第9話 決壊寸前

クラスが暗い。

暗いっていうのは言葉の通りだが。

太陽の日差しがあるにも関わらずメチャクチャ暗転している。

その光景を見ながら俺はただならぬそのクラスの空気感を感じていた。


「いやー。険悪だね」

「お前は能天気だな。泉」

「そりゃまあ気にもならないから」


そんな感じで昼休みに俺達は会話していた。

相変わらず泉は周りは無視。

泉の弁当、俺の弁当、秀水の弁当を寄せて、であるが。

俺は苦笑いを浮かべる。

そして俺は秀水を見てみる。


「泉さんはいつもニコニコですね」

「元気が一番だよん。だからニコニコしてないと駄目だよ」

「でもお前が明るいからマジに助けられているぞ。変わらずだなお前」

「それだけ後悔も強かったよ。絶望だらけのせかいだったからね。今までずっとね」


複雑な顔を浮かべる泉。

それから俺を見た。

そして目線を逸らして戻す。

苦笑いを浮かべた。


「私、後悔ばかりの人生だった。だからもう後悔はしたくないから」

「...」

「泉さんにとっては彼は...何なんですか?」

「彼は私にとっては最後の希望、かな。そんな感じだね」

「...最後の希望ですか?」

「彼は...大切な友人だから。最後の友人だ。だから大切なんだ」

「...そうなんですね」


そう話しながら泉は静かに前を見る。

そんな俺達に声をクラスメイトがかけてきた。

俺達は。

というか泉が睨む様に彼女を見る。

確かコイツはクラス委員の玉城美玲(たましろみれい)だったか。

微かしか記憶が無い。

興味が無いせいだろうけど。

ポニテの真面目そうな生徒だが?


「何」


と泉がイラッとしながら反応する。

玉城はその言葉に申し訳無さそうな感じで俺達を見てから控えめに俺に対して「あの。暁月くん。話があるの」と言う。

話って何だ。


「外でお話がしたい」

「駄目です。この場所で話して下さい」


秀水が直ぐに却下した。

玉城は「だ、だけど」とオドオドする。

俺はその姿に「分かった」と言ってから立ち上がった。

秀水も泉も驚きながら俺を見る。

俺は秀水と泉を見ながら「大丈夫」と話した。


「玉城。話。何処でしたら良い」

「え?あ、えっと。あ、有難う。話は人が居ない場所が良い」


俺は不安そうな顔をしている2人を見てから「直ぐに終わる話だな?」と聞く。

すると玉城は「うん」と頷いた。

そして俺と一緒に教室の外に出る玉城。

それから玉城は空き教室に来た。


「わた、私は許せないので。貴方にしか頼るアテが無いので」


と切り出す玉城。

俺は「それはどういう意味だ」と聞いてみる。

すると玉城は胸に両手を添えた。

そして「クラスに裏切り者が居ます」と話をゆっくり切り出した。

その言葉に俺は「!」と反応する。


「...裏切り者ってのは何だ」

「う、裏切り者は私にとっては裏切り者です。私...偶然知ったから...誰にも相談出来ませんでしたから...だ、だから貴方にしか!」

「...自らを省みず俺に何でそれを俺に伝えようと思ったんだ」

「今のクラスメイト達は破綻しています。だから私。相談先が無くて。せ、先生に相談しても状況は直ぐには良くはならないと思いました」

「...そうだったんだな」

「多分、あのクラスは...もう元には戻りません。だけどそれでも常識ぐらいは弁えてほしい。だから私は貴方に話しました」

「...」

「私は貴方にお願いをするとかはしていません。ですが...も、もう私には...」


泣き始める玉城。

俺はその姿を見ながら「玉城」と声を掛ける。

すると玉城は「はい」と弱々しく返事をしてから口元を覆う。

今までの事を思い出す。

それは秀水と。

泉の事を。


「...俺には何も出来ないけど。...裏切りは俺は...考えるのがキツい。今までの経験上は」

「...はい」

「有難う。玉城。話してくれて。どうにか手掛かりを掴むキッカケになりそうな気がする」


それから俺はドアを開ける。

そして「戻ろう。じゃ無いと怪しまれる」と言った。

そして俺達はクラスに戻る。

当然、玉城は受け入れられたが。

俺は怪しまれた。


「大丈夫だった?暁月さん」

「何も無い。ただ勉強、先生の事で話しただけだったよ。有難うな。秀水」

「嫌な事をされたら言ってほしい。私は...許さないから」

「...大丈夫。嫌な事はされてない。寧ろ良かったと思う。玉城と話せて」

「どういう事を話したの?」

「ああ。先生と進路の話だ。余計な事じゃ無い」


俺はそう言いながら玉城をチラ見する。

玉城は女子達に笑顔で対応していた。

取り繕った笑顔。

俺は「...」となってから視線を戻した。



クラスの崩れは止まらない。

何かダムでも決壊しそうな感じだ。

何故こうなっているのかは分からないが。

俺はクラスをチラ見して大欠伸をした。


が。


その事態は翌日に起こり始めた。

何が起こり始めたか。

俺に対するイジメが激化した。

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