第13話 あーちゃん


私は家に帰りながら...山田昴くんの事を考えた。

彼は信頼に値するのか。

そして...。

いやまあそれは良いけど。

そう考えながら私はマンションに帰って来る。


「...」


鞄とか何もかもを投げ出してから私はベッドに沈む。

戦争だと思う。

今の状態は、だ。


だけど私は後悔しない。

もう屈しない。

そう決めているのだ。

それは...この10年間の願いだ。


「...はぁ...」


私は盛大に溜息を吐きながらそのまま起き上がる。

それから私は一人ぼっちの空間を見る。

彼だけが私の最後の期待だ。

私はもう戦い疲れているから...家族の事で、だ。


「優秀優秀って...馬鹿なんじゃないのかな...」


ただ...一人の男子を助ける為に。

大好きな男子を救う為に...こうしてもがいた。

そして今に至っている。

私はバイオリンも全て捨てた。


「...」


私はただ茫然と部屋の中を見ているとスマホに電話がかかってきた。

驚愕しながら私はスマホを見る。

そこに...暁月さんの名前が刻まれていた。

私は驚きながら電話に出る。


「もしもし?」

「...ああ。もしもし。秀水か」

「そうだよ。...どうしたの?」

「...俺さ。...ようやっと気が付き始めたんだよな」

「何に?」

「俺は生きていて良いんだってな」

「...」


「俺はレイプ魔じゃない。そう思っていたのは...アイツによる今の今までの洗脳だったんだろうな」と話す暁月さん。

私は「!」となりながら暁月さんの言葉に「...そうなんですね」と言う。

暁月さんは数秒間黙る。


「...俺さ。...初めての彼女だったからさ。浮かれていて...その隙を突かれて思わされた。...つまり洗脳されたのかもしれないな」

「そうだね...うん」

「だけど俺は...どんな形であってもレイプ魔じゃないんだ。...そう卑下していたのは何でなんだろうな」

「...心が壊れていたんじゃないのかな」

「かもな」


それから暁月さんは苦笑する様な感じで言う。

私はそんな暁月さんに「電話切って良い?」と聞く。

すると暁月さんは「え?良いけど...どうしたんだ?」と話す。


「テレビ電話にしたいの」

「テレビ電話って...俺の部屋汚いから」

「構わないよ。私、貴方の顔が見たい」

「...分かった」


そして暁月さんは電話を切る。

それからテレビ電話がかかってくる。

私はそれを受けてから暁月さんを見た。


「やっほー」

「...お前な...何だってテレビ電話なんか...」

「良いじゃない。...私、暁月さんの家を見たかったし」

「...はぁ...」


私は暁月さんの部屋を改めて見る。

質素な部屋だった。

そして...壁に穴が空いている。

相変わらず...だけど。

悲しくなる。


「...俺の部屋なんか見ても楽しくないだろう」

「いや。楽しいよ。...でも痛くないの?」

「...痛いよ。...心も身体も。全部がな」


たった一言そう聞いただけなのにそう答えてくれた。

私はその言葉に「...」となる。

それから顔を複雑にしない様にしながら「暁月さん」と聞く。

すると暁月さんは「何だ」と聞いてくる。

私はそんな暁月さんに「買い物...事件があって延期してたよね」と笑顔になる。


「!!!?!...た、確かにそうだが」

「買い物には行きたいよ。...デートでも良いんだけど」

「...」

「行ってくれませんか。...私、デートがしたいの」

「...分かった。お礼も兼ねて行くよ」


そう話す暁月さん。

私は「やった!」と喜ぶ。

すると暁月さんが「なあ」と言ってくる。

その言葉に「?」を浮かべた。


「これから先はお前の呼びたい名前で呼んで良い」

「...へ?それはどういう意味ですか?」

「俺の名前。暁月さんってのも変だから。俺もお前の事、柊子って呼ぶ」

「え...」

「...何かおかしいか?」

「い、いや。いきなりだったので...」

「敬語に戻ってんぞ」

「い...う、うん」


私はかぁっと赤くなる。

それから「...」となってから「分かった。...あーちゃんって...呼びたい」と言う。

すると「...へ?」となってから暁月さんも赤くなる。

「何でそんな...!?」と言いながら。


「...な、何でも呼んで良いって言った」

「た、確かにな。しかしそれでは恋人じゃないか。却下だ」

「嫌だ。あーちゃんって呼ぶ」

「...お前な...」

「何でも呼んで良いって言ったしね」

「その何でもはそういう何でもじゃないんだが!」

「良いから」


因みにこのあーちゃんっていうのは。

10年前に実際に暁月さんを呼んでいた名前だ。

だからあーちゃん。

私はあーちゃん以外は知らない。

呼び方を知らない。


「無茶苦茶だ...学校では絶対にそれで呼ぶなよ」

「あーちゃんって呼ぶよ」

「...何でだよ!!!!?」

「だって私が決めた。貴方が何でも良いって言ったから」

「穴を突くとは...信じられない」

「私に何でもって言ったのが間違いだったね」

「...でもその。何であーちゃんなんだ?」

「え?...い、いや。それは内緒」


そして私は「じゃ、じゃあおやすみ。切るね」と逃げようとした。

あーちゃんは「???...まあ良いけど。おやすみな」と言ってから電話を切った。

それから私は胸にスマホを添える。


これだけで心が相当に暖かくなった。

やっぱり好きだよ。

あーちゃん。

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