第27話 細谷 淳平 ⑦
俺はもう、決めた。
貴美が何と言おうと、俺の彼女にする。
今日は、その話をする、絶対に!。
「大丈夫? 私たちも一緒に行こうか?」
「いいよ、大丈夫だから・・・・本当にありがとうな、二人には感謝してる」
「こっちこそゴメンね、私たち、とても残酷な事を言っているのは解ってるの。でもね、でも・・貴美ちゃんに最後くらい、幸せになってもらいたいって・・・・」
高坂さんは、この話になると、いつも泣き出してしまう。
女子の涙は、正直あまり見たくはない。
それでも、俺たちは志を同じくする仲間だ。その気持ちは痛いほど解るし、俺も感謝している。
「ほら、高坂さん、泣かないで、細谷君が行きにくくなっちゃうから。私も高坂さんと同じよ、本当にありがとう。こんな事、細谷君にしか頼めない。貴美ちゃんを、幸せにしてあげて」
そう言い終わると、二人は帰っていった。一人になると少し寂しいけど、俺は決意新たに病院へ向かう。
高坂さんの言葉が頭を過ぎる「最後くらい、幸せに・・・・」
なんだって貴美ばかり、そんな不幸にならなければいけないのか、と俺は世の不平等に苛立っていた。
最後くらい。
病院へ向かう俺の顔は、もう我慢に我慢の顔だったろう。
病室に入ると、貴美のお母さんだけが病室にいた。
貴美は入浴中だそうだ。体からは色々チューブが付いているから、入浴も一苦労らしい。でも、それももう外すのだと言っていた。
「それじゃあ、貴美さんは回復へ?」
「だったら良かったんだけどね・・お医者さんが、もう必要ないからって。残りの時間を、楽しいものにしてあげてくださいって・・・・」
本当に、今日は女性の涙を沢山見る日だな、と思う。
こんな時、俺は貴美の母親になんて言葉をかけるのが正しいのだろうか。
沈黙は涙を助長する。だから俺は、思い切ってお母さんに話す事にした、「娘さんと、お付き合いさせてください」と。
それでも、お母さんは俺に何度もお礼を言いつつ、貴美の意志を尊重したい、俺の傷を増やしたくないと、貴美と同じ事を言うのだ。
こうして俺は、一つの決意を固めた。お母さんに、貴美さんと二人で話がしたいと申し出て、入浴から帰った貴美を誘って、誰もいない談話室へと俺たちは向かった。
「貴美、聞いたよ、それ、取れるんだって? そしたら外出出来るんじゃない?」
「そうだね、これからは自宅療養になるから、出られるね」
「あのさ、そしたら一日だけ、一日でいいから俺に貴美の時間を貰えないかな? フラれた俺が言うのも何だけど」
「・・いいのかしら、私のために淳平君の時間を割いてしまって」
「なあ、貴美は俺の事、嫌いか?」
「別に、嫌いではないよ、でも・・」
「ならいいんだ。嫌いでフラれたんじゃなければ、俺にもまだ権利があるよな。退院したら、俺とデートしてほしい」
「・・淳平君が思っているほど、私、体の自由が利かないよ、それじゃあ淳平君がつまらないじゃない」
「違うんだ、そうじゃなくて・・本当はもっと綺麗な景色の場所で言うつもりだったけど、ここで言うよ、貴美、俺と結婚してくれないか」
貴美の表情は、明らかに困惑していた。それは嬉しさと悲しさの最大限に見えた。
俺はこの時の顔を、生涯忘れないだろう。
きっと何年経っても、これ以上の表情に巡り会うことが無いってくらい。
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