第8話 工藤 冴子 ⑤
「冴子ちゃん、こんにちは・・・・あら、彼氏? ハンサムねー!」
早速、お肉屋さんのおばちゃんがその鋭いセンサー全開で正宗くんの事を聞いてくる。
・・・・まあ、このイケメンぶりなら仕方が無いのだが、本当に彼は目立つ、この商店街には不釣り合いなほどにイケてる。未来ではホストでもやっていたのか?
「彼氏なんて・・・・親戚のお兄さんなんですよ」
苦しいか? さすがに苦しいか? もう、おばちゃんが「あら、まあ、もう!」って目で見てるし・・・・苦しいか?
「初めまして、工藤 正宗です。そう言えば工藤さん、ここのコロッケ、好きだったよね」
ちょーっ、そうか、親戚設定だと工藤さんはおかしいのか? 私は慌ててコロッケを二つ買うと、商店街の外れにあるベンチに座って、彼に設定のやり直しをお願いした「工藤さん」ではなく「冴子ちゃん」にするようにと。
すると彼は、見た事ないくらいに低いトーンで「・・えー」と呟く。
解るよ! 母親を下の名前で呼ぶ、ないよね、ないよ、解るよ。でもさ、あなた年上でしょ、おかしいよね、親戚の年下の小娘を工藤さんってさ。親戚一同、みんな工藤さんなわけじゃない?
なんだか、とても難航したが、ようやく彼は私を「冴子ちゃん」と呼ぶことに同意した。
そうして私達は、再び商店街へと突入、肉屋の次は八百屋。しかし、これほど都会の真ん中に、こんな商品別の商店街がよく生き残っていたものだと思う。
八百屋でも、デジャブーかと見まごうほどに同じ会話がされた。
その時、初めて彼の口から「冴子ちゃん」と下の名前が呼ばれる。
いやー、いやいや、これは意外と恥ずかしいぞ! えーと、私はもう、真っ赤になって俯く。そんな素振りが八百屋さんを含みのある笑顔にする。
どうしてか解らないが、八百屋さんはいつもより沢山おまけをしてくれた・・・・見世物じゃないぞ、私達は!。
私達は、そのほかにも数件はしごして、気付けば普通にご飯の支度でもするかのような買い物を済ませた状態になっていた。
「ねえ、これのどこが、あなたが私の息子だって証明になるの?」
「えー、気が付かなかった?」
「なによ?」
「今日買った物、全部、お母さんから教えてもらったものだよ、お母さんが好きな物」
そうか、そう言われれば彼の買い物チョイスは見事に私の好きなものに特化している。
なんだ? ・・・・ちょっと気持ち悪いくらいだ。
たしかにこの正解率は、赤の他人では有り得ないレベルだ。
しかし、この食材一体どうするつもりなんだろう。家にはお母さんもお父さんも居ると言うのに。
「ねえ、こんなに買い込んで、これどうするの? さすがに今日は私の家は無理だよ」
「大丈夫、僕の所、キッチンも付いているんだ」
へ? キッチン?
おいおい、まさかと思うが、君は私を部屋に招き入れる気ではあるまいな?
さすがにアウトよね、いや、アウトアウト! 若い男女が密室で・・・・料理? 夫婦か親子だろ、もはや! ああ、合ってるのか。
え? 合ってるのか?
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