5 妙だな……
迷惑系ダンジョン配信者は実際に危険で、真っ当な配信者の命を危うくしている……というノリのニュースを眺めて、僕は「へえー」と思いつつパスタをもぐもぐする。おいしいパスタソースはとてもおいしい。語彙が死んでいるぞ!
「あんたね、危機感がないのよ。実際きょう変な輩に囲まれて鯨座旅団の義堂先生に助けてもらったんでしょ? もうちょっと危機感持ちなさいよ。まあ義堂先生と薔薇営業ってなったらそれもアレなんだけど」
「薔薇営業?」
「あーいやいやなんでもない。分かる人だけ分かればいいの。義堂先生がそういう人じゃないのは妻帯者なので分かってるしね……」
なんの話かさっぱりわからない。姉貴はパスタをモグモグしつつ、一瞬真剣な目をした。
「でもなんで銀座三越ゲートがバレたんだろ。もしかしてライヴダンジョン側にゴルゴンの首に協力してる輩がいる……?」
「姉貴、あんまりそういうこと言ってると陰謀論にハマるよ。陰謀論にハマると期日前投票がイカサマとか言い出すわけだからさ」
「それもそうか。それにしてもこのパスタうまいね、高いだけある。でも姉貴のことなんか気にしなくていいんだからな?」
「や……姉貴は親代わりに僕のこと育ててくれたわけだしさ……」
「まあ実家んことは考えないでおこうか」
「うん。明日もがんばろ」
パスタを食べた食器を洗い、僕は疲れていたのでシャワーを浴びてさっさと寝ることにした。
さて次の日。きょうはスカイツリーゲートからダンジョンに降りることにした。ワクワクと進んでいくと、なにやら地響きが聞こえた。
「なんだろ」
顔をあげて遠くをみる。土煙が立っている。
なにか、かなり大型のモンスターが突進してきているのかもしれない。とっさに逃げる体勢をとる。
「なんかイレギュラーが起きたぽいです! 逃げます……ウワアアアア!!!!」
『悲鳴聴けたのは嬉しいけどこれはやばいんじゃ!?』
『唸り声から察するにレッドドラゴンだ!』
『大手クランでも怪我人出るやつじゃん!!』
全力疾走する。もはや悲鳴も出ない。自律ドローンカメラは追ってくるモンスターの様子を捉えている。
『レッドドラゴン、錯乱してないか!?』
『明らかに人間にパニックにされてるやつだ!』
『蓮太郎逃げてえええええ!!!!』
ごおおおおん!!!! とレッドドラゴンが吠える。まずいぞ、これはまずい。僕は迷いなくデバイスの「緊急事態」のボタンを押した。いま近くのダンジョンに潜っている配信者全員に、緊急事態が起きていることを知らせる機能だ。
「誰かと思えば福男かよ! とんだ福を呼び込んだな!」
「よっしゃ、助太刀する! というかお前は一旦引け!」
知らない配信者たちが続々と集まり、レッドドラゴンを堰き止めてボコる。義堂さんやマツリさんの姿もある。大手クランのパーティ複数と中堅どころに取り囲まれたレッドドラゴンは、あっという間に倒された。
僕は遠くのヤブに潜んで様子を見ていたが、レッドドラゴンが沈黙したので見に行く。
「なんでこんな浅い階層にレッドドラゴンなんつうやべぇのが出るんだ?」
「明らかにおかしい挙動だったよな、ほとんど火なんか吐かないで泡ばっかり吐いてた」
中堅クランの人たちがレッドドラゴンの口を開けて確認する。なにかきらっと光るものが押し込まれていた。
「モンスターを錯乱状態にさせるアイテムだ」
義堂さんが忌々しげにそう呟く。さすがに知識としては知っていたが、なんでレッドドラゴンにそんなものを?
「おい福男、じゃなかった蓮太郎、スカイツリーからダンジョンに入ることは誰かに言ったのか?」
義堂さんが僕を見た。
「いえ……武装ロッカーに連絡しただけです」
「フゥム。お前さんしばらくダンジョン探索は休んだほうがいいかもしれないな。安全に入れるようにするから、その辺は俺たち先輩に任せとけ」
「わかりました」
僕とてレッドドラゴンに追いかけられるのは嫌だ。大手クランでも複数パーティがかりで戦わねば勝てないのだから僕なんか一瞬で消し炭だ。素直に帰ることにした。
◇◇◇◇
41 名無しさん
ヤバすぎて悲鳴聴くどころじゃなかった
42 名無しさん
周りに強いクランがたくさんいて助かってよかった
43 名無しさん
こういうので死なれたら嫌だよ、せっかく人気配信者になったのに
44 名無しさん
同じくらいの時間帯にゴルゴンの首のやつら潜ってたぽい
45 名無しさん
妙だな……
46 名無しさん
レッドドラゴン戦にいた?
47 名無しさん
いやいなかったね
48 名無しさん
妙だな……
49 名無しさん
妙だな……
50 名無しさん
まあ勘繰ってもどうしようもないし詳細が明らかになるのを待ちましょう
◇◇◇◇
とうぶんダンジョン配信ができない、というので、しょんぼりして帰ってきた。
姉貴がなにやらテレビの前でゴソゴソしている。何してんの? と聞くと、なにやら最新のゲーム機を用意していた。いつ買ったんだ。
「あんたとうぶんダンジョン行かないんでしょ? 配信者の実績も溜まってダンジョン以外の配信できるよね。ダンジョン行かないならホラゲーやればいいよ」
「ほ、ホラゲー!?」
確かにダンジョン配信の実績はじゅうぶん溜まって、ライヴダンジョンのアプリでダンジョン以外のものを配信していい基準まで来ている。
しかしなんで会社勤めして働いているはずの姉貴が僕の配信を見ているんだ? まあありがたく明日からしばらくホラーゲーム配信をすることにした。(つづく)
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