4 人間関係はパズルじゃない
ダンジョンの入り口のロッカーは、前もって連絡しておくと武器などの装備を移動しておいてもらえる。今朝あらかじめ銀座三越ゲートに連絡しておいたので、銀座三越に到着するころには武器一式が届いていた。
たいへん機嫌よくダンジョンに入る。雷門ゲートと違ってこっちは少し荒涼とした印象の風景が広がる。配信機材の電源を入れ、「こんにちは! きょうもレベリングのために雑魚モンスターと戦っていきます!」と宣言する。
それから5分もしないうちに、僕はなにやら不審な連中にぐるりを取り囲まれていた。
もうダンジョン配信どころではない、早く帰りたい。相手はニタニタしている。
『蓮太郎そいつらがゴルゴンの首だ!!』
『逃げてえええええ』
『そういう悲鳴はお呼びじゃない!!』
どうやらまんまとゴルゴンの首の策略にハマってしまったようだった。どどどどうしよう。
連中はただニタニタしながら僕を取り囲み、僕が怯える様子を撮影している。悲鳴をあげたらやつらの思うツボなのでぐっとこらえる。
「なあ。お前最近調子乗ってるよな。まあバズれば調子乗るのもしょうがないよなあ」
1発蹴られた。大して痛くないがムカっとする。
もう1発蹴られた。痛くないのが腹立たしい。
「……この程度で、僕が悲鳴をあげると思ってるのか?」
「ああんっ!?」
ゴルゴンの首の連中が、ばっと襲い掛かろうとしたそのとき。
「てめえら、なにやってる!!!!」
怒鳴り声が響いた。顔を上げればヒゲの、ごつい男性配信者の姿。
「うわやべえ、義堂だ!」
「逃げろ! まともに相手したら命がいくつあっても足んねえぞ!」
知っているぞ。この人は鯨座旅団の義堂さんだ! 鯨座旅団もかなり大手のクランで、主に武技の動画を配信している。
なかでも腕が立つのが、この義堂さんだ。この人より体術の上手い人はそうそういない。
「大丈夫か、福男」
「あ、は、はい……助けてくださりありがとうございます……あと福男じゃなくて蓮太郎といいます」
「そうだったな。つい初見の印象で呼んじまった。金属スライムの大群に追いかけられるのが初陣というのはツイてるよ、あんた」
そうなのだろうか。
「あいつらはゴルゴンの首だな?」
「そうらしいです」
「卑劣だ」
義堂さんは吐き捨てる。
「しかしあいつらの思う通りにさせなかったあんたは偉いよ。立派なもんだ」
「思うとおり、というのは、悲鳴をあげない、ということです?」
「そういうことだ。あんたは悲鳴で売れたんだろ? その商売にただ乗りしようとしてたんだ、あいつらは……」
義堂さんは眉間に皺をよせた。
そしてやっぱり悲鳴で売れてたのか、僕。
◇◇◇◇
31 名無しさん
蓮太郎えらい! ゴルゴンの首に囲まれても悲鳴あげなかった!
32 名無しさん
悲鳴をあげなかったのには強い意志を感じるよ、蓮太郎の悲鳴ファンだけどきょうは胸熱すぎてジンワァリしたよ
33 名無しさん
そして義堂先生との薔薇営業待ってました
34 名無しさん
薔薇営業て……ナマモノはお触り禁止ですよ
35 名無しさん
でも義堂先生がメンターになってくれたら蓮太郎もっと強くなってもっとやべぇモンスターにすげえ悲鳴あげてくれるんじゃないの……?
36 名無しさん
薔薇営業はともかく蓮太郎がもっと奥に進んでくれるのは期待しかない ゴブリンシャーマンに出くわして悲鳴あげるの楽しみにしてる
37 名無しさん
あんまり義堂先生と蓮太郎の薔薇営業! みたいなこと言わないほうがいいぞ マジになったらドン引きするんだろ?
38 名無しさん
俺は断固マツリちゃんと蓮太郎の関係が発展するのを観たいです
39 名無しさん
まあ人間関係はパズルじゃないから、無理にリアルの人間でカップリング考えるのはやめような
40 名無しさん
でも義堂先生が助けてくれてよかった 俺たちの蓮太郎をオモチャにしようとしたゴルゴンの首許すまじ
◇◇◇◇
義堂さんはきょうはパーティでの配信ではなく、一人で武技を磨きに来ていたそうだ。
圧倒的な体術で、スライムを一撃でやっつけるのを見せてもらい、そのコツを教わってやってみたら思ったより簡単にスライムが倒せた。義堂さんすげー。
「次にあいつらに囲まれたらさっきの要領でぶん投げるといい。人間のほうが逃げ出すぶん簡単だ」
「わかりましたっ!」
「いい返事だ」
義堂さんはダンジョンの奥へと消えていった。倒したスライムから剥ぎ取った異星由来素材をかかえてダンジョンを出て換金する。
これまたけっこうな額になって目が点だ。スライムもたくさん倒せばこうなるのか。きょうはちょっと高いパスタソースでも買って帰るか。
アパートに帰ってくると姉貴がテレビをザッピングしていた。地上波のニュースのようだ。どのチャンネルもニュースである。政治家のスキャンダルかと思いきやダンジョン配信の話題らしい。
「見てみな蓮太郎、きょうのあんたの配信を観て、ライヴダンジョン社に迷惑系配信者を取り締まってほしいっていうWeb署名が1000人分届いたんだって。あんた世の中変えてるよ」
「うぼぇ!?」
テレビにはきょうの僕の動画が堂々と流れている。いや著作権、と思ったが、ライヴダンジョンのアプリで動画配信をするとその動画は自由に研究などの目的に使われるという規約があったはず。それがニュースに使われた形らしい。
パスタを茹でつつ、僕は事態がどんどんでっかくなるのにビクビクしていた。どうなるんだ、僕は。(つづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます