6 仕事が早いな
姉貴の買ってきたホラーゲームは、最近とても評判のいいホラーゲームだ。バッチリ18歳以上向けであることが書かれているのを見るに、とんでもなく恐ろしいかとんでもなくグロいのだろう。
ライヴダンジョンのアプリはある程度配信に実績があれば、収益こそダンジョン配信より少ないもののゲームの実況やおしゃべり配信もできる。最近バズり散らかしていたので実績的にゲーム実況が解禁されていた。
機材を用意し、さっそくホラーゲームの配信を始めた。
「おはようございます、蓮太郎です! しばらくダンジョン配信を休んでホラーゲームをやっていこうと思います!」
『悲鳴絶叫期待……!』
『わくわく……!』
そういうわけで、まずきょうは第一章である、主人公の美少女が囚われている洋館の脱出を目指すことにした。映像は主人公の女の子の目線なので、背後からクリーチャーが現れても音がしなければ気づかない仕様だ。ちょいちょい後ろを確認するのであまりビックリはしない。
進んでいくと洋館の出口が見えた。出る、を選択して、これで洋館を脱出できた! と思った瞬間、目の前に\ぬっ/と巨大な化け物が現れ、思わずひっ、と喉が鳴る。でもそれだけだ。
『蓮太郎どうした』
『悲鳴はないのか』
不思議と、ホラゲー配信では悲鳴が出ない。毎日ダンジョンで悲鳴をあげているうちに、ちょっとやそっとのことで悲鳴が出なくなったらしい。
まあ現実に存在しない、ゲームの中のクリーチャーと、リアルに存在して追っかけてくるレッドドラゴンでは怖さが違うので仕方がない。とにかく悲鳴をあげないうちに第一章をクリアしてしまった。続きはまた明日にしよう、と配信のコメント欄を確認する。
ダンジョン配信よりずいぶんと同接が少ない。やっぱり僕は悲鳴で売っていくほかないらしい。そんなにいい悲鳴なのだろうか。
◇◇◇◇
51 名無しさん
すごく平然とホラゲーしてたな蓮太郎
52 名無しさん
そりゃそうだきのうレッドドラゴンに追い回されたひとだよ? ゲームのお化けなんて怖くないんよ
53 名無しさん
いまの蓮太郎ならジュラシック・パークのヴェロキラプトルかくれんぼやらされても怖くないと思うよ
54 名無しさん
まあ鯨座旅団とか金のリンゴ組とか、大手クランがレッドドラゴン暴走について調査してるみたいだから、その結果を待つしかないと思う
55 名無しさん
アイテムでレッドドラゴン暴走させるって、どう考えてもゴルゴンの首の戦闘力では無理な話じゃないか
56 名無しさん
ところがどっこいゴルゴンの首には「罠師」がいるからね 大型モンスターを拘束してアイテム埋めるのも不可能じゃないんだよなあ
57 名無しさん
蓮太郎が自由にダンジョン配信して、安全に強くなりつつ悲鳴をあげてくれるのを期待してるんだけど、どれくらいで解決するかなあ
58 名無しさん
ここはまた署名運動じゃね? 迷惑系ダンジョン配信者は端的に言って害悪だよ
59 ライヴダンジョンの中の人
ライヴダンジョンの中の人です きょうの上層部の会議で、迷惑系配信者の規制のために規約を一部改訂して明日から適用することになりました これでゴルゴンの首は身動き取れないはず
60 名無しさん
ファッ!? 中の人降臨はさすがに草だけど仕事が早いなライヴダンジョン……
◇◇◇◇
大して盛り上がらないゲーム配信ののち、昼ごはんにレトルトカレーなんぞを食べながら地上波をザッピングする。
なにやらどのチャンネルもニュースのようだ。普段ならポンチなバラエティ番組しかやっていない時間なのになにごとだ、と思ったら僕がレッドドラゴンに追いかけられる動画が使われていた。
「ライヴダンジョン社は明日より規約を一部変更し、迷惑系配信者などと呼ばれる悪意あるダンジョン探索者からダンジョン探索の資格を順次剥奪することを決定しました」
「ホゲァ!?!?」
変な声が出てレトルトカレーを噴きかけた。また壁をドンドンされる。なんで日中いるんじゃ、と思ったがお隣さんの奥さんは専業主婦だったはずだ。仕方がない。同じタイミングで赤ちゃんの泣き声まで聞こえた。すんません。
急いでカレーをかっこみ、スマホからボヤイターを見る。見事に「迷惑系」「ダンジョン配信」などがトレンドに並んでいる。「ゴルゴンの首」もある。さっそくライヴダンジョンの公式さんのポストをリポストして、「またダンジョンに戻れるかな?」とポストしたら、「蓮太郎さんの悲鳴を聴けるのを楽しみにしてます!」というような内容のリプライがどしどしついた。
強くならねば。そして視聴者の期待する悲鳴を、もっと強いモンスター相手に叫ばなければ。
そう思っていたら「ゴルゴンの首、ボヤイターからも凍結喰らってて草」と流れてきた。スクショも貼られており、確かにゴルゴンの首はボヤイターでも凍結されているようだった。
でもこれで恨まれないかな。ゴルゴンの首は悪いことさえしなければ腕の立つ連中だとも聞いている。なんだか不安だ、と思っていたら姉貴からメッセージが来た。
「すまん、きょうは遅くなるから1人で晩飯食っててくれ」
会社勤めの大変さにウムウムと頷き、僕は夕飯の買い出しに向かった。(つづく)
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