第2話 夏くんvsこたつ

「おじゃましまーす!!」


僕は冬兄にめられる良い子だから、おとなりの冬兄の家に遊びに行く時に……たとえ「いつ来てもいいよ」と言われていても、ちゃんと挨拶あいさつするのだ!!


なぜなら、だって、そうしたら後で冬兄に褒められるから!!

これ、超大事!!


「あら、夏明なつあきくん。こんにちは」


「こんにちは!! 冬兄いますか?」


いつも僕の好きなメロンソーダをくれる、冬兄のお母さんにもう一度挨拶して訊く。

真の紳士しんしはね、女の人をおばさんって言っちゃダメなんだって。

冬兄が言ってた。


冬夜とうやはねぇ、またこたつで暖を取ってるわ。もう5月になるんだから、そろそろ片付けたいのだけどねぇ……」


「……こたつ。……じゃあ、僕が冬兄をこたつから出すよ!!」


困ったものだわぁ。

と、そう言ってほおに手を当てる冬兄のお母さんを見て、僕はそう意気込んだ。


「本当? 夏くんは頼りになるわね〜。じゃあ、お願いしちゃおうかしらぁ?」


「うん!! 僕に任せて!!」


冬兄を、早くこたつから出さなければ!!

そう思った僕は、冬兄のお母さんに背を向けてこたつのあるリビングへと駆けた。


「冬兄〜!!」


リビングへと続く扉を開けると、そこにいたのは……。

こたつから顔だけ出して、猫のように丸まって暖まりながら寝る冬兄。


寝顔もかっこい……いや、かわい……じゃなくて、冬兄がいる場所が大問題だ。

こたつの、中。

よりにもよって、僕の敵……こたつの中で寝るなんて!!


春なのに……もう春なのに!!

冬兄は、僕を放ってこたつばかり。


「ん……こたつ、ぬっくぅ〜……」


こたつ……こたつ、僕を差し置いて冬兄を寒さから守るなんて!!

冬兄に、寝言で名前を呼ばれるなんて!!


「冬兄、僕もあったかいよ!!」


怪我させないように肩をペチペチと叩きながら、冬兄にうったえる。

確かにこたつはあったかくて気持ちいいけど、気持ちいいけど!!

今の季節は僕で良いでしょ!!

こたつは、冬だけで、良いでしょ!?


僕はもう小学三年生で、少し冷たくなったかもしれないけど……まだまだ高校二年生の冬兄よりはあったかいんだから、僕であったまったら良いんだ!!


こたつもこたつだ。

冬の間は冬兄を温められる権利があるんだから、それが終わったら僕にゆずれよっ!!


冬兄が「その悪魔的な暖かさで、すさまじい睡魔すいまを召喚する道具なんだ……うん、眠い……」と言っていたこたつは、『冬兄全力で暖め隊』の隊長である僕にとって、一番と言ってもいいほどの強敵。


でも、僕は諦めない!!


「ん……ぅぅん……なつ、くん? なぁつくん〜……おいで?」


寝ぼけているからか、舌足らずな声ととろけるような笑顔で僕を呼ぶ冬兄……しかも、自分の隣を手で示す動き付きっ!!


ただ、僕の子供体温でも暖を取りたいだけなんだろうけど……あまりに魅力的な誘いすぎる!!


……いや、僕はこたつには絶対に入らないからな!!

僕は、こたつなんかには屈しないんだから!!


「おいで?」


……くっ!!



僕はその日、一回だけ……この一回だけ、こたつに勝ちを譲ってやった。

決して、冬兄の笑顔に釣られたなんて……そんなことでは、ないけどね!!


冬兄のお母さんには、ちゃんと後で「冬兄をこたつから出せなくて、ごめんなさい」って謝ったよ!!

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