第6話 崩れた心の煉瓦を積み直す者

私の名前は秀水柊子。

私はこの10年間、恋をしたことが無い。

それは何故なのかと言われたら分からないのかもしれない。


だけど私は付き合う気が全く起きなかった。

そんな私が...暁月さんっていう男子を...買い物に誘った。

デートに間違えられそうなものに。

私は何をしているのだろう。

彼は忙しいのに。


「じゃあ...今週の土曜日に」

「...そ...そうだな」


帰り際。

そんな感じで私は暁月さんに笑みを浮かべる。

それから私は玄関を開ける。

そして見送ってくれる暁月さんと一緒に玄関から出る。


「...秀水」

「...はい?」

「何でお前は...。...いや...いいや。すまん」


黙る暁月さん。

私はその顔を見上げながら柔和になる。

それからニコッとした。

「何故暁月さんなのかって?」という感じに聞いてみる。


「私が暁月さんが良いって思ったからです」

「...そうな...んだな」


そして暁月さんは沈黙する。

私はその暁月さんに「私、暁月さんなら...信頼出来るので」とピースサインをした。

暁月さんは「...」となって私を見据える。

それから目線を外した。


「...なあ」

「はい」

「...敬語。止めて良いぞ」

「...え?それは...何故?」

「いや。...ゴメン。俺がそう思っただけだ」


そう暁月さんは恥じらいながら言う。

私はその言葉に「じゃあ次は敬語無しで。暁月さん」と笑顔になる。

暁月さんからそう言われるとは思わなかった。

衝撃的な話だ。


「...暁月さん。私...は。...暁月さんが心配。...だから一緒にこれから先を考えていきたいの。良いかな?」

「...お前と一緒だと気が狂うよ...。だけど...そうだな。それは一理あるかもしれないな」

「...じゃ、じゃあ...」

「ああ。一緒に考えてくれたら嬉しいよ」


暁月さんは私を見据える。

その言葉に私はパァッと明るくなる。

それから「有難う!」と言った。

そしてそのまま「じゃあね!」と言って帰った。



気が狂う。

正直、あの女と関わっていると。

女はもう嫌いなんだ。

そう思っていた、筈だった。

なのに何故。


「...忌々しい」


そう思って俺は立ち上がる。

それから玄関から外に出てコンビニに向かう。

すると店員が「いらっしゃいませ」と言ってきた。

顔を上げる。


「よ。晴矢」

「...お前...久々だな」

「上島泉(かみしまいずみ)ちゃんだよー」

「...」


上島泉は俺を助けてくれた同級生。

そして...同級生ながら俺を信じ、引っ越しを手伝ってくれて彼女も親の転勤の都合でこの街から去った...筈だったんだが。

どうなっている。


相変わらずの長い黒髪。

それから銀のカチューシャ。

そして丸眼鏡...何ら当時から変わってない。


俺は慌てて「何でこんな場所で?え。いつ戻って来ていつからバイトしてんだよ」と聞いてみる。

すると泉は「先だって戻って来たよ。...そしたらなんの。...君...聞いた噂だけどまたイジメられているらしいね」と複雑な顔をする。

俺は「...」となって「まあな」と返事をした。


「それって...訴えるとか引っ越さなくて良いの?」

「...ああ。でも俺は引っ越ししてもう逃げる事はしないつもりだよ。立ち向かうつもりだ。そう思えたのは...アイツのお陰かもな」

「アイツ?アイツってのは?」

「変な女が居てな。...ソイツに...助けられているんだ」

「ああ。そうなんだね」

「ああ。...それで何とか踏み止まっている感じだ」

「...そっか」


泉は苦笑しながら「大変だったね。それにしても」と言う。

俺がレイプ魔の罪を着せられた事はコイツも知っている。

重々に知っている。

だけど「君はそんな事をするタイプじゃ無いから」と言っている側の人間だ。

俺は...その彼女の姿を久々に見れた事に笑みを浮かべる。


「...泉。お前どこの高校に転校したんだ」

「...ああ。えっとね。君の学校だよーん」

「マジに?転校して来るのか?え?学校に!!!!?」

「そうだよ。君とは友人の仲だったしね」

「でも俺の学校は...」

「知ってる。レイプ魔っていう噂の病魔が広まりまくっているんでしょ?そんなもん気にしない。私は貴方を助けるよ」


その姿に俺は「...」となって沈黙する。

クソ...何でこうも。

どいつもコイツも、とそう思いながらイライラする。

そして俺は泉を見る。


「私、かつての友人としてこの事件を解決するから。絶対に貴方を助ける。貴方に助けられた分を返すから」

「...良いよ。俺は。もう死んだ様なもんだ」

「今変えないと...全てがそのまま。駄目だよ」

「...」


『暁月さん。今から全てを変えないと』


同じ事を言っていたな。

あの女子...アイツ。

そう考えながら俺は泉を見る。


泉はニコッとしながら俺の手を持った。

それからバシッと思いっきり手を叩いた。

イテェ!


「頑張ろう。...ね?」

「...あ、ああ。有難うな」


そして俺達はそう話してから。

泉と別れてからそのまま店内を回ってからアイスを買った。

心の熱で溶けそうだったが、だ。

全くどいつもコイツも。

何で俺なんかにー。

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