大雪②
「あらためまして、今回は話し合いの場を用意していただいてありがとうございます。イラストレーター「はづき」のマネージャーをしております。鏑木羽月と申します」
「こちらこそ、私の要望に応えていただくための場だとお聞きしております。なにとぞよろしくお願いします」
お互い初対面という事で、ある程度の挨拶をすると新木さんがVCを立ち上げているPCの画面に目を向ける
「すみません。うちの「はづき」は少し人と会話をすることを苦手としているので、今回はVCのみで基本的に私が「はづき」から受け取った質問を新木さん改め、双見さんに質問させていただきます」
「そうなのですね。わかりました。それでは「はづき」先生もよろしくお願いします」
基本的に、作品を作るための取材となると絵師本人が取材をするのだろうが、極度の人見知りの葉月には難しい
現に、おそらく今もPC画面の前でさえ固まってしまっているだろう
「それでは、さっそく質問の方を始めさせていただきますね。最初は―」
☆ ☆ ☆
「「はづき」の方から質問は以上で十分だという趣旨のメッセージが届きました。ご協力ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ私の事を理解しようとしてくれてありがとうございました」
一通り葉月が気になっていた質問と、新木萌という人間の雰囲気を知ることが出来たという旨のメッセージが届いたし、何なら今から作業を始めるらしいので交流としては十分だろう
質疑応答が終わって、改めて新木萌、もとい双見はじめを見てみると、声としてはものすごく柔らかい声を持っていて、いわゆる癒しボイスという物を持っているんだろう
それに、声と性格が一致していて、この人は本当にこの声の通りの人なんだろうという印象を与えてくれる
これは、基本的に声で勝負しているVtuberとしては大きな武器になるのだろう
あまりにも媚を売っている声というのは、視聴者にとっても目新しさはあっても長続きはしにくい。それに、その声をネタとして使っているのであれば、ある種の売り方としては正解なのだろうが、ネタじゃない場合は視聴者に媚を売りまくる配信者として見られた瞬間人気が低迷してしまう
だが、双見の声はおそらくそうではなく、一定数の人がまた聞きに来たいと思えるほどの声と性格を持っているので、デビューしてからの活躍が今から楽しみだ
「今回のこの時間を必ずや良い時間として、より一層良い作品が出来上がると思いますので、ぜひ楽しみにお待ちください」
「それなんですが、作品の締め切りの方は本当に今の状態でよろしいのですか?」
疑問に思った堅木さんが質問をしてくる
まぁ、俺も少しくらい伸ばしてもらえるなら伸ばそうとしていたのだが
「本人に確認したところ、これまではパズルの1ピースがどこにあるのかがわからなかっただけだから、場所さえわかれば時間はかからないとのことです」
「私はあまり創作に関して詳しくはないのですが、そういう物なのですか?」
「私自身も分からないことだらけなのですが、こういった時の「はづき」は信用してもおつりがくると思いますよ」
俺がそう伝えると、納得したように堅木さんは頷いていた
ふと、気になると新木さんが堅木さんの隣で目を輝かせていた
「先ほどから気になっていたのですが、鏑木さんと「はづき」さんって付き合いが長いんですか?」
「そうですね。高校の頃からの付き合いですので、多少は長いと思います」
「高校からのバディで今も二人で活動してるって、なんだか憧れますね!」
「そうですかね?私としては毎日「はづき」の実力と性格に難儀しているので何とも言えないですね」
実際、俺がやっているのなんて、ただの窓口だけだ
葉月がコミュニケーションを取れないからやっているだけで、もしコミュニケーションが取れるなら俺のポジションは必要ないし、今あいつの隣にいることは出来なかっただろう
「意外と、自分で感じている状況は、他の人から見ると楽しそうに見えるものなんですよ?」
「確かに、退屈はしませんからね」
彼女の絵の実力もそうだが、毎回毎回何かと面倒な事を言ってくる彼女には飽きることが無いだろう
「その関係は羨ましいです。私にはそう言った関係の友人はいませんでしたから」
そういった新木さんは少し顔に影が落ちていた
恐らく彼女は学生時代(今も大学生だから学生だが)にあまり良い思い出が無いのだろう
実際、ネットで活動している人の一定数は学校生活に嫌気がさして引きこもってネット生活を始めた人も少なくない
だからこそ新木さんに何かがあったという事に驚きはしない
それに、「はづき」にも色々とあるしな
「それは、これからの生活の中で見つかると思いますよ。ネット活動といっても人と関わることの多い職業ですから」
堅木さんがフォローをするように新木さんに伝えたが、彼女の表情が明るくなることはなかった
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