第43話 山田昴と影島達也


「...まさかこんな事になるなんてね」


学校は臨時で保護者会を開いている。

その為に俺達は休校となっていた。

俺の横でそう呟く山田。

その言葉に「...」となってから俺は盛大に溜息を吐く。


「とは言っても君がそんなに気にする事は無いと思うけどね。彼女は戻って来れなかった訳だ。この世界にね」

「...とは言ってもな」

「反対に君は何を悩んでいるのかい?...彼女はもう居ないよ」

「...」


俺は悩んでいる訳じゃ無いんだが。

そう思いながら俺は缶コーヒーを飲みながら空を見上げる。

6月の天気だ。

梅雨真っ只中の為に曇っているが...。

正直、俺の心も曇天だ。


「君...病院に行った方が良いんじゃ無いかな。...今回は衝撃的だったろ」

「...衝撃的って言うか...まあ...何か期待していたのかもだけど」

「期待?」

「そうだな。...アイツが変わるとかじゃなくて環境が変わるって思っていた」

「...環境...それは簡単には変わらないだろうね」

「...」


俺は無言になりながら缶コーヒーを揺らす。

中身はチャプチャプいう音が心地良い。

正直、殺害現場を見て頭がイカれているのかもしれない。

そう思いながら俺は「...はぁ」と溜息を吐いた。


「...何れにせよ。彼女は地に堕ちた。...そうなるとこのいざこざは更に複雑になるだろうけど。何かしないといけないかもだけど」

「まあ確かにな」

「...彼女はもう戻って来ない。...悩むのは分かるけどね」

「ああ」

「だけど悩んでいても仕方がない。...前を向かないとね」

「...ああ」

「...今日、俺を呼んだのは何かあったのかな」

「お前しか落ち着いて話す奴が居なくてな。それでお前を呼んだ」


そう答えながら俺は缶コーヒーの中身を飲み干す。

すると山田は頷きながら返事をした。


「そうか」


と、だ。

俺はその言葉に前を見たまままた溜息を吐く。

そうしていると山田がこう話した。


「弟が闇バイトで捕まってから。...俺は感情が無になっているんだ」

「...感情が無になっている?」

「何とも思わないんだ。...人が捕まってもね。...俺の弟は闇バイトで人を殺しかけた」

「...?」

「モンキーレンチで人をぶん殴っている」

「...マジかよ」

「そうだな。...取り返しがつかない事をした。...正直、一生出て来なくて良いけど。それで感情が死んでいるのかもしれないな。被害者遺族に賠償も相当多額だったから。家族も離散の危機だったけど」

「...」

「俺はこれからも十字架を背負っていく。だけど君は違う」

「...?」

「君はあくまで彼女とは何ら関係がない。家族でも無いんだから」


そう言いながら山田はペットボトルのお茶を飲む。

俺は「...」となってから山田を見る。

山田は俺を見てから苦笑した。


「君は気遣いをしすぎだ」

「...」

「...多少は鬼になっても良いんだよ」

「俺は別に気遣いが激しい訳じゃ無いんだが」

「残念ながら鬼畜には見えないね。...豊橋もそうだけど。甘い」

「...」

「犯罪を助長している訳じゃないよ。だけど君は甘い」

「...」


俺は空き缶になった缶を見る。

そして山田を見る。

山田はゆっくり立ち上がってから公園のブランコに乗る。

それから漕ぎ始める。


「君はあくまで...復讐をしたくないのかい?」

「...そういう訳じゃないんだが」

「なら多少は鬼になっても良いじゃないかな」

「...」

「君、殆ど人の顔を見ているから」

「...お前が言うの珍しいな。そういうの」

「あくまで犯罪を助長はしてないけどね。だけど俺だって殺したい相手は居る」

「それは弟か」

「そうだね。家族は上手くいっていたのに彼が全部壊したからね。...賠償金を払ってもらったらぶっ殺したい気分だよ」

「...」


空き缶を捨てる。

それから俺もブランコに乗った。

そして座ってみる。

山田は横で漕ぎながら俺を見た。


「...賠償金を払えないから払ったけど。...だけどそうすると用済みだ。アイツは。...でも母親も父親も諦めてない」

「...何を?」

「アイツは息子だからってね。宝物だったから、だそうだ。...俺にとっちゃ憎たらしい存在だけど。...仮にも母親と父親の息子だしね」

「...」

「だけど俺はもう許す気はない。...アイツの事は許さない。一家を離散させた」

「...それに家族は甘いって言いたいのか」

「そうだね。父親も母親も甘いね。...俺は十分抗議しているけど」

「...上手くいってないのか」

「いってないね。正直、転換は全てがマイナスだ。弟は少年院に行っているけど。本当に2度と出て来ないでほしいもんだね」


山田の強い怒りを感じる。

あの山田が切れているのだから相当なもんだ。

そう思いながら俺は山田を目を動かして見てからそのまま前を見る。

山田は漕ぐのを止めた。

それから山田は「...この後時間あるかい」と言ってくる。


「ああ。まあ休みになったしな」

「...暇潰しに...ゲームセンターでも行かないか」

「生徒会の副会長が珍しいな」

「生徒会だってたまにはハメを外したいのさ。それに雨が降りそうだしね」


そして山田は歩き出す。

その後ろを俺は付いて行き。

近所のゲームセンターまでやって来た。

山田がキョロキョロうるさい店内を見渡してから苦笑した。


「懐かしいもんだ」


そう呟きながら対戦ゲームのコントローラーを動かしたりする。

まだ100円を入れてないから動かしてもデモ画面だ。

俺は静かにその姿を見る。


「俺の過去話をしたっけ」

「...弟以外は知らないな」

「そうか。じゃあ話そうか。暇潰しに俺の過去でも」


そして俺に向いてくる山田。

それから「ここが原点なんだ。...会長と出会ったのはね」と笑みを浮かべる。

という事はまさか。

そう思いながら俺は山田を見る。


「俺は昔は物凄い不良だったんだ。...影島達也と以前は対峙した事もあったぐらいに。だけど...その中で不良品の最中。会長に救われてね。...今に至っているんだ。弟の事があったから」


俺に向いてくる山田。

その姿を見ながら「...」となってから山田を見る。

そして山田は話し始めた。

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