大雪①
「ふぅ、流石に緊張するな」
先日、企業に対して対面での会話を求めた俺は、今日なら機会を設けることが出来るという事でライバーの企業本社に足を向けていた
どうしてここまで遅れたのかというと、新しくデビューすることになっていたライバーはまだ東京から離れた所に住んでいるらしく、企業本社がある東京に来るのが今日だったというだけだ
葉月に対しても今日の予定は伝えており、13時頃から対面するので、その時間を目途に一旦作業を止めるように言っている
といっても、今受けている企業案件はないので、個人からの依頼のイラストを描いているだけらしい
葉月は仕事に対してのモチベーションの差が激しく、個人以来の作品は締め切りというのが設けられていない
だから、「出来上がるのはいつでもいいから、もし良ければ書いてください。最悪納品が無くても大丈夫です」という人のみが、先払いで依頼をしてくる
まぁ、葉月の話は置いといてっと
「やっぱり流石大企業だよなぁ、こんな東京のど真ん中に事務所を構えるなんて…」
葉月が作業している部屋や、俺が普段生活している部屋は家賃を節約するために、千葉においている
別にイラストレーターの仕事は東京じゃなくても困らないし、俺も彼女の手伝いをしているだけだから東京である必要はない。というよりも、俺の場合の立地条件は葉月の家からそれなりに近い距離というのを第一に考えているので、土地に対するこだわりは少ない
まぁ、葉月の場合は、困ったときにすぐに対応できるように、それなりに駅から近く、コンビニがあり、それなりの部屋の大きさをもった場所という条件がある
部屋の大きさに関しては、ワンルームタイプで生活空間が全て一つに固まっている環境だと、彼女が集中することが出来ないので、部屋が複数ある場所を探せば、それなりに大きくなってしまうのだ
「さて、時間まであと15分か、少し早いが入っておくか」
事務所の入っているビルに入り、ロビーにある受付で入館手続きを終える
「それでは、この入館証を首からおかけになってください」
しっかりと入館証を首からかけ、今回の目的地である事務所のある11階までエレベーターを利用して移動する
これは個人的な感想なのだが、10階以上に移動するときは、なんだか小さい時のわくわく感が出てくるので自然とにやけそうになってしまう
チンッ―
エレベーターが11階に到着したことを表すアナウンスが流れて扉が開く
そこには
「VG」
と書かれたロゴがあった
Virtual Gaming
主にゲーム配信を主としたVtuberプロダクションで、他の事務所との違いはライバーをアイドルとしての売り出しが少ないという点だ
勿論全くないというわけではなく、誕生日等の特別は日にはライブという形をとることもあるが、基本はライバー個人が視聴者とコミュニケーションをとるという事が重視されているので、お正月なども個人の配信はあっても、グループ配信が少ないというのが特徴の一つだ
一時はライバー同士の不仲説が出たこともあったが、稀に出るオフでの絡みや、音声オンリーの配信でのオフコラボなどから今ではもう噂を聞くことはなくなった
事務所につくと、所属ライバーたちの等身大パネルが出迎えてくれた
少し進むと、受付があったので自分が13時からアポイントメントを取っている羽月であるという事を伝えると、応接室に案内された
そこには所属ライバー達のこれまでの配信で話題になった時のSSやこれまで限定販売されていたようなグッズ達が並んでいた
「流石、Vtuber界隈でトップクラスの会社だな。事務所の立地から出してるグッズの数まで流石としか言いようがないな」
部屋を見渡していると、応接室の扉が開きスーツ姿の堅苦しそうな印象の男が入ってきた
「お待たせしてしまってすみません。私、Virtual Gamingの
「ご挨拶ありがとうございます。イラストレーター「はづき」のマネージャーをしております。
「いえいえ。こちらとしても、ライバーに寄り添ったデザインを作っていただきたいと思っておりますので協力は惜しみませんよ」
「それで、メールでもお伝えしたのですが、イラストレーターの「はづき」は極度の人見知りでして、今回の話し合いで中継役として私も参加させていただきたのですが、よろしいですか?」
「もちろんです。もう少しでライバーも到着いたしますので、私も加えた4名での話し合いでよろしいですか?」
「無理言ってしまってすみません」
それから俺と堅木さんで軽く雑談をしながら、葉月と通話をつなげるための準備と葉月への段取りを伝えておいた
そして
「はじめまして、今度「双見はじめ」としてデビューさせていただきます。
担当ライバーとの話し合いが始まった
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