第24話 細谷 淳平 ④

 これが休みの日だったら、きっと何を着て行くか相当迷ったことだろう。

 今日が平日で、高坂さんや島崎さんが一緒だから、学校の制服が無難だ。

 俺は一度家に帰ったのに、そのまま制服で病院へ向かった。

 病院の入り口には、島崎さんだけが居て、高坂さんはまだ着いていなかった。


「あれ? 高坂さんは?」


「あ、うん、一度お見舞い取りに行くって」


「そっか」


「あのさ、細谷くん、私ね、中谷さんとは、中学時代も一緒にバレーやってたんだ」


 そう言うと、島崎さんは中学時代の話を始めた。

 真面目で誰にでも優しくて、美人で勉強も出来て、自慢の友達だったって。

 だから、彼女の力になってあげて、と。

 なんだ? 最後の所が引っかかるな?

 島崎さんが友達思いだってのは解ったけど、女友達って、ここまで友達の為に尽くせるものなのか?

 程なくして、高坂さんが手を振ってこっちに走ってきた。

 そんなに慌てなくても・・・・え? 私服? なんで?

 俺たち浮いちゃうじゃん。

 に、しても、高坂さんの私服、いいッスね。女子って、こういう制服から私服へのギャップ、って言うんですか? いいッスよね、はい、有りだと思います!

 俺が高坂さんの私服に鼻の下を伸ばしていると、島崎さんが、とっても怖い顔で俺を睨みつける。

 ・・・・わかったって。

 高坂さんと島崎さんは、慣れた感じで病室まで俺を案内する。

 するとそこには少し顔色の悪い少女が一人、ベッドに座っていた。

 その横には母親だろうか、俺は一度会釈して部屋に入る。

 ベッドの彼女は、驚いた表情で俺の顔を見る、え? 何? 何かやっちゃった? もう? え? まだ何もしてないんだけど。


「ちょっと、真子ちゃん、澪ちゃん、まさか本当に連れてきちゃったの?」


 そんな言葉を発する彼女は、そうだ、紛れもない、中谷さんだ。

 あんなに活発だったのに、まるで茶道部か文芸部にでもいそうな長いストレートの髪を下ろした清楚な少女は、かつての印象からは程遠く、まるで儚い花のようだった。


「あの、初めまして、俺、細谷 淳平と言います。高坂さんと島崎さんの友人で、南高のバレー部です」


「・・・・あの、はい、知っています」


 ん? やっぱり知っている?

 俺が目で合図をするよりも早く、二人は中谷さんのお母さんと部屋を出て行ってしまった。

 ・・・・ちょっと、ちょっとちょっと・・・・なにー?

 どうしろって? 困る、困りますから、この状況! 中谷さんも、困り果ててるじゃん! ああ、もう下向いて真っ赤だよ・・・・真っ赤?

 とりあえず、俺は母さんが買ってきてくれた小さな花束を手渡す。


「わあ、凄い、いいんですか? うれしい!」


 やっぱり笑うと可愛いな。

 俺は一瞬、去年の夏に見た中谷さんの爽やかな笑顔と重ねた。

 病名を聞く前だと言うのに、俺は心から早く良くなればって思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る