第7話 工藤 冴子 ④
日曜日、彼からメッセージが入った。
私は不覚にも、彼とSNS登録をしてしまったのだ。冷静に考えれば、年上のイケメンからメッセージが次々と届くこの状態は、高1女子としては贅沢なのかもしれない。
昨日、彼と遊園地に行って解った事、それは、彼が私を女性としてではなく、本当に母親として接している、という事だ。
だからなのか、正直男性に免疫のない私でも、彼は怖くなかったし、一緒に居て落ち着くとさえ思えた・・・・いや、若干行動が危なっかしくて、面倒を見てあげたくなる部分も結構あるけど。
何気ないはずの日曜日も、彼からのメールによって大きく舵を切る。「お母さんに僕が息子だって証明がしたい」のだそうだ。
こうして、見ず知らずの男性と、二日間に渡って会う事になってしまった。
「お母さん、こっちこっち!」
ああ、もう、高1女子をお母さんって呼ぶな! みんな見てるじゃない。
「ねえ、そのお母さんってなんとかならないの? もうみんな見てるし」
「えー、だって名前で呼ぶなんておかしいでしょ、お母さんなんだから。お母さんだって、おじいちゃんの事名前で呼べる?」
ああ・・・・無理だな、無いわ、それは。
「ところで、今日はあなたが私の息子だって、どうやって証明してくれるのよ」
「うん! じゃあ、商店街を一緒に歩こう!」
「ちょっと待った! まさか二人で?」
「もちろん!」
これは困ったぞ、流石に人目が。商店街は子供の頃からお世話になっているから、おじちゃん、おばちゃんも知り合いが多い。そんなところで、この人から「お母さん」なんて呼ばれたら、もう噂になってしまう!
「ねえ、商店街は、ちょっとやめない?、流石に人目が・・・・」
すると、彼はとてもションボリしてしまった。落ち込んでいるとかではなく、ションボリしているのだ。
もう、本当にこういう所がいちいち子供っぽくて私の心を擽る。
「わかった、わかったから。それじゃあいい?、私の事はお母さんではなく工藤さんね」
「お母さんの旧姓だね・・・・ちょっと照れるけど、解った! お母さん」
いや、言っている傍から出来てないだろ! 出来の悪い息子め。
そうか、私は結婚したのだから、工藤は旧姓になるのか。結婚後は何て名前になるんだろう。
「ねえ、あなた、苗字は?」
「あ、ごめんね、それは言えない決まりなんだ。おかあさ・・工藤さんの結婚相手が解っちゃうのはダメなんだ」
へー、決まり・・。よく解らないけど、未来人にも色々あるらしい。
私達は、お互いを「工藤さん」「正宗くん」と言い合いながら、近所の商店街に突入した。
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