3 ゴルゴンの首

『きたああああああ!!!!』


『悲鳴絶叫キター!!!!』


『ああっ わたしのサドっ気が火を噴くぜ!!!!』


『蓮太郎の悲鳴すこすこのすこおおおお!!!!』


 な、なんだ……!?

 凄まじい勢いの投げ銭! すごい速さで流れるチャット欄! 僕は目を点にしながら、ストーンゴーレムから逃げていた。


「あっ! 蓮太郎クン! どしたの!?」


 偶然通りかかったマツリさんが声をかけてくるが、僕は悲鳴をあげるしかできない。


「おぎゃあああああああ!!!!」


「おぎゃあってなにか生まれちゃうの!? てゆか追っかけてくるのストーンゴーレム!? 第一層で!?」


 やっぱり第一層でストーンゴーレムが出るのは異常事態らしく、金のリンゴ組の人たちはスチャッと武器を構えて隙のない陣形をとった。


「蓮太郎クンは下がってて! ここは先輩たちに任せなさい!」


「はいいいい〜!!!!」


 あっという間にフルボッコにされてしまったゴーレムを、恐る恐る見にいく。ゴーレムは粉になり、コアを破壊されて動かなくなっていた。


「なあマツリ。今回の手柄は蓮太郎くんに譲らないか」


 金のリンゴ組のメンバーがそう言う。


「構わないけど……まあ我々からしたらゴーレムの儲けなんて大したことないしね。ほら」


 マツリさんはなにやら拾い上げて僕に渡してきた。ゴーレムのコアから採取される異星由来素材だ。これを換金すれば相当な額になるうえ、ダンジョン学の研究も進むことであろう。


 預けられた異星由来素材を持って、呆然と立ち尽くしていると、マツリさんが話しかけてきた。


「ほら、悪いやつにかすめられる前に行きなよ。最近は迷惑系ってやつらも目立ち始めたしさ」


「あ、ありがとうございます……」


 僕はすごすごとダンジョンを後にした。出口でゴーレムから採れた異星由来素材を換金すると、いままで18年の人生で見たことのない額になった。

 帰り道、僕はちょっと高級路線のスーパーに寄って、和牛の焼き肉用カルビとお高い焼き肉のタレを買った。家に帰ったら姉貴はまだ来ていなかったので、焼き肉の支度をし、姉貴にメッセージを送っておいた。

 ついでに配信のほうを確認する。すでにアーカイブの再生が1万を突破していた。

 ボヤイターも見事にバズっていて、これはなにかの悪い夢では……? と思ってしまう。


 悪い夢ではないのだ、むしろいい夢なのだ。


 なんとか納得したところで姉貴が帰ってきた。おいしい焼き肉をモグモグ食べてたいへん満足した。そろそろこたつを片付けたいので、焼き肉の匂いもしみてしまったことだし明日はこたつ布団を洗濯しよう、という話になった。


 ◇◇◇◇


 21 名無しさん

 蓮太郎、突然めちゃめちゃいい音響機材使い始めて草


 22 名無しさん

 姉のツテってことは姉がいるのか しかしあれだけクリアな音ってなると相当高級品では


 23 名無しさん

 今回も金のリンゴ組にばっちり映ってたね、金のリンゴ組の動画を蓮太郎目当てで観てたやつ挙手


 24 名無しさん

 ノ


 25 名無しさん

 ノ


 26 名無しさん

 いるんかい 大草原不可避


 27 名無しさん

 おい大変だ、ゴルゴンの首のやつらが蓮太郎狙いの犯行声明出してるぞ(ゴルゴンの首のチャンネルURL貼り付け)


 28 名無しさん

 ファッ!? やべえ奴らに目をつけられたな蓮太郎


 29 名無しさん

 ゴルゴンの首、マジで迷惑系の勢力として最悪のやつらだからな……だれか蓮太郎に教えてやってはくれまいか


 30 名無しさん

 悲鳴は楽しくあげてるからいいんよ、無理やりあげさせられる悲鳴はノーサンキューなんよ


 ◇◇◇◇


 夕飯を食べたあとぼけーっと金のリンゴ組の配信を眺めていると、姉貴が急にリモコンを奪ってテレビを操作した。地上波で観たい番組でもあったのかな、と思ったらなにやら配信のようだ。「ゴルゴンの首チャンネル」とかいうやつだ。初めて見る。


『そういうわけで、なんか最近悲鳴が人気で調子に乗ってる某配信者を、フルボッコにして弊チャンネルで悲鳴聞き放題にしようと思いまーすw』


「たぶんこれあんたのことだよ」


「は?」


「このゴルゴンの首ってやつら、迷惑系の配信者としては最強クラスのとこ。他の配信者の武器壊して迷惑かけたりモンスター煽って襲わせたりする動画ばっかり上げてて、まだ迷惑系対策の規約がそんなに充実してないから対応できないらしいんだ……ライヴダンジョン社も困ってるみたい」


「姉貴ずいぶんと事情通だね」


「ダンジョン配信大好きでライヴダンジョン社の公式さんをボヤイターで追いかけてるからね……とにかくしばらくの間はいつものテリトリーじゃないところを回ったほうがいいと思う」


「分かった。ありがと姉貴」


 そうか、僕は悲鳴がよくてバズっていたのか……。

 明日はいつもと違うダンジョンゲートから入ろう。どんなモンスターに追いかけ回されるのかなあ。戦える相手がいいなあ……。


 寝る前にボヤイターを開いたら、たくさんの人から「ゴルゴンの首に気をつけて」というリプライが来ていた。ありがたい。

 潜る入り口を書いてしまうとゴルゴンの首にもバレてしまうので、なにもポストしないで寝た。


 さて翌朝。こたつ布団を外して洗濯機に放り込み、カーテンに消臭スプレーをプシュプシュしてからアパートを出た。

 いつもは雷門ゲートからダンジョンに入っているが、今日は銀座三越ゲートからダンジョンに入ることにした。とりあえずのところついてくるやつなどはいない。よし、いっちょ頑張りますか。(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る