第29話 感情を失った日
☆
私は家に帰りながら先程の事を考える。
豊橋の奴...というか。
忌々しい記憶だ。
そう考えながら私はあーちゃんを見る。
あーちゃんは私を見てから「...」と考えている。
そんなあーちゃんを見ながら家に帰り着いた。
「あーちゃん」
「?...ああ。どうした?」
「家の中、汚いけどごめんね」
「俺は気にしないよ。有難うな。そう言ってくれて。感謝だ」
そんなあーちゃんの言葉に頷きながらそのまま家にあーちゃんを招く。
それからドアの鍵を開けてからあーちゃんと一緒に部屋に入る。
「綺麗に片付いているじゃないか」
「そうかな?私は...そうは思わないけど」
「俺の部屋より1,000パーセントマシだ。良いじゃないか」
そうあーちゃんは苦笑しながら言う。
そっか。あーちゃんの部屋は...。
考えながらあーちゃんを見る。
するとあーちゃんは「まあ暗い話は置いて」と気を取り戻した。
それから私の肩を叩く。
「何かしようか。せっかく来たしな」
「あーちゃん...」
「俺の部屋の事はまあどうでも良いから」
私はその言葉に頷いた。
それから「えっと。じゃあリビングに行こうね」と笑みを浮かべる。
それから私はリビングにあーちゃんを案内してから...リビングに招いた。
「本当に綺麗だな。お前の部屋」
「まあ一応、チリとかホコリとか髪の毛は絶対に無い様にしているからね」
「...掃除上手だな。羨ましいよ」
「...まあ教えられたからね。冨山さんにね。生き残る術をね」
「そうだったんだな...冨山さんってのは?」
「私にバイオリンを教えてくれた人だよ」
「ああ。そうなんだな。...憧れなのか?」
「憧れとかじゃ無いよ。だけど憧れに近い何かもあるかなって感じはする」
そう私は言いながらハッとして「そうだ。あーちゃん。バイオリン見せてあげようか」と笑みを浮かべた。
あーちゃんは驚きながら私を見た。
それから「良いのか?」と聞いてくる。
私は「あーちゃんなら」とニコニコした。
それから私はあーちゃんの為に埃被っているかもしれないがバイオリンを見せる事にした。
メンテナンスも何もしてないのでバイオリン自体が死んでるかもだけど。
そう思いながら私は寝室の直されている場所からバイオリンを出した。
そしてあーちゃんの元に戻るとあーちゃんは壁の写真を見ていた。
「あーちゃん?」
「ああ。すまん。勝手に写真見て...何だか違和感を感じたから」
「...違和感?」
「ああ。...家族はやはり居ないんだな」
「あ、なんだ。そういう事?」
「...ああ」
「私の家族は冨山さんだけ」
そうニコッとしながら話す。
冨山さん以外の家族は知らないし。
考えながら私はあーちゃんにニコッとする。
あーちゃんは「...」となりながら私を見てから「お前の家族は話さないから多分歪なんだろうって思ってはいたけどな」と言葉を選ぶ感じで話した。
私はそんな言葉に「あーちゃん。問題は無いよ」と言う。
それからバイオリンを見せた。
「これがバイオリンだよ」
「...ああ。これか」
「もう弦とかボロボロだから弾けない。...だけど見せたかったから」
「...そうなんだな」
「まあどうでも良いけどね。所詮は負の遺産だし。私にとっては。...冨山さんとかを感じれないのは残念だけどね」
「...冨山さんって誰なんだ?実際」
「教育係かな。私の大切な」
「...そうなんだな」
それからあーちゃんは「教育係で仲が良かったんだな」と笑みを浮かべる。
私はバイオリンを見ながら「うん」と頷く。
あーちゃんは「でもなんで...」と呟いた。
私は、恐らくこの質問かな、と思いながらあーちゃんに「冨山さんは辞めたの。教育係を一身上の都合でね」と答えた。
「つまり...産休とかか?」
「まあ子供が産まれたんだよね。きっとね。だから一身上じゃないかな。でも私にとっては凄く衝撃的で残念な事だったよ。本当に残念と思うぐらいに。強いて言えば家族が亡くなった思いだった」
「...そうだったんだな」
「私は...冨山さんが辞めてから燃え尽きて。それから何も集中出来なくなった。それで学校を転校してからあーちゃんの居るこの場所に来た」
「冨山さんを引き留める事は出来なかったのか?」
「うん。出来なかった。何故かと言えば...あのロボットみたいな奴らが居たから」
私の顔から表情が消える。
ロボット。
皮肉。
ハハッ。くだらない。
そう考えながら私は再びあーちゃんを見る。
あーちゃんは真面目な顔で弦がボロボロのバイオリンを撫でながら聞いてくる。
「なあ。冨山さんとは連絡取れているのか?」
「いや。取れてないよ。アイツらが許さなかったから。連絡取れずそのまま」
「...ならさ。探さないか?冨山さんを。暫くはそれを生きる目標にしないか?」
そう言われ。
私はビックリした。
それからあーちゃんは笑みを浮かべる。
あーちゃん。
なんでこんなにも愛おしいのだろう。
「ねえ。あーちゃん。私、かなり問題がある子だよね。ごめんね」
「...お前がそんなに大変って事に気が付かなかった。それは間違いなく俺のミスだ」
「...あはは。にしてもあーちゃんに助けられちゃった。私が本来なら助けないといけないのに」
私はバイオリンを見てからあーちゃんを見る。
あーちゃんは「ゆっくり歩んでいこう。ここからは共同作業だ」と柔和になる。
その言葉に私は笑顔になって「有難う」と言ってからあーちゃんを抱きしめる。
それからあーちゃんの感触を確かめた。
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