友達作り
今日から七瀬さんの友達作りを手伝う。
七瀬さんは人と話すのが怖いと言っている。だけど勇気を出して話さないと友達なんて作れっこない。
まずは話しかけるところからだ。
色々友達を作れそうな方法を考えながら学校へ行く。
教室に着くと桃たちがまた三人で楽しそうに話していた。
教室に入る時にその三人から睨まれる。
「昨日のあいつマジでウケるよねー」
自分の席へ歩いていると桃の友達の一人がいきなりデカい声で言う。
こういうのは気にしたら負けだ。
俺は気にせず窓際の一番後ろの席に座る。
隣の席には昨日、公園で話した七瀬さんが座っていた——本当に同一人物なのか? メガネをかけているから綺麗な
それでも近くで見ると確かにすごい美人だ。クラスのみんなは気づいてないのか……
「おはよう七瀬さん」
「おはようございます清村さん」
「それじゃあ早速、今日の昼休みに話しかけてみようか」
「はい……」
◇◇◇
そして授業が終わりあっという間に昼休みになった。
「それじゃあ、あそこにいる女の子たちに話しかけてみようか」
そう言って四人の女子グループの方を指さす。
「分かりました」
七瀬さんは指さした女子グループの方へとゆっくり歩く。
女子グループの前に立ち止まり話しかける。
「あ、あの……」
「えっと、七瀬さんだっけ? どうしたの?」
四人の女子たちが全員、七瀬さんの方を見て返答を待っている。
「…………」
だけど七瀬さんは緊張しているのか黙り込んで立ち尽くしている。
このままだとまずい。
俺はガチガチに固まっている七瀬さんに近づく。
「七瀬さん、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
俺は七瀬さんの手を引っ張って逃げるように教室から出ていく。
とりあえず人がいない屋上へ行くか。
走っている時に七瀬さんが小さい声で言う。
「ごめん、ありがとう……」
「大丈夫、初めはみんなあんな感じだから」
屋上に着く——ここは人がいなくて風が気持ちいい。
ここなら落ち着けるだろう。
それよりもどうしよう、彼女は友達を作る前にコミュニケーション能力を鍛えた方がいいのかもしれない。
「七瀬さん、俺となにか会話をしてくれないか? 簡単にでいいから」
「えっと、それじゃあ。今日はいい天気です、ね?」
「えっと、そう……だね?」
「…………」
これは、かなりの難題だ。
二日前に桃と話した時の俺みたいになってしまっている。それになぜ疑問形なんだ……
「ごめん、今のは俺が悪い。それじゃあ、なにか趣味のことを話してくれないか?」
「じゃあ、最近読んだ本——最近『陽キャに彼女はできまくる』という本を読みました。主人公はクラスの中心人物でクラスの女の子と次々に付き合っていく話です」
なんだそのムカつくタイトルにイカレた内容は……面白いのか?
少しだけ気になってしまうのがムカつく。
「えっと、そうだな。七瀬さん一度タメで話すことはできる?」
「分かりました……じゃなくて、分かった」
「次は俺から質問するね……好きな食べ物は?」
「ラーメン、かな」
「趣味は?」
「読書」
「休日はなにをしてる?」
「本を読んでる」
「なるほど……」
なんか……想像してたのと違う。
俺が考えていたのは質問をしてその話をどんどん広げていって楽しく会話する。
それなのにさっきの会話は広げられる気がしなかった。
どうすればいいんだ……というかどうして俺とは話せるんだ?
「七瀬さん、俺とは普通に話せてるよね?」
「そう、だね……どうしてだろう。清村さんとなら緊張せずに話せる」
「それは多分……」
俺と七瀬さんが似た者同士だからだろう。
俺も人と話すのは少し緊張するけど七瀬さんとの会話は緊張しない。
つまりお互い友達がいない同士だから親近感が湧いて話しやすい、ということだ。
学校に一人でいる人とかなら普通に会話できそうだ。だけど残念ながら同じクラスにそういう人はいない。
ほかのクラスならいるかもしれない。
「七瀬さん——」
「清村さん……私、もう一回頑張ってみようと思います。じゃなくて思う」
まだタメが慣れないのかそう言い直す。
「七瀬さんがそう言うならそれでいいと思うよ。応援してる」
「ありがとう」
七瀬さんはそう言って屋上のドアを開けて、一人で教室へ戻っていった。
七瀬さんは俺が思っているより強いらしい——俺と似ているなんておこがましかった。
もう俺の助けなんてなくても友達ぐらいすぐに作れるだろう。
これからどうしよう……もう友達を作ろうなんて思いたくもない。
俺はこれから先、一生独りなんだろうか。
そう落ち込んでいると、屋上のドアがいきなり開く。
ドアの前には息を切らした七瀬さんが立っていた。
「私と、友達になってください!」
予想外のことでビックリして俺は目を丸くする。
まさか戻ってきてそんなことを言われるなんて思ってもみなかった。
彼女のことを信じてもいいのだろうか……二日前に友達と信じていた人から裏切られたばかりだからどうしても友達を作ろうなんて思えない。
七瀬さんの手は震えている。
俺の前では緊張しないと言った七瀬さんが今では緊張して手を震わせている。
ただ友達になるだけだ。そんなに重く考えなくてもいいのかもしれない。
学校で話すだけの関係なんてざらにある。
一生一緒にいようと言われているわけではない。
別れようと思えば別れられる、そんな考え方でいいのかもしれない。
「いいよ。なろうか、友達」
そう、信用しなくとも友達にはなれる。
だけど七瀬さんはそんな俺のひねくれた考えも吹き飛ばすほどの可愛い笑顔を見せてくれる。
「やった、嬉しい!」
可愛いと思ってしまった。
二日前に嘘告白をされて女の子を怖がっているはずなのに。
さっき『友達を作ろうなんて思いたくもない』と思ったことを忘れてしまうほど七瀬さんの笑顔は愛おしかった。
決して好きという感情ではない。
こんな顔を見れば誰でも愛おしいと思うだろう。
——こんな笑顔を見てしまえば少しでも人を信じてみてもいいのかもしれないと思ってしまう。
結局そのあとは七瀬さんと二人で昼ごはんを食べてから二人で教室へ戻った。
教室に入る時にまた桃たちに睨まれる。
それは俺だけではなく横にいる七瀬さんも同様に睨まれていた。
主に桃と一緒にいる友達がバカにしてきている。
桃は特になにも言ってこなかったが横で笑っていた。
なにもしていない七瀬さんまで巻き込まれてしまっている。
全部、俺のせいだ。
さっき、人を信じてみてもいいと思ったばかりなのにそんな思いが一瞬にして消える。
やっぱり人は信用できない。
友達も彼女も必要ない。
家族さえいれば充分だ。
もう俺は……
またひねくれたことを考えて勝手に落ち込んでいると横にいた七瀬さんが俺だけに聞こえるようにして囁く。
「私は大丈夫だから」
さっきまでは俺が助ける側だったのに今では七瀬さんに助けられている。
七瀬さんの横顔がすごく頼もしく見える。
君がそう言ってくれるなら今はこれでいい。
耐えていれば桃たちもすぐ飽きて、辞めてくれるだろう。
◇◇◇
午後の授業が終わって家に帰ろうと教室を出る。
なぜか落ち着かない。後ろから気配を感じる。
学校でつけてくるとしたら二人しかいない——大体誰かは想像がつく。
振り向くとそこには七瀬さんが立っていた。
「どうしたの?」
「友達って一緒に帰ったりする、でしょ?」
どうやら彼女は今まで友達がいなかったから友達との付き合い方が分からないらしい。
無言で後ろをつけられるのは正直怖い。
七瀬さんは少し不器用なのかもしれない。
「そうだね。途中まで一緒に帰ろうか」
そして俺たちは途中まで一緒に帰った。
初めはお互い無言だったが俺がおすすめの本を聞くと七瀬さんはペラペラと喋るようになった。
正直、知らない本の方が多かったけど知っているタイトルも何度か出てきた。
気づけば家の近くの公園まで来ていた。
俺たちはそこで別れた。
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