第14話 工藤 冴子 ⑪

 正直、会って話がしたかった。正宗くんと。

 メールの内容は、相変わらず他愛の無い内容で、どこかズレた所が可愛い。


「どうしたの? もしかして・・・・」


「うん、問題の・・正宗くん」


「そうなんだ、なんだって?」


「・・・・お母さんに、会いたいって。買い物しようって」


 神田さんは、とにかく私の事を心配してくれた。だから、その買い物に自分も付いて行きたいと。


「いや、それこそ大丈夫? え? 一緒に?」


 なんとなく、親子水入らずの買い物に、少し無粋だと思いつつ、神田さんが言う通り、彼が私の息子ではなく、テロリストかスパイ、若しくはルアーである可能性も否定できない。

 こうして私と神田さんと、正宗くんは3人で買い物をすることになった。

 そして神田さんを正宗くんに会わせてみたところ。


「あ、あの、初めまして! 私、工藤さんのクラスメイトで、神田 麻実と申します! 今日は、突然、なんかすいません!」


 こらこらこらこら! さっきまでの神田 麻実はどこへ行った! なにイケメン前に緊張してんのよ! もはや単純に男子免疫のないオタク女子じゃない。


「こんにちは神田さん! 母がいつもお世話になっています!」


 すると、顔を真っ赤にした神田さんが、私の腕を引っ張り、内緒話を始めた


「彼は・・その・・危険ね」


 なーに言っているんだー、この人は!

 さっきまでのシリアスキャラは本当何処へ? まったく、女刑事も真っ青だったのに!

 神田さんは、もうすっかり茹で上がった状態で、買い物かごを持って歩くだけの女子と化していた。きっと今なら人型ルアーの方がよほど人間らしく見えるだろう。

 

「それにしても、正宗さんって、本当にイケメンで優しいのね! 工藤さんが釣られてもいいって気持ち、解るわ」


 いや、私、釣られてもいいなんて、一言も言って無いんですけどね。

 恋する乙女は、思考を狂わす何かがあるのかしら。

 それにしても、息子を褒められるのは悪い気がしない。もっとも、息子かどうかなんて解らないんだけど。

 そうだ、そこははっきりさせたい。


「ねえ、お母さん、神田さんもご一緒したらどう?」


 ああ、このバカ息子は、なんてタイミングで、なんて提案をする! 

 それはあれ? ウイークリーマンションに、皆で一緒に上がるって事? ・・・・なんだかな、息子が彼女連れて来た時の母親の気持ちって、こんなかな? 

 そうなんだ、正宗くんは私の事を、全く異性として見ていない。こういう所が、なんだか人型ルアーでは無いんじゃないかって思わせるんだ。

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