第52話 消えた柊子
何一つとして事態は収集しないまま時間は過ぎた。
そして俺達の体育祭も終わり...夏休みも過ぎた。
その間、俺達は結構楽しめたと思う。
何故ならみんなでクラス一同でバーベキューをしたりした。
多分...忘れられない思い出になっただろう。
そして事態が動き始めたのは...11月だった。
つまり文化祭ももう直ぐという時。
秀水柊子が忽然と消えた。
自宅に荷物を残したまま、だ。
☆
「...柊子さんが居なくなって...1週間か...」
「...」
11月9日。
俺は寒い空の下。
缶コーヒーを片手に山田と話していた。
この1週間、死に物狂いで探したけど答えは何ら見つからなかった。
俺はマフラーをいじっている山田の姿を見ながら空を見上げる。
「...何処に居るか、だね」
「そうだな。...元気にやっていれば良いが...」
「正直、僕達も行方を探した方が良いとは思うけど...家族関係ならどうしようもないから...」
「...その通りだ」
「...俺としては...恐らくだけど実家に帰ったって思うけどね」
「何れにせよ連れ去られた形跡も無いらしいからな」
「そうだね。...そうなると柊子さんは、自らで帰った、という事だろうね」
この何ヶ月かで事態は進展を見せた。
橋本を殺害した容疑で捕まった豊橋だが少年院に送致された。
あくまで素行が悪いという事で、だ。
そして豊島。
コイツは少年鑑別所に送致されている。
家庭裁判所が判断するだろうけど。
「...この数ヶ月は盛り上がり過ぎているね」
「盛り上がり過ぎていて気持ち悪いけどな」
「...そうだね」
コイツの。
山田の弟はもう直ぐ出て来るそうだ。
少年院から出て来るらしい。
曰く。
もう犯罪はしないと言っているそうだが。
「...山田」
「...何かな」
「お前は嬉しいのか?...弟さんが戻って来て」
「正直複雑だね。...戻って来ても...良い事があるのか分からない。家には帰って来てほしくない感じだけど。...複雑だよ」
「...そうか」
俺はその言葉を聞きながら空を見上げる。
そして冬晴れの空を見る。
何があるか分からない空色だ。
だけど良い空色だと思う。
「...みんな捕まっていくな」
「それは仕方が無いね。...みんなやっちゃいけない事をしているからね」
「まあそうなんだが。...もう少しどうにか出来なかったのかね」
「俺達にはそんな権限は無いから」
因みに身内に犯罪者が居るという事で警察官になれないと知った山田は警察官という職業を諦めた。
それから山田は心理学者になるという。
俺はその事は応援するつもりだ。
「なあ。...暁月くん」
「...何だ。山田」
「...君はこれからどうするんだい。...俺は取り返した方が良いと思っているけど。...クラス一同全員で協力するよ」
「有難いけど危険に晒す訳にはいかないだろ」
「危険に晒されているのは君だ。...死ぬぞ。このままじゃ」
「...俺は死んでも良い。...彼女さえ取り返せれば」
そんな言葉に山田は缶コーヒーを飲み干す。
それから「...」となって俺を見る。
そして溜息を吐いた。
「...君の人生だから好きにしてほしい...とは言いたいけど俺は君を見捨てられないからね。...協力するよ」
「ああ」
「...先ずは彼女の居所だね」
「そういう事になるかもな。...全く掴めないけど」
「そうだね...確かに」
山田はベンチの背にもたれかかる。
それから空を見上げた。
俺はその姿を見ながら目の前の遊んでいる子供と親を見る。
正直...何も。
どうしたら良いのだろうか。
「...とにかく彼女を取り返そう。先ずは居所を掴んでね」
「そうだな...先ずはそれしかないか」
「...何か掴めたら連絡するよ。...陽介おじさんにも頼んでみる」
「頼めるのかそれ」
「分からないけどね。...警察官だしね」
そして山田は重たそうな腰を上げる。
それから缶をゴミ箱に捨ててから俺に手を挙げる。
そうしてから歩いて行く。
「...山田」
「うん?何だい?」
「お前には感謝している。だから無茶はするなよ」
「...そうだね。...ありがとう。そう言ってくれて」
山田はまた手を挙げてから去って行く。
そして公園を出て行った。
その姿を見送ってから俺は道路を見る。
それから俺も立ち上がった。
「...待ってろ。柊子。絶対に助けるから」
そんな事を言いながら俺は缶を握り潰す。
それから俺は歩き出した。
そして俺は道路に出る。
子供が俺の前を黄色帽子で横切る。
「...よし」
そして俺は歩き出した。
それから俺は気晴らしに近所の商店街に来た。
進展があったら...絶対に...。
そう思いながら俺は八百屋のおっちゃんとかに挨拶しながら文具屋に来る。
中に入った。
「おや」
「...ばあちゃん。元気?」
「うんうん。元気だよ」
中尾修子(なかおしゅうこ)さん。
おばあちゃんの店主さん。
髪留めに所謂、髪飾りを着けている。
俺は相変わらずのその姿を見ながら...笑みを浮かべる。
「ばあちゃん。似合ってるね」
「え?...ああ。髪留めね。これは亡くなった夫から貰ったものでねぇ」
「...ねえ。ばあちゃん」
「はいはい。何かしら?」
「...愛って何だと思う?」
「愛!?...あっはっは。相変わらず唐突な事を聞くわねぇ。...だけどそういうの嫌いじゃないわよ。...そうね。...私は旦那さんを好きになったのは...女学生の頃ね。...本当に良い人だったのよ。近所でもイケメンと称される...そんな彼とお付き合いして今に至っている。...一緒に死ねなかったのが心残りかもしれないわねぇ」
ばあちゃんはそう言いながら笑顔になる。
そして顔を綻ばす。
俺は言葉に「...大切なんだね。やっぱり恋って」と言う。
ばあちゃんは頷く。
「...人って漢字は支え合って生きている。...それは忘れちゃ駄目だよ」
「...だね」
「さて。それじゃお茶飲むかい?」
「ばあちゃん。俺は客だから」
「そんな事を気にしないの」
俺は...必ずどうあっても柊子の居場所を掴んで取り返す。
そう思える様な決断の日になった。
それから俺はばあちゃんと一緒にお茶を飲んで過ごした。
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