第3話 10年間の願い

世話焼き女房の様な転校生の秀水。

俺は眉を顰めながらその行動を見ていた。

そして俺は少しだけ保健室で休む事にして先生と話した。

秀水は必死に保健室の先生に訴えていた。

彼が陰口を叩かれたりイジメを受けていると、だ。


「...秀水。余計な真似をするなって」

「余計な真似じゃなくて当たり前の対応です。どんな人間でも人権はあります」

「俺はそんなに目立ちたくない」

「...目立つとかの次元で済ませて良いんですか?このままだと何も変わらないです」

「そもそも赤の他人だろう。俺達」

「私はそうは思いませんね。出会った時から」


保健室の先生は用事で席を外した。

俺と秀水だけがこの保健室に居るが。

レイプ魔とされている俺がこの状況に陥っている。

マズくないか?


「...秀水。もう帰れ。...マジに俺だけで良いんだ。被害者は」

「私はイジメ現場を見た以上。...義務があります。これでも私は前の学校じゃ風紀委員だったんです」

「...それは確かにそうだが。...だけどそれとこれとは別だろ」

「私は別とは思いません」

「...あのな。秀水」

「あくまで私が好き勝手にやっているだけです」


その言葉に俺は「...」となる。

何で分かってくれない。

そう思いながら俺は盛大に溜息を吐いた。

それから俺は「そうかよ」と吐き捨てながら秀水を見る。

すると秀水が何故か近付いて来た。


「...貴方の瞳は不思議な瞳です。...環境のせいかも知れませんが」

「何だよ...」

「私は無罪を勝ち取りたくなる」

「俺は...」

「何か間違っていますか」


そして俺の手を握る秀水。

何なんだコイツは。

マジに何なんだ。

そう思いながら秀水を見る。

イライラする。


「...世話焼きだな。...もう勝手にしろ。何れにせよ俺の次元は変わらない」

「そうですね。勝手にします」


それから俺は不貞寝をした。

そして目を閉じる。

クソッタレ忌々しい。

そう思いながらだが...。



私は胸にある金色の長年の影響で錆びているペンダントを取り出す。

ロケットペンダントだ。

そこには上下で2人並んだ写真がある。

その写真を見てからそのまま寝ている暁月さんを覗く。

間違いない。この人はあの時の人だ、と思いながら。


「まあ気付かないなら私が気付かせますけど」


そんな事を言いながら私は寝てしまった暁月さんの側に丸椅子を持ってきた。

それから私は長年の汗とかで錆びているそのロケットペンダントを胸に仕舞ってから笑みを浮かべる。

何があってこうなっているのか分からないけど。

こうして再会したのは...運命だと思う。


「私が...必ず晴らします」


そして私は目の前にある手を握る。

そうしていると彼が目をゆっくり開けた。

それから私を見る。

少しビクッとして赤面してしまった。


「...何をしている」

「私は見ていたんです。...周りに不審者が来ないか」

「...余計な真似を」

「あはは」


私はどれだけ嫌われていてもこの人に付いて行くと昔から決めている。

そう...あの時。

10年前のあの時から。

小学1年生で...だ。


「...お前は訳が分からない。...ただ道案内しただけだ。何なんだ。お前は誰なんだ」

「私は誰でもないです。ただ道案内してもらったからお礼をしているだけです」

「...道案内のお礼とかもう超えているだろ...お礼の範疇とか」

「良いんです。私がしたいって思っているから」

「...」


そんな私の言葉にずいっと顔を近付けて来る暁月さん。

少しだけ赤面した。

それからふいっと横を見てから立ち上がる。


「じゃ、じゃあ4時限目をサボってしまいましたから。お昼休みですしお昼ご飯を食べましょう」

「ああ。買いに行くよ」

「いえ。買ってきました」

「は?」

「あ、つい5分前にお弁当を買ってきました。...お口に合うかどうか分かりませんが。今日はタイミングもですし。明日以降は私が家でお弁当、作ってきますよ」

「...」


唖然とする暁月さん。

私はニコッとしながら暁月さんを見る。

暁月さんは後頭部を掻く。

それから財布を取り出した。


「お金は。その弁当は幾らだ」

「お金は要りません。だって私が好き勝手にやっていますし」

「...言うね...」

「そうです。好き勝手ですから」


そして私はお弁当を暁月さんに渡す。

すると暁月さんは「チキンカツ弁当か。...ん?そういえばさっき...お前、家で何か作って来るって言ったな。俺に...」とハッとする暁月さん。

私は頷きながら「はい。そうです。これもご縁ですから」とニコッとする。


「意味が分からない。明後日の方向に次元を通り越している」

「いえいえ。あくまで私が(好き勝手)にやっているだけですから」

「...撤回しても良いか。どう考えても優しい範疇を超えている」

「嫌です」

「...何でだよ...通い妻じゃないんだから」


そう言う暁月さん。

私はその言葉にニコニコしながらタルタルチキンカツ弁当を取り出す。

同じものだ。

暁月さんは「何で同じものを買っている」と驚く。

私は「タルタルですよ。こっちは」と笑みを浮かべた。


「...」

「少し食べます?」

「要らん」


そして暁月さんは「胸に突っかかるし今度何か奢る」と言いながらチキンカツ弁当を食べ始めた。

私はその姿に「はい」と笑みを浮かべて、いただきます、と言って食事をした。


暖かい。

本当に柔らかな。

10年間いつも願っていた光景がやっと叶った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る