第4話

 ぜえぜえぜえぜえ。焦りと疲れから酸素を吸うことが下手くそになる。あまりにも走りずらかったのでずっと下を向いていた。二人のところへ戻ると、

「あ、佐藤。どこ行ってたの?」

不思議そうに俺を見つめる泉がいた。頭は何故か濡れていて、でも制服はどちらも乾いていて。アンバランスさに驚きながら、その姿を見て彼が何をしていたか理解した。俺の努力と心配は無駄だったようだ。

「マジ許さん。」

俺はそう言って泉の頭をチョップした。彼は何も理解できていない様子だったが、さっきの俺の心配に比べれば大したことない強さだ。むしろ手加減したほう。泉は疑問が解消されずにもやもやしつつ、俺を仮設バレー会場にエスコートした。彼の頭にはわかめが乗っていたが、何となく伝えないでおいた。コートは砂にラインを引いて、ネットは村木が持ってきた遊び用のものが砂に埋められていた。少し傾いている気がする。

「やっときたか、どこいってたんまじ。」

心底不思議そうな村木に肩を組まれた。

「いいだろどこでも。ほらチーム分けしようぜ。」

「グッとパーで分かれましょ。」

俺と村木がグー、藤原と泉がパーだった。身長的にも丁度いいのでこのまま試合を始める。こっちのチームは俺が繋ぎ、村木が攻撃と分担したが、足場が不安定なので、村木は飛ぶとき毎回こけていた。段々こちらもイライラして砂を投げる。中々いいスローイングだったと思う。見事、彼の服へ全て吸収されていった。勿論村木は怒ったが、それでも楽しそうで顔はキラキラしていた。一方相手チームは泉が指示して藤原が動く戦術型。筋トレが趣味の藤原から繰り出される攻撃は砂をえぐる。村木は毎回取れていなかった。泉も持ち前の賢さで、多分計算で出したベストポジションにサッと動いて仕事した。悔しいがとてもいい相性だった。当然、結果は八対二十五の大差で負け。

「俺のせいだ…。」

村木は分かりやすくしょぼくれていた。俺も俺でこの負けた悔しさをどこにぶつけようかと、とりあえず砂を蹴った。けっ。あっちのチームはハイタッチをしてお互いを褒めあっていた。村木にも目を向けてほしい。あいつは拗ねると厄介だ。そう言ってもあいつらは煽ってくるだけでどうにもしてくれない。

「おい立て村木。」

俺は村木の背中をバシッと叩いた。快音。村木は痛そうにしながら立ち上がると、また肩に手を回してきた。

「まあ負けたけど一回だけだし? まぐれまぐれ。」

「おいおい負け惜しみか? 受けて立つぜ、泉が。」

うるさいツートップが取っ組み合いを始め、砂ぼこりが舞う。呆れつつ改めて自分の体を恐る恐る見れば、体のあちこちに砂がついて、砂まみれになっていた。他も同様だ。腕や首は汗をかいていた分砂の塊が多くて中々取れなかった。俺と泉が「この砂どーしようねー」なんてゆるい会話をしていると、いつの間にか空がオレンジっぽい色に変わっていることに気づいた。え、もう夕方なのか。いや、学校が終わるのが二時半だとして、移動時間だけで三時間くらい経っているはずだからそんなもんか。待て、俺達三十分くらいしか海にいなくないか?

「俺達ってどんくらい海にいた? 泉。」

俺が驚いている間にリュックと鞄を持ってきていた泉が、スマホを見ながら答える。

「まあ四十分とかそのくらいかな。バレーが三十分。」

「やっば〜。目的の海何もしてね〜。」

おかしくてつい笑ってしまう。目的と手段の時間の比率がおかしいし、海でやるべきことをしたのは結局泉だけだ。正しいことは分からないが間違ってることだけは分かる。

「そろそろ帰んねーと家着くの遅くなるよな。」

「そうだね。次の電車は…あ、あと五分後!?」

「うっそだろ急ぐぞ。」

急いで置いたリュックを手に取り、村木と藤原に呼びかけた。すぐに彼らは喧嘩をやめ、俺たちに追いつく。

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