細谷 淳平

第21話 細谷 淳平 ①

 バレー部で将来を期待されていた女子部員

 中谷 貴美さん、高校2年生

 彼女の事を知ったのは去年、高校1年の夏だった。

 他校との練習試合、偶然隣で練習をしていた活発な女子、それが中谷さんだった。

 その時は、ポニーテールがとても良く似合う美少女、俺は一瞬で恋に落ちた。

 そうは言っても他校の生徒、俺は彼女との接点を求めて、練習試合をした尚武北高校の情報をとにかく集めていた。

 彼女と同じ中学校のやつを見つけるのに半年、気付けば俺も2年生になっていた。

 こうして、俺の所属する尚武南高校と北高校が久々に練習試合をするゴールデンウィーク前、意気揚々と北校へ乗り込んだ俺は愕然とした。

 

 北校女子バレー部に、中谷さんの姿は無かったのだ。

 

 この機会をどれだけ待った事か。

 俺はもう練習試合が勝ったとか負けたとか、そんな話はもうどうでもよくなり、失意の底に沈み、呆然と自転車を漕ぎながら帰路に着いた。


「どうした淳平、元気ないな」


「え・・・・あー、うん」


 帰り道で、友人の富田が声をかけてきた。

 他ならぬ中谷さんと同中だった俺の友人だ。偶然にも、クラスまで同じだったから、色々聞かせてもらえた。あれだけ探していた中山さんをよく知る人間、ここに居たとは。


「中谷さんに会えたのか?」


「なんで・・中谷さん?」


「もう、隠さなくてもバレバレだって、お前、中谷さんのファンだろ? あの子、中学時代から人気高くてさ、もう中学校のアイドル! 可愛いよな、中谷さん」


 モテるとは聞いていたけど、アイドル級か? やっぱり高嶺の花ってか? そうだよな、輝いていたもんな、彼女。


「それがさ、もう彼女、バレー部辞めたみたいでさ」


「え? 中谷さんが? それはないだろ」


「どうして?」


「だって、彼女はバレー命だし、勉強も出来て進学校選び放題だったのに、わざわざ尚武北高選んだのも、バレーが強いからってくらいだし」


「じゃあ・・何で居ないんだろう」


「うーん、 確かにちょっと気になるな、中学ん時の同級生にちょっと探りを入れてみるか」


 富田はそう言うと、自転車を加速して家に帰っていった。

 まだ少し肌寒い春の風が、自転車を漕ぐには丁度良く気持ちがいい。俺も少し加速して、春風を楽しんだ。

 自宅近くの病院を通過する。白亜の建物、俺が生まれたのもここの産科だ。それほど新しくはないが、ここの雰囲気は嫌いじゃない。

 清潔感と開放感があって、近所にこの病院があることで、景色も良くなっているように感じる。

 

 翌日、登校すると富田が慌てて俺の所に来た。何か情報があったのか?


「おい淳平! 大変だ、中谷さんの状況、解ったぞ」


「どうした? あまり良くない感じか?」


 それは、富田の表情を見れば直ぐに解る。昨日まで俺が中谷さんのファンだと言って冷やかしていたあのトーンとは全く別だ。

 富田が言うには、中谷さんは何か重篤な病に冒され、今は学校も休学中なんだと俺に伝えた。


「いつから? だって去年はあんなに元気にしていたじゃないか」


「ああ、1年の終わりの頃、まだ2ヶ月も経っていないって」


 俺は目の前が真っ暗になった。

 浮ついた恋心を向ける事が、絶対に出来ないほどの深刻な事情。

 日曜日の練習試合と同じく、俺の帰り道は落ち込みで世の中が暗く見えていた。

 部活も今はギリギリまで練習しても、日が高くなってきて、帰りもまだ明るいと言うのに、俺の気持ちばかりが暗くなる。

 嫌だな。まだ16歳だよな、彼女も。そんな歳で病気だなんて。

 きっと今日のこの日も、夕焼けは美しいのだろうけど、俺には全く入って来なかった。

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