第4話 夏くんはかっこよくなりたい!!

中庭でベンチに座り、膝の上にお弁当を広げた僕は……お弁当箱を開けながら、少し考え事をする。


「かっこいい、かっこいいかぁ……」


今よりもずっとずっと小さい頃……冬兄が自分を傷付けた傷を見た時に。

隣で冬兄を、この世の全てから守ると決めてから……僕は、ずっと冬兄の隣にいる事が出来るように「かっこいい」について考え続けていた。


「きゃぁっ!! 夏明くんが悩ましげな表情をしてるわ!!」


例えば、誘拐ゆうかいされた冬兄を助けたりしたら……かっこいいと、思う。


「さすが『夏の王子』よね!! かっこいい!!」


こんな風に……?



「な、夏くんっ……助けて」


「大丈夫だよ、冬兄。僕が来たから」


手を後ろでしばられて泣く冬兄に、僕は急いで駆け寄って縄を解く。


「あ、ありがとう……」


「うん。冬兄のことは、僕が守るからね」


涙の跡が残る冬兄をそっと抱き上げて、僕はそうささやいた。



いや、そもそも冬兄は絶対に泣かせないし!!

誘拐なんて、もっての外だしっ!?


「今度は、使命感に燃えた表情よ!!」


冬兄を誘拐なんて、誰にも絶対にさせるものか!!


「なんて凛々りりしいのかしら!!」


ん、これは却下。


あとは……人混みから庇うとか?



「人が多いね……」


ぎゅうぎゅうと詰め込まれた電車で、冬兄がそう呟いた。


「うん。冬兄、大丈夫?」


「ん? 大丈夫だよわっ!?」


キキーッと音がして、電車が急ブレーキに揺れる。

よろめいた人に押されて、同じようによろめいて倒れそうになった冬兄を……咄嗟とっさにドアと体の間に庇った。


「冬兄、大丈夫だったっ!?」


「う、うん……夏くんのおかげだよ、ありがとう」


冬兄のマスクで隠れた口元が、僕にだけわかるくらいに上がっているのが見えた。



いい!!

いい、けどっ!!


それをするには……身長が壊滅的かいめつてきに足りない!!

冬兄186センチメートルで、僕129センチメートルだぞ!?


くっそ……。

たくさん牛乳飲んで、絶対に冬兄よりも大きくなってやるっ……!!


結局、出る結論は『わからない』。

いつもと全然変わらなくて……僕は少し項垂うなだれながらも、お母さんに頼んで入れてもらっている牛乳の紙パックに、プスッとストローをした。

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