第2冊目 星座でぎょうざとか便座とかボケる男子いたよね

わたしは天才。

わたしは青春部で青春を謳歌するのだ。

未完の小説を完成させてやる。

でもまず、そのためには…

「もうひとり部員を集めて、同好会をつくらないと…」

○○○

二日前、旧校舎の屋上で黒猫さんとした約束。小説のこと。青春部のこと。はっきりいって、何も進んでいなかった。人生で初めての「友達の連絡先」に浮かれまくって、黒猫さんとどうでもいいことをやりとりしていたせいで、部員(同好会員)の勧誘を全くしていなかったのだ。黒猫さんは、「最近葉っぱが緑色だね!!」なんていうくだらないメッセージにも、「わたしにはモスグリーンとミントグリーンの差がわからないからご教授願いたいわ」などと素敵な返信をしてくれるので、止まらない。ちなみにモスグリーンとミントグリーンの差はわたしもよく知らない。

同好会に必要な人数は三人、部活は五人。まずは同好会からはじめなくては…!

○○○

勧誘。わたしと黒猫さんは大きな壁に激突した。黒猫さんは転校生。わたしはぼっち。

…ツテがない。どうしようもない。

個性のかたまりの転校生ということで、挨拶をかわせる人は既に何人かできている黒猫さんではあるが、わたしにくっついて回る上、口を開けばイカの塩辛or青春部、なんていう極端すぎるトーク内容のおかげで、ウマの合う友達はまだできていないようだ。わたしはとやかく言える立場ではないのだが…。

「城谷さん、イカの塩辛の塩辛さの上限ってどのくらいなんでしょうね」

悶々と考えていると、黒猫さんが話しかけてきた。

「わたしには分かりようもないよ…」

ほおに汗を垂らしながら言う。黒猫さんは、

「城谷さんならご存じだと思ったのだけれど…」

と落ち込んでいる。わたしのことをなんだと思っているんだ。

「ところで黒猫さん、勧誘どうするの?」

「勧誘ねえ…全ての教室のテレビをハッキングしてわたしの演説を流せば少しは…」

「どんな発想だ!!そもそもどうやってハッキングするの!?」

「地元の友達に頼んで…」

「また出た!!何者!?」

黒猫さんの発想は普通じゃないというか少し変というかなんというか。

「じゃあ城谷さんは案はあるの?」

「そうだねー、ありきたりだけどポスターをつくるとか?」

「そういえば栗きんとんのきんとんってどういう意味なのかしら?」

「『そういえば』が背負いきれる話題のとび方じゃないよ!!」

黒猫さんは自分だけの世界を持っている。そこがちょっと羨ましくもある。

やいのやいの、それかけた話題を軌道修正しつつ脳の空いたスペースで勧誘の案を考えていると、声が降ってきた。

「あんたらが黒猫さんと城谷さあん〜?」

びくっ。体が震えた。見上げると、黒猫さんと同じくらいの身長で、銀髪のツインテール、タレ目の美少女が立っていた。

「あ、あの、どちら様で…?」

オドオドしながらたずねると、美少女は、

「うち二組の夜空伯よぞらはく〜。なんか面白いことしてる人達がいるって聞いてさぁ〜。青春部?だっけ?入部したいなあ〜って思ってえ」

と、萌えアニメの気だるげヒロインのような口調で(もう一度言う、見たことはない)こたえた。

「あらそうなの?もちろんいいわよ夜空さん。」

「その呼び方堅苦しいからさあー、伯って読んでよ!うちも黒っちって呼ぶしぃー。」

「わかったわ、伯。」

夜空さんがこちらを見る。

「めめっちって呼ぶからねえ」

「……伯さん。」

伯さんは首を傾げながら、

「まあいいか。」

と笑った。

○○○

とりあえず同好会を立ち上げることができた。いちおう部室(狭くて古い余っていたものだが)もゲットした。それは嬉しいのだけれど、わたしと黒猫さんの噂が他クラスまで広まっていたことは衝撃だった。うん、まじか。

「我ら青春の化身なり」というグループメッセージも誕生した。ちなみに命名は黒猫さんである。化身かリーダーかで伯さんと黒猫さんが揉めていたが、最終的に伯さんが「冷静に考えたらどっちでもよくね?」となり、黒猫さんの案が採用された。黒猫さんは満足気だった。

ついに友達の登録が二人になった喜びでわたしは今にも崩れてしまいそうである。

○○○

家に帰ると、さっそくメッセージを送った。

城谷めめ子「話しそびれたけど、わたしが青春部で達成したいことは、小説を書き切ることです」

すぐに既読がつき、返信もきた。

黒猫さん「知ってる」

城谷めめ子「あなたじゃない」

黒猫さんのマシンガントーク(イカの塩辛9割どんぐり1割)を全身に受け止めていると、伯さんからもメッセージがきた。

伯さん「小説とかめめっちすごお〜い♡黒っちはどうなの?」

黒猫さんがやり遂げたいこと、か。たしかに何なのだろう。青春を謳歌する!!とは聞いていたけれど、知らなかったな。

黒猫さん「それはういうい言うわ」

城谷めめ子「もしかしておいおい…?」

意外にも秘密だったらしく、聞くことはできなかった。ただ、ずっと隠し通すつもりではないようで、嬉しい。

黒猫さん「そういう伯はどうなの?」

わたしは指を止めた。わたしがしようと思っていた質問と全く同じ質問を、黒猫さんが先にした。

伯さん「星かなぁ」

城谷めめ子「星?」

わたしは目を丸くした。なぜかは分からないけれど、伯さんは星を見るタイプではないと思っていた。

伯さん「柄じゃないねってよく言われるけどねえ」

ギクリ。わたしの考えていたことだ。

伯さん「ずっと、星と宇宙が好きでさ。でも、一緒に夜空見上げてくれる友達なんていないし、最近見てなかったんだよね笑」

笑、とつけているものの、伯さんが笑っていないだろうということくらい、人付き合いに慣れていないわたしにも分かる。

黒猫さん「じゃあ今から見に行く?」

伯さん「え、」

え。わたしも声を出す。いくらなんでも急すぎる。でも…

城谷めめ子「わたしも行きたいなぁ…。」

星座占いくらいでしか星とは関わらないわたしがついて行っても楽しくないかもしれないけれど。

伯さん「まじぃー!?やば超嬉しいプンプン丸だわ」

黒猫さん「プンプン丸とは何?城谷さんはご存じ?」

城谷めめ子「存在は知ってるけどこの文章における意味はわからない」

○○○

しっとりとした空気が肌に触れる。夏の夜。ホタルか何かがいることを期待したが、いなかった。この場にいるのは、わたし、黒猫さん、そして満面の笑みの伯さん。

「オリオン座はどこ?」

「黒っち、今は冬じゃないよ」

空を見る。わたしは思う。何故こんなにも美しいものをわたしは今まで小説の題材にしてこなかったのだろう。田舎と都会の間の存在であるこの町で、ここまでのものが見られるとは。

「うちが小学生の頃よく来てたスポットだよお」

伯さんは微笑む。小さな子供のようだった。

「こいぬ座は?」

「黒っち、それも冬の星座だよ」

空気を胸いっぱいに吸い込んだ。夜空に白銀の輝きが放たれている。

「綺麗だね」

わたしが言うと、伯さんはうなずいた。

「うちは将来宇宙に行くんだぁ〜。」

わたしもうなずいた。

「素敵な夢」

黒猫さんはひとりで考え込んでいる。

「ねえ、ふたご座は?」

「…黒っちって、冬生まれ?」

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