第15話 工藤 冴子 ⑫

≪ねえ工藤さん、正宗さん、かっこよかったね≫

 

 神田さんからメッセージが届く。私たちは一応、SNSで連絡が取れるようにしておいた。

 もっとも、周囲の事象が全て変化してしまう謎の力があれば、SNSの内容も簡単に書き換えられるのだろうけど。

 それにしても、乙女神田さんの豹変ぶりは笑えた。

 恋は人を変えてしまう。だから、私の記憶に無いだけで、入学から一カ月の間に、クラスの男女は激しく交際を展開していた事になる。

 ・・・・あのクラスで? 

 

≪うちのクラスってさ、もうあんまり男子いないじゃない? 宇宙人はまだ釣りをするのかな?≫


≪・・・・対象が男子ばかりとは限らないよ≫


≪ドヒャー!≫


 同性も?、って事? いやいや、ちょっとそれは・・。

 

≪正宗さんって、料理お上手なのね≫


≪勉強したって言ってた≫


 今日は結局、神田さんもマンションに上げてご飯を食べた。

 昨日と同じで、正宗くんは美味しいと言いながら、食べ盛りの子犬のように豪快に食べていた。なんだか、ずっと見ていられるし、食べている姿は癒される。

 もう彼氏要らないから子供が欲しくなる。そんな私も大概おかしい。

 私は出会って最初から、彼が息子設定で近づいて来たから、異性として意識しきれなかったけど、神田さんのリアクションを見ていて、彼はやっぱりカッコいいんだとあらためて思った。

 なんとなく、自分の中で好きになってはいけない、というブレーキが効いている。

 明日から、どんな顔で登校したらいんだろう。クラスメイトの半数がルアーだなんて。

 疑心暗鬼が過ぎれば、きっと正気を保てなくなる。

 神田さんとのメールが終わると、私はネットであの「人型ルアー」を調べてみた。

 なるほど、書いてある内容は、正宗くんを疑いたくなる内容が多い。

 ある日突然現れ、恋に落ちる方法や、時間をかけてじっくり人間関係を作ってから釣る方法など、これではもう何も信用できなくなってしまう内容ばかり。

 中には、高校3年間ずっと片思いしていた相手と結ばれて、ファーストキスで釣られた、という絶望的なものまである。

 二人の3年間には、きっと色々なドラマがあったに違いない。本当に酷い事をするな。

 私は携帯を手に持ったまま、その日は寝てしまった。


 翌日、登校すると教室には神田さんの姿が無かった。

 ・・まさか。


「あのさ、神田さんって・・・・」


「ああ、なんだか風邪で熱が出たって言ってたよ」


 ああ、良かった。皆の記憶にまだ神田さんは居る。釣られた訳ではないのね。

 もっとも、仮に釣られたとしたら、ルアーは正宗くんということになってしまう。

 その時、一瞬私の脳裏に、正宗くんと神田さんがキスする場面が過った。

 これはなんと言うか・・・・とても不快で如何わしい。嫌だな、本当に嫌だ。自分がどんどん嫌になって行く。

 先週末から本当に私の周りでは色々なことがあって、多くの情報が入って来た。

 神田さんもいないし、今日は授業に集中しよう。

 そう思っていた一日が終わり、私は一人家路を急いだ。また正宗くんからメールがあるかもしれない。

 

 ところが、正宗くんからのメールは、それ以降まったく入って来なくなった。

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