第22話 細谷 淳平 ②

 ゴールデンウィーク前、俺の頭は中谷さんの事で一杯になってしまった。

 授業を受けても、部活をしても、なんだか楽しくない。

 どうしても、中谷さんが病気と戦っている事実だけが、俺の心を支配してしまう。

 最初はお見舞いに行く事も考えた。でも、会った事もない俺が、一体なんだと言って会いに行く? 

 一目見た時から好きでした・・ってか? いやいや、危ねえだろ、そんな奴。

 俺が自身の儚く費えた初恋を憂いでいたそんなある日の事だった。

 事態は予想外の方向から急変した。


「淳平、あのさ、中谷さんの事でさ、話があるって女子が来てるんだけど・・・・」


 女子? 俺に? え? 女子?

 無かったなー、こういう事、無かった、本当に無かった!

 中谷さんの一件から、沈みがちだった俺の心が、少しだけ明るくなった気がした、その話を聞くまでは。


「あ、細谷君、ごめんね忙しいのに。私、同じ学年の高坂です、で、こっちは友達の島崎さん、女子バレー部だから知ってるかな?」


「はあ・・」


「あのね、単刀直入に聞くね、えーっと、細谷君ってさ、彼女とかいる?」


 はい? え? なんの話? なにこれ、ちょっ、ちょっと、俺、もしかして、モテ期キターってやつ? これよく聞くヤツだよな、「モテ期キター」って、あれが! あれなのか?!


「いや、俺、今は付き合っている人とか、いないし」


 なんだよ「今は」って・・・・居たことねーだろが! なにカッコつけてんだ俺は! 

 ひゃー、俺、もう耳まで真っ赤っか! ハズい!!


「良かったー、ね、大丈夫だって言ったでしょ」


 え? その言い方だと、俺の事好きなのって、君じゃ無いわけ? 高坂さん? 話の流れからしたら、島崎さん? 島崎 澪さん?

 へー、君が俺の事を・・・・解らないもんだねー 女子バレー部なんてさ、男子バレー部の事、いつも獣のような目で見てるのにねー。そうかそうか、あれは恥ずかしいのを誤魔化していたんだな・・・・いや、俺の心の中には、中谷さんが居る。ちょっと惜しい気もするけど、俺の中谷さんへの想いが偽物にならないように、ちゃんとしないとだよな、俺・・・・ちょっと惜しい気はするんだけど。


「あのさ、島崎さん、気持ちは有り難いんだけど、俺さ、今、好きな人がいるから・・」


「はあ?」


「いや、だからさ、俺は今、好きな人が居るんだ!」


「ちょっと、どうしたの細谷君、なんの話?」


「・・・・へ?」


「ねえ細谷君、もしかして今の言い方って、私が細谷君の事が好きとか思った感じ?」


「へっ? いや・・・・ へっ?」


 すると、今度は高坂さんが笑い出す。なんだよ、なんなんだよ、ちょっと、これ、絶対に俺が勘違いした系のヤツじゃん、勘違い系じゃん!


「ごめんなさい(笑)・・ちょっと・・遠回しに聞きすぎたね(笑)、あのね、今日私たちが細谷君を呼んだのは、別の子の事なの」


 そうだったー! そう言えば富田が「中谷さんの事で話がある」ってこの子達を俺に引き合わせたんだったー! ああ、もう・・・・恥ずかしくて、死ぬー!!


 ・・・・あれ?、ちょっと待った。中谷さんの事で俺を呼んで、「彼女いるか?」って質問って、もしかして、まさか、いや、まさかだよな。

 

 ・・・・ちょっと!

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