中嶋 洋子

第1話 中嶋 洋子 ①

「中嶋さん、俺と付き合ってください!」


 それは突然の事だった。


 隣の席の、超イケメン男子である来栖くるす さとし君が、私に告白をしてきたのだ。

 当の私は、恋愛とは程遠いチビで小太りでメガネでオタクの、典型的なスクールカース ト最下位生徒だ。

 突然の告白は、私の思考を鈍らせた。なぜなら、こんな私でも好きな人がいるのだから。

 その相手こそ、ほかならぬ来栖君本人だ。

 正直、天にも昇るほど嬉しかったけど、昼休み中、何でまたクラス中に聞こえるように 言うんだろう。


 もしかして、これは新手のイジメではないか?


 いや、来栖君はそんな男子ではない。少しチャラいところもあるけど、彼は基本的に優 しくて誠実な男子だ。

 ・・・だから、私はそんな彼を好きになった。

 でも、ここで「はい」と返事をすれば、きっと私は毎日のようにイジメに遭うだろう。

 なぜなら来栖君は、学年トップのモテ男子なんだから。彼を狙う女子の、これまたなんと多いことか。

 そんな事情があって、私は来栖君への返事を先延ばしにしてもらった。 一体、私の何がそんなに良いのやら。

 そして、その日の放課後、早速それはやってきた。


「中嶋さん、ちょっといいかしら」


 女子の人間関係は、本当に怖い。

 クラスで一番の美人で知られる藤堂さんと、その取り巻き達からの呼び出しがあったのだ。


「ねえ中嶋さん、あなた最近調子にのってない?  わかる? 来栖君はあんたなんかと口きける相手じゃないの! 席が隣だからって友達面しないでほしいわ!」


 こうなると、取り巻き達からの暴言はエスカレートして行き、私の心を破壊一歩手前まで追い詰めるには十分な勢いだった。

 藤堂 美樹

 彼女の父親は中小企業ながら、地域では名の通った会社の社長だ。

 残念な事に、私の父はその会社の従業員をしている。

 こんなわかりやすいスクールカーストも無いだろう。

 ・・・・いや、これはもう詰んでいる。

 さすがに彼と付き合う選択肢は存在しない。

 残念だけど、彼のあの優しい横顔も、愚直で真っ直ぐな瞳も、少しおっちょこちょいで母性本能を操る仕草も・・・・諦めるしかない。

 そう思うと、私の瞳は遠慮なく涙を放出する。家に帰ると部屋に籠り、ただ彼とのあり得ない未来を想像しながら、私は何度も彼を嫌いになろうと努力した。


 ・・・・でも、出来なかった。


 彼を否定しようとすればするほど、私の心は彼に在るのだと、あらためて思い知らされる。

 胸が苦しくて、手が震えて、涙が零れ落ちる。

 ああ、どうして人間は人を好きになるんだろう。

 こんなに苦しい思いをするなら、好きになんてならなきゃよかった。

 ・・・でも、でも今日だけは、彼を好きなまま思いっきり泣こう。そして明日になったら、キレイさっぱり彼を忘れて、バカなフリして生きてゆこう。

 私はベッドに潜ると、スマホだけ握りしめて布団を被り、部屋の電気を消した。

 部屋の中は、スマホの青白い光だけの世界。 何気なくネットを見ていて、少し気になる記事が出てきた。


 最近話題のフライング・ヒューマノイドについての記事だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る