フタリアート

冬至①

新木萌改め、双見はじめさんと対面してから早2週間

依頼されていたキャラは無事に納品し、堅木さんから感謝のメッセージが届いた

特に、双見さんは泣く程喜んでくれたらしく、それを聞いた俺と葉月は一緒にかなり喜んだものだ

そして今日、さっそく双見はじめとしての初めての活動

いわゆる初配信が行われる日になった

「さて、初めて自分のキャラが動くようになった事に関する感想は何かあるか？葉月」

「う～ん。何とも言えないね。私が全霊をかけて育て上げた子だから、自信をもって世間には出せるけど、私が感じた新木さんの雰囲気と双見の雰囲気が一致して視聴者に受け入れられるかが心配かな」

葉月が心配しているのはキャラとしての出来ではなく、それを使う人とキャラとの間で違和感がないかどうかだ

例えば、極端な話だが、丸眼鏡をかけたおさげの黒髪女子でいかにも文学系なのに、話し始めると、アウトドアな話ばかりをしたり、テンションの高いパリピだったりすると違和感を感じる人もいるだろう

勿論、それをギャップとして受け入れる人もいるだろうが、違和感を感じる人が多ければその分視聴者というのは定着しにくい

だからこそ、今まで触れてこなかったVtuberのママという存在になることで嫌でもその立場に立ち、客観的な感想を取り入れざる負えなくなるという、この案件を俺は受けたまである

失敗すればもちろん経歴に傷はつくし、双見さんに対する罪悪感で葉月は潰れてしまうかもしれない

けれど、成功した時に得られる知名度と実績はラノベの絵を描いて、趣味絵を上げているだけでは得られないものでもあるのだ

「ま、少なくとも俺は彼女の雰囲気とマッチしているように感じたし、そう感じたから彼女も泣いて喜んでくれたんだと思っているけどな」

「そうだね、あとは双見の初配信を楽しみにするだけかな？」

双見の初配信は今日の19時からだ

で、今はまだお昼の1時だ

配信時間までまだ時間がある

となると、

「なぁ、せっかく自分の初めての子供みたいなものなんだし、応援の意味も込めてさ、これやらないか？」

「うーん。けど、私他の人と話せないし」

「わかってるよ。だから―」

「確かに、それなら出来るかも」

「じゃ、堅木さんに確認するな」

軽く葉月と話した後に、堅木さんにメールでさっき葉月と話した内容をしてもいいか確認してみる

すると、初配信の前だからという事もあるのか、すぐに返信が来た

「堅木さんが、是非やってくださいだって」

「わかった。じゃあちょっと考えてくるね～」

そういって、葉月は自分の部屋に戻り、作業を始める

となると、俺は暇になるので、今日デビューする新人に対するネットの反応を確認していく

今ネットで発表されていることは、デビューする新人の名前、キャラの絵だけだ

それに対する反応を見ていくと、概ね好感的な感想が多い

中でも、キャラの絵くらいしか情報が無いので、絵に関する感想が多くみられる

―この絵、めっちゃ好き！デビューする前から推しになる予感！

―あれ？この絵ってこの前発売されたラノベの表紙に少し似てる？

―こんな感じの子が実際近くにいてくれたら楽しいだろうなぁ

絵しか載っていないのに、そこから色々感じ取ってくれている人が多いのは嬉しいし

ラノベの表紙の絵柄と似ているという事に気づいてくれている人が多いのもかなり嬉しい

こういった製作者にとってプラスになるようなことは後で葉月と共有したいので、なるべく保存をするようにしている

だが、やはり一定数アンチも湧くわけで、絵が下手であったり、AIによる生成を疑われたり、偏見で物を言っている人もいる

葉月と話し合って大抵の批判は許そうという話にはなっているのだが、一定以上のラインを越えている物、今後の活動に影響が出そうなものは惜しまずに情報開示請求を行うという事にしているので、アカウント名とその発言を全て記録し、　顔の利く弁護士に全て送信する

難しいことは分からないが、証拠となる物を送り付けておいてくれれば勝手に作業をしておくといわれているので、遠慮なく利用させてもらう

それからしばらく、SNS運用や、今後のスケジュールの整理、メールの確認を行っていると葉月からメッセージが届いた

＜さっき言ってたあれ、これに決めたからよろしく＞

＜おｋ＞

内容を確認してから返信すると、もう一度堅木さんに連絡を取る

＜先程相談させていただいた件、完成しましたのでこれでお願いします＞

＜早いですね！？最悪配信の直前くらいまで待つつもりでいたのですが、早く仕上げてくれるのは助かります＞

＜うちの「はづき」も今回の案件はとても気に入ったそうなので、恐らく筆が乗ったのだと思います。双見さんにもよろしくお伝えください＞

それだけ送信すると、葉月に対して堅木さんから受け取ったという連絡を受けたと伝える

さて、後は初配信まで楽しみに待つのみだ