第10話 工藤 冴子 ⑦
「ねえ工藤さん、日曜日に商店街で一緒に歩いていた人、誰? もしかして彼氏?」
クラスメイトが突然話しかけてきた。
まだこのクラスになって1ヶ月程度、なんとなく席が近い人とは話をするが、親友と呼べる人はクラス内にはいない。
同じ中学校からの友人が、部活を一緒にやっているものの、文化部と言うところもあって、休みの日には会わないし、濃密な人間関係は未だだ。
そんな日常が、ひっくり返るほどの衝撃。・・・・彼氏。
このキーワードは危険だ。
正直あまり目立ちたくはない。何故なら私は積極的に人と係わるのが苦手なタイプだからだ。
それともう一つ、この学校の男女比率が、なぜか異様に女子が多いことも、危険な要因だ。
そうなると、自動的にクラスの女子は「男子」と言うキーワードに敏感になって行く。
数少ないクラスの男子ではあるが、これがまたモヤシのような頼りないインドア系が多くて、女子のハートにはまったく響かない。
この高校にあって、少女マンガのような同級生とのラブコメが期待出来ない事を悟った女子生徒達は、今校外の男子、それも大学生が激熱なのだ。
・・・・そこへ来て、見られてしまったのだ、正宗くんの事を。
それが一体、何を示しているのかは、きっと誰にでも簡単に解るだろう。
最初に私に聞いてきた女子をきっかけに、私の周りには女子でドーナツが出来て行く。
「そう言えば、土曜日も商店街歩いていなかった?」
「私、遊園地で観覧車乗っているの見たよ!」
こらこら! それ、ほとんど全部見られていないか? スパイか? 君たちはスパイか何かか? というか、私にはプライバシーというものは存在しないのか?
・・・・これはマズいな。
一応、みんなには親戚のお兄さん、という事にしようとしたが、そうなると「今度、紹介して」となるので、回答に苦慮した。
こうして正宗くんは、私の遠い親戚で、両親が外国に住んでいて、今遊びに来ている大学生という、自分で言っていてグチャグチャになりそうな設定を組んで、周囲をかわしたのだった。
ところが、その話は意外な人物を呼び寄せることとなった
「ねえ工藤さん、放課後ちょっとお話出来る?」
彼女は、クラスでも私より目立たない地味な女子で、
部活も同好会扱いの「オカルト研究会」という、いかにもな会に所属している。
「私? えっと神田さん、なにか?」
「私も、あなたが商店街を歩いているのを見ていました。大事なことなので、教室ではちょっと」
なんだろう、正宗くんの事で何かあるのだろうか?
・・・・しかし、日曜の昼間に、なんだってうちの女子は揃って場末の商店街に居るんだ? 他にすることがないのか! JKなんだぞ、私達!
放課後、彼女に案内されて来た場所は・・問題のオカルト研究会が使っている旧校舎の一室だった。
また、オカルト研究会が好みそうなロケーションだわ。
部屋にはまだ他の部員もおらず、神田さんは早速本題を突きつけてきた。
「日曜日、あなたと一緒にいた人、親戚ではないわよね」
! いきなり核心を突くような質問。私を動揺させるには十分過ぎる一言だ。
「どうしてそう思うの?」
なにかミスった? いや、彼が私の事を「工藤さん」と呼んだ場面を見られたか?
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