第23話 暁月五月雨(あかつきさみだれ)
☆
俺達はそんなこんながあり家に帰った。
帰り着いた俺は家の玄関を開けると不安そうな顔の母さんがやって来た。
母さんは俺の顔を見てから涙を浮かべる。
それからゆっくり抱きしめて来た。
「大丈夫?」
「ああ。大丈夫。死んでないよ。母さん」
「死んでない...そんな言葉...本当に...この世界は容赦無いわね...」
母親の暁月五月雨(あかつきさみだれ)は40代の女性。
だが俺は母さんを20代と間違う様な若々しい感じで見ている。
美人だ。
そんな母さんはいつも俺を大切にしてくれる。
母さんも父さんも、だ。
有難いものだ。
「...最低最悪の世界だけど。貴方はそれでも生きた。それは本当に凄い事よ。頑張っているわね」
「...有難う。母さん。母さん達の支えが無かったら苦しかったよ」
「私は母親として貴方しっかり救えてない。出来てない。だけど貴方はそれでもしっかりやってる。本当に偉いわ」
そう母さんは話す。
それから母さんは俺を見つめてくる。
俺はその顔に柔和になる。
そして段差を上がる。
「...警察署に迎えに行けなかったわ。ごめんなさい。忙しくって。さっき帰ったから」
「無理に来てくれ、とは思ってないよ。母さん。有難う。本当に」
「...」
母さんは「カップケーキ作ったの」と言う。
それから笑みを浮かべてから「一緒に食べましょう」と笑顔になる。
俺はその顔に「そうだね」と頷く。
「母さん。俺さ」
「何?晴矢」
「俺は今の人生で良かったって思ってる。有難う。本当にいつも」
「...」
静かに俺を見つめてから唇を噛む母さん。
俺はその顔に「母さん。思い詰めないでね」と言った。
あくまで俺は大丈夫だから、とも話す。
昔と違う。
あくまで今の俺には味方が居る。
「あの頃とは違うよ。母さん。俺には大切な奴らが居る。もうきっと大丈夫だと思う。俺はきっとな」
「大切な...奴ら?」
「秀水柊子とかな。女性で。俺を好きって言ってくれる。...想いにはまだ応えられないけど。俺は有能じゃないから」
「そうなのね...そんな方々が...晴矢に...」
「あの地獄の日々とは違うよ。間違いなくね。有難う母さん。俺はあの頃より大丈夫だ」
そう話す俺。
すると母さんは涙を浮かべてから「...」となってから俯いた。
それから顔を上げてから俺を見る。
「分かったわ。貴方がそう言うならきっと間違い無いわね」と俺の頬に手を添える。
そしてゆっくりと手を離した。
俺はその手に触れてから母さんを見る。
「貴方は17年間で最も難しい状況下に居ると思う。だけど強くなったわね。晴矢」
「...俺は強くなった訳じゃない。みんなに助けられて今になっているだけで。...みんな本当に良い人達だから...な」
俺は椅子に腰掛ける。
それから母さんはカップケーキを持って来た。
と同時にポットで淹れた紅茶も母さんは持って来てくれた。
そんな母さんに感謝しながら熱い紅茶を見る。
そして湯気を見てから母さんを見た。
「こんな不条理な息子でごめん。母さん」
「貴方の事は信頼しているわ。だから貴方は何も悪くない。貴方は貴方らしく歩んでほしいわ」
「...母さんに申し訳ない。警察署なんて」
「貴方は何もしてないでしょ。警察の方が捜査の段階で必要だったから呼んだまで。大丈夫。心配は要らない。全く心配してないわよ。その辺りはね」
「どうして俺をそんなに信じてくれるんだ?」
「貴方は私の息子だからよ。自慢の息子。私は貴方を信じるとか信じないとかじゃない。貴方はそういう事はしないって初めからの論理なのよ」
「...はは。変わらずだね。母さんは」
「初めから分かりきった事を質問しないの。ね?晴矢」
母さんはウインクする。
その仕草は俺にとっては本当に助けになる仕草である。
母さんは母さんらしく居てほしいものだ。
俺が例えば死んでも。
「...母さん。母さんはどう思う?今の現状」
カップケーキを食べながら人差し指を口元に添える母さん。
それから「そうね...」と言う。
そして俺を再度見る。
母さんは「...段々と全てが動き始めた気がするわ。人に頼りなさい。私とお父さんにも頼りなさい。貴方は一人じゃないわ。必ず頼りなさい」と言った。
「...あくまで良い状況じゃないかもしれないけどだけど悪い状況じゃ無いとも思うわ。だから貴方は貴方らしく輝けるわよ。きっと」
「...有難う。母さん」
「私はあくまで当たり前の事をしている、なぞっているだけ。後は貴方がどう切り開くかよ。貴方の事、私達は応援しているわ」
「...ああ」
「私は...貴方を産んでから貴方の幸せをずっと願っていた。だけどここ最近は最悪だったわ。戦っても戦っても戦は負けるばかり。貴方は笑顔になる。だけどようやくよ。貴方の真の笑顔が見れたのは」
母さんは紅茶に対して「あちち」と言いつつ紅茶を飲む。
俺はその顔に笑みを浮かべながら紅茶を飲む。
そうして俺も母さん譲りの猫舌なものだから火傷する。
だけど悪くない火傷だった。
マイルドな味の紅茶だ。
その中で。
そうか...俺は本当に。
強くなったんだな。
そう考える事が出来た。
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