校舎以外に別校舎が二つもある。
だから生徒会室が別校舎にあるのも納得できるのだが。
今持っているこの資料……重たい。
カッコつけて生徒会長から資料を奪い取ったもののずっと強がって資料を持っていた。
生徒会室が近かったらまだ耐えれたけど別校舎のしかも三階なんて……
でもカッコつけた手前、重いなんてダサいこと言えるわけがない。
しかも生徒会長は普通の顔で俺と同じ量の資料を持っている。
ここで耐えられなければ俺のプライドがズタズタになる。
なんとしてでも耐えきらないと。
俺は腕をプルプル震わせる。
「そ、それじゃあ行きますか。道分からないので案内お願いします」
「あぁ、行こうか」
生徒会長はそう言うと前を歩いてくれる。
良かった。前を歩いてくれるなら生徒会長から俺の姿は見えないからバレなくて済む。
「無言で運ぶのもなんだし、なにか話そうか。そうだな、まだ君の名前を聞いていなかった。なんと呼べばいい?」
「清村……京介……です」
「清村京介……うん、いい名前だ。これからは清村くんと呼ばせてもらうよ」
「はい……」
「私のことは霜月でも瀬奈でもなんと呼んでくれても構わない」
「それ、じゃあ……霜月、先輩で」
そろそろ腕の限界だ。
これのために筋トレをしとけば良かったと今になって後悔する。
だけど生徒会室がある校舎までは来た。後は階段を上るだけだ。
「それよりもなんでさっきから息切れしてるんだ?」
霜月先輩はそう言うと俺の方を振り向こうとする。
「霜月先輩! 振り向かないでください!」
「どうしてだ?」
「えっと……そう、危ないですから!」
「それもそうだな。すまない」
そしてなんとか生徒会室がある三階にたどり着く。
良かった、このままいけばバレずに生徒会室に着きそうだ。
もう正直限界だがあと少しの力を振り絞る。
「はぁはぁ」
そしてやっと生徒会室にたどり着く。
「本当に助かったよ、ありがとう」
「は、はい」
こんなに疲れたのは久しぶりかもしれない。
体育では極力体力を使わないようにしている。
だからこういう、いざという時に困ってしまうのだ。
「それじゃあまた頼むよ。もう授業始まるからあとは私だけでやっておくよ」
「分かりました。それでは失礼します」
そう言うと霜月先輩はニコニコで手を振って見送ってくれた。
今までクールな人だと思っていたから今回でだいぶ印象が変わった。
これはギャップ萌えというやつなのか……なんだか可愛い人だったな。
だけどあの人はあれでも頭がいい。
成績優秀、容姿端麗で学校では人気者だ。
だから怖いのだ。もしかしたら強がって資料を運んでいたのがバレているかもしれないという恐怖。
霜月先輩は勘が鋭そうだ——バレていなくとも怪しまれているかもしれない。
やっぱり筋トレ始めようかな……
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