第11話 工藤 冴子 ⑧
正宗くんを、親戚ではないと見破った神田 麻美。
この子は一体、何を知っているのだろうか? 逆に、どうしてそれを知り得たのかが早く知りたい。・・・・彼女もまた未来人なんて事はあるまいな。
「まず、あれほどのイケメン、少しおかしいと思わなかった?」
ん? イケメンは人類の宝では? いや、そんな事よりも、私の隣にイケメンが居てはいけないのか? 嫉妬か? グチを言いたいだけなのか?
それでも彼女が言いたい事は、どうやらそこでは無いようだ。私は彼女に、一体なにが言いたいのかと迫る。
「ごめんさい、決して冷やかしとかじゃないの、でもね、大事なことだから、しっかり聞いて欲しい。あの人、本当に人間なの?」
「ちょっと、いきなり何? 人間でなければ何に見えるの?」
私はわざとオーバーなリアクションで答えた。
怖かったのだ。正宗くんが未来人だと言われる事が。少なくとも私たち二人以外に、この話に介在する人物は居なかった。
彼が未来人と確定する事も、彼が私の息子だと確定する事も、どちらも私には怖いことに感じられたから。
「そうね、気をつけた方がいいわ、彼は多分、人間じゃない」
「じゃあ、一体何だって言うの? 彼は人間よ、とても温かいし、おっちょこちょいで危なっかしくて、それでいて母親思いの善人だと思うわ」
「そうね、いい人に見えるよう、彼らは印象付けるようにしているのよ」
「何を根拠に?」
「じゃあ聞くけど、彼とは本当に親戚同士? 初めて会ったのはいつ? 覚えている?」
頭が真っ白になった。この会話は、彼の素性にたどり着こうとしていないだろうか? だとしたら、彼女はどうして私たちしか知り得ない事を知っている。
私からすれば、神田さんの方が一体何者なんだと思える。
「・・・・あなたは、誰なの?」
「大丈夫よ、私はただの女子高生、オカルト研究会の部員、それだけ」
含みがある。大体ただの女子高生が自分の事をただの女子高生とは言わないよね、それ、実はスパイだったり、悪の組織だったりする人が言うセリフ!
「じゃあ・・・・どうして彼が、私の親戚ではないと思ったの?」
「だって・・・・似ていないじゃない」
「いやいや、一応血縁ですけど! 息子なんですけど!」
神田さんは「息子?」と怪訝そうな表情で私を見てくる。
・・ああ、言ってしまった。やるな神田さん、見事な誘導尋問だわ。
こうなると、私も神田さんから聞きたいこともあったので、土日にあった事を話してしまった。
「未来人・・・・息子・・・・工藤さん、あなたもう高校生なのに、そんなデタラメ、よく信じたわね(笑)」
「っちょ、オカ研(オカルト研究会)のあなたに言われるとは思わなかったわ!」
いやいや、意を決して話したというのに、神田さん、なによ(笑)って! もうムカつく!
「ねえ、それじゃ聞くけど、あなたは正宗くんを見て、どうして私の親戚ではないと思えたの?」
「だって、イケメンだし」
「ちょっと・・・・なんだか物凄いトゲがあるんだけど。私がイケメンと居たらおかしいって事?」
「いえ、単純にイケメンって事ではないわ。工藤さん、聞いた事ない? 人型ルアーの話」
「人型ルアー」
初めて聞く内容だった。彼女が言うには最近都市伝説で、この話が語られるようになっているらしい。なんでも美男美女のルアーを作って人間界に垂らし、それに惹かれた異性を釣り上げるという宇宙人の釣りの話なんだそうだ。
「ハハハ、ちょっと、なによ、さっきの未来人よりも嘘っぽいじゃない! なんなのそれ、まさかあなた、そんな話のために私を放課後呼んだの?」
「笑い事じゃないのよ、ねえ工藤さん、気付かない? うちのクラス、男子ってあんなに少なかった?」
「ちょっと、何を言って・・・・」
私はその時、確かな違和感を覚えた。そうだ、言われるとおかしい。そもそもうちの学校って、普通に共学のはず。女子の比率が異様に高いのも、なんだかおかしな話だ。
「それって、男女比が以前は同じくらいだったって事?」
「いえ、この学校は元々女子校だったから、女子比率は少し高めなんだけど、それにしても男子が少ないわ。私、入学当初は、もう少し男子が居た記憶があるの」
「記憶があるって、まだ高校始まったばかりよ、私たちは同じ記憶を持っていなきゃ、おかしいじゃない」
「だからよ、だからおかしいの! どうして前の記憶を私だけが持っていて、他の生徒は記憶が無いの?」
そう、その話を聞いて私も怖いと思った。つまり、私にも少し記憶があるのではないか? 本当はもっと男子が多かった、という記憶が。
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