第16話 工藤 冴子 ⑬

 私は、正宗くんに何度もメールを打つ。

 でも、既読すらつかない。これではまるで、もうこの世界から居なくなってしまったようではないか。

 そんな時、神田さんの言葉を思い出す、「うちのクラスの女子の半分が、人型ルアーだ」という内容が。


「ちょっと待って、クラスの半分・・・・じゃあ、神田さん本人は?」


 急速に不安になると、人間は寒さや嫌悪感を感じる。今の私がそれだ。

 私の脳裏に、とても嫌なビジョンが現れては消える。

 昼間に過ったあの思い、正宗くんと神田さんのキス。

 そうだ、正宗くんが本物の人間で、神田さんがルアーと言う線を、なぜ私は疑わなかったのだろう。

 考えてもみれば、最初からそれが目的で神田さんは私に接触してきた可能性だってある。

 クラスメイトが月曜日の朝に言っていた事、私が感じていた事。クラスの男子はモヤシみたいで、恋愛対象にはならない。

 そうだ、結論が出ていたではないか?

 正宗くんがテロリストでも、スパイでも、そんな事、もうどうだっていい。神田さんと言うルアーに釣られて昇天してゆくのは絶対に嫌だ、そう思った。

 案の定、神田さんに送ったメールも、既読が付かない。

 まさか、二人はもう昇天した後?

 混乱する思考が、私から冷静さを奪う。気付けば私は彼の元へ走り出していた。

 そうだ、あのウィークリーマンションへ行って、彼と会わなければ!

 走って、走って、もう呼吸がおかしくなるほど全力で走った私の目に入ったのは、既に無人になったウィークリーマンションのドアだった。

 あの、一緒に料理をした、狭くても温かいあの部屋に、もう正宗くんは居ない。

 汗塗れの私の顔から、血の気が引いて行く。

 私はもう、正宗くんに会う事は無いのだろうか?

 失望が私を包み込む。なんなんだ、彼と出会ってから、まだ四日目だと言うのに、この失望感はなんだというのか。

 

「正宗くん・・・・正宗くん・・嫌だよ、もう会えないの。私、もうお母さんでいいから、君のお母さんでいいから、だから戻ってきて、私の所に戻って来てよ!」


 マンションのドアにもたれかかったまま、私はしゃがみこみ、情けなく涙を流してしまった。

 こんなに早く別れが来ると知っていれば、もっと親孝行させてあげたのに。もっと沢山の思い出を作ってあげられたのに。

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