第13話 工藤 冴子 ⑩

 神田さんは、クラスの男子に思う所があるらしい。何なんだろう? 本当に特徴の無い男子たちだからな。


「そうね、悪く言うつもりは無いけど、なんだかモヤシみたいで覇気が無いというか、あまり女子に興味が無いように見えるかな? 草食系ってやつ?」


「そうね、その認識は正しいわ。でもおかしいと思わない? どうしてうちのクラス、いや、うちの学校って、世間一般な男子ではなくて、あんなヒョロヒョロな男子ばかりなのかしら」


「それは、運動部とかが弱いから?」


「違うわ。私の話を最初からトレースして考えてみて」


「トレース? 最初から神田さんの話をなぞればいいの?」


 そうして、私の頭に一つの閃きというか、結論のような物が出てしまったのだ。それは


「まさか、本当はもっと男子がいて、人型ルアーによって、釣られてしまった、女子に興味を持つ普通の男子が全員?」


「そう考えるのが自然じゃないかしら」


 ゾッとした。なんだか気持ちが悪い。

 彼女の言っている事が本当であれば、私達は入学してからのたった1カ月で大勢の同級生を失った事になる。そんな事って。

 

「だって、神田さんが言う通りだとしたら、どうして周囲は騒がないの? おかしいよ」


「そう言っている工藤さん本人が、今答えを言ったじゃない」


 ・・・・たしかに、私自身が言われるまでこの異常な状況に気付いていなかった。そうだ、私だけではないんだ、神田さん以外の全ての人が、誰一人それに気付かないようにされている。

 この一連のミステリーには、共通した「力」が働いている事になる。


「ねえ・・私たち、どうしたらいい?」


「そうね、バカなフリをして行くしかない。だから気を付けて、クラスメイトには」


「え?」


「だから、クラスの中にいるって事!」


「・・・・やだ、何が?」


「もう・・解っているでしょ、人型ルアーよ。この短期間にクラスの男子が半数以上はいなくなっている、それはつまり、クラスの女子の半数近くが問題の人型ルアーだって事になるわ」


 これは本当に気持ちが悪い。

 神田さんが言うには、このクラス内女子生徒の何割程度がルアーだと判明した今回の件は、とても貴重な情報なんだと言う。

 普通は、クラスにルアーが紛れているかどうかも解らないし、居ても何人がルアーの可能性があるかなんて、絶対に解らない事らしい。


「でも、クラスの女子半分がルアーって、ちょっと多すぎない?」


「人型ルアーは、単純に人を誘拐するのとは違うの。人間社会で人間らしく振る舞い、恋をしてキスした所を釣り上げる事が多いらしい。このクラスで男女がキスまで行くのに、一カ月はとても短いと思わない? だとしたら、一人のルアーが複数を釣り上げたのではなく、同じ人数のルアーが同時に男子を釣った、と考えるのが自然だわ」


 ・・この時、神田さんを単なるオカルトマニアだと思っていた自分を恥じた。

 この子の考え方は、とてもクールだ。


「でも、大丈夫なの? こんな事を私に話したりして」


「うん、私も一人ではもう限界を感じていたの、仲間が欲しいと思っていたから。でも・・正宗さんにも、どうか気を付けてね」


「大丈夫だと思うよ、そんな人じゃないから」


「テロリストもルアーも、自分は悪い人です、とは言わないわ。それに、私はこの人型ルアーについて、日本の調査機関が既に動いていると踏んでいたの」


「それって・・」


「ええ、工藤さんのお父さんの・・ね。これで合点が行ったでしょ。正宗さんは理由があって、あなたに近付いた、違う?」


 考えたくはなかった。

 あの、母性本能を鷲掴みにして滅茶苦茶してくる彼が、テロリストやスパイの類い? 全て作り話?

 そんな時、携帯がメッセージ着信を知らせた。

 正宗くんだった。

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