第12話 工藤 冴子 ⑨

 神田さんは、このトンデモオカルト話である「人型ルアー」の話を色々してくれた。

 彼女がオカルト研究会に入るよりも前から、彼女はずっと違和感を覚えていたらしい。

 インターネットの検索で、毎日相当調べていたようだ。

 彼女によれば、人型ルアーの特徴は、異性に対してとても都合の良い存在であること、容姿が整っていること、一度会話すると、とても惹かれてしまう、との事だった。


「どう? 気付く事はある?」


 気付くもなにも、彼女の言っていることは、未来人設定や息子設定を除けば、ほとんど該当する。

 考えたくはない。正宗くんが人型ルアーだなんて。

 それなら、今のまま未来から来た自分の息子だと言う方がよっぽどマシじゃないか。

 

「でも、彼が未来人で私の息子だって線も、無いことは無くない?」


「ねえ工藤さん、冷静になって」


 おい! オカ研のあなたに言われると傷付くんですけど!

 

「でも、だとしたら、彼はもっと普通に私に迫ってきたんじゃない? なんで未来から来た息子を名乗ったのかな?」


「・・・・その正宗さんは、最初、工藤さんの部屋にいたのよね? ・・・・ちょっと聞いてもいいかしら、工藤さんのお父さん、お仕事は?」


「え? 公務員だけど、法務省の」


「法務省の? 具体的に?」


「あまり言わないようにしているんだけど・・公安調査庁の職員なの」


「公安調査庁・・・・」


 彼女はその一言を聞いて、黙ってしまった。

 逆にその沈黙が怖かった。

 正直、正宗くんが嘘でも本当でも、息子だという設定が自分には心地の良いものだった。だから、誰かにそれを壊されるのが怖いとさえ思えた。


「神田さん?」


「あ、ごめんなさい。ねえ工藤さん、私が話した事は、一度白紙にしてくれない? お父様が公安調査庁なら、少し考察の幅を広げないとだし」


「難しい事を言うのね。私のお父さんの仕事が、何か関係あるの?」


「だって、情報関係のお仕事でしょ? 正宗さんは、本当に工藤さんの部屋が目的だったのかしら? お父さんの部屋が本命だった可能性は?」


 それを聞いて、私は目の前が暗くなった。

 そうだ、簡単な話だ。彼が空き巣なんかではなく、外国の諜報員やテロリストの可能性を、どうして私は真っ先に疑わなかったんだろう。

 息子を名乗り出て、私を動揺させて、彼が一番欲しかったっものって、一体何?


「ねえ神田さん、最後にあなたが私たちの周りに人型ルアーが居ると思った決定的理由ってなに?」


「そうね・・・・工藤さん、うちの男子、どう思う?」


 どうもこうも、モヤシみたいな男ばかりで、正直何も感じないんだけど。

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