第12話 私だけじゃないよ

学校で全校集会があるのだが。

そこで...俺の現状の事を全部訴えてはどうなのか、とこの学校の生徒会副会長だという山田昴に言われた。

だけど俺はそんな気は無い。

まあ状況がどうなるか知らんがそれでも知らん。


それにそれをするにはまだ山田に信頼が出来ない。

そして正直、今の状況がチェンジするとは思ってない。

だから俺は暫く様子見だ。


「いやー。あんな奴も居るんだね」

「そうだな...俺は何か衝撃だよ」

「私はまだ信じるには値しないって思うね」


今日は入ったばっかりの部活が休みだという泉と一緒に帰宅していた。

秀水は用事があるという。

歩きながら後頭部に手を添える泉。

俺は「...だな」と答える。

その通りなので...何も言えない。


「...だってあの学校の生徒だしね」

「お前は信頼してないんだな。本当に」

「そりゃそうでしょう。君が心配だから」

「...お前はお前自身の事を考えて良いんだぞ。そろそろ」

「私は私なりにやるよ。だけど...問題は君の周りだよ」

「俺の状況はどうでも良いって。本当に」


オレンジ色の住宅街の世界を見る。

それから俺は泉と一緒に帰る。

そうしていると泉が「ねえ」と言ってくる。

俺は「?」を浮かべて泉を見る。


「久々にうちに来ない?」

「お前の家...ああ。家に行くのは久々...じゃないか。お前引っ越したもんな」

「そうそう。今、私...お父さんとお母さんとお姉ちゃんと。...マンションで暮らしているの」

「...そうなんだな」

「近所におばさんが住んでいるしね」


そう言いながら泉は笑みを浮かべる。

しかしおばさんとおじさん。

それから春子さんか。

一体、何年振りだろうか?


「なあ。...お姉さんは確か...」

「当時は高校生だったねぇ」

「...本当に久々だな」

「お姉ちゃん結婚したんだ」

「...ああ。そうなんだな」


泉はそう言いながら笑顔になる。

俺はそんな可愛らしい笑顔に苦笑した。

それから俺は泉に連れられてマンションに来る。

マジに近所だった。


「このマンションか」

「結構年季が経っているけどねぇ」

「知らなかった。...お前がこの場所に住んでいるなんて」

「まあそうだね」


そして俺は120号室。

つまり泉の家に向かってドアを開けてもらう。

それから「おかえりー...ってあれ?泉。その子もしかして」と猛烈な金髪の美魔女が俺を迎えた。


当時33歳だった。

何ら変わらない姿をしている。

ジーパンとか履いているし。

似合っているし。


「田子(でんこ)さん。お久しぶりです」

「んまー!!!!!暁月くん久々ね!!!!!」

「へ?お、っぷ!」


いきなり抱きしめられた。

それから当時から変わらない何カップあるかも分からない張りのある胸に埋まる俺。

何だこのボイン力...!?

そう思いながら離れる。


「あのですね!田子さん!いきなりですね」

「そりゃそうでしょう!ヒッサビサね!良かった...まあ色々あったかもだけど」

「...そうですね」


そうしていると泉が「もー」と怒りながら母親に頬を膨らませる。

そんな泉に対して苦笑する田子さん。

それから「でも本当に会えて良かったわ」と田子さんは柔和になった。

俺はその姿に「俺も会えて良かったです」と笑みを浮かべる。


「...それで今日は泉が誘ったの?」

「そうだね。...一緒に来ないかって」

「...そう...なのね」


田子さんは複雑な顔をする。

だが直ぐにハッとしてからニコッとした。

それから「さあさあ」と家に上がらせてもらう。

そしてリビングに招かれた。


「片付いてない場所でごめんなさいね」

「いえ...いきなり誘われたのは俺ですし」

「...泉から聞いているわ。大変だったわね」

「ああ。聞いたんですね」

「そうね。私が貴方達の立場ならそいつらマジにぶっ飛ばしてるわよ。何をすんじゃいって」

「...」


俺は変わらないその田子さんを見ながらまた笑みを浮かべる。

本当に変わらない。

俺を心配するのも...何もかもが、だ。

そう思いながら俺は田子さんを見ていると田子さんは手を叩いた。


「そうそう!ケーキがあるわよ!!!!!」

「え?い、いや。お構いな...」

「良いから食べなさい!食べて大きくなりなさい!!!!!」

「...」


嬉しいもんだな。

ここまで数年間で何も変わってないと、だ。

そう思いながら俺は台所に鼻歌を歌いながら向かう田子さんを見送る。

すると泉がそれを見てから「あはは。ごめんね。晴矢」と苦笑した。


「...でもお母さんも嬉しいんだよ。...晴矢に会えて」

「俺なんかに会って楽しいのか?」

「晴矢は大切な存在だよ。...私達一家もね」

「...そうか」

「私は...晴矢がイジメられているこの環境が許せない。...そして私が...今度こそ晴矢に全てを被せた女を追い詰める」

「...」


俺は泉を見る。

眉を顰めている泉に...俺は「サンキューな」と言った。

泉は「?」を浮かべて俺を見てくる。

何で?、とも言いたげだ。


「お前がそうやって言ってくれる。...そして元気なのが俺の1番の薬だよ」

「...晴矢...」

「...俺...傷付きすぎてよく分からなかったけどようやっと気が付き始めたんだよな。...きっとこの世界はそんなにクソッタレじゃないのかもなって」

「...私は...元からクソッタレって思ってないけど...だけど晴矢にとってクソならクソって思っていた。...そう言われて良かった」


そう言いながら泉は涙を拭う。

俺はその姿を見てから笑みを浮かべ前に目線を戻す。

それから考える。

この状況...どう転換するか...だな、と。

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