小雪①

あれから、2週間ほどが過ぎた、結局葉月は短くなった締め切りにもしっかりと間に合わせ、取引先が納得するような作品を収めることが出来た


また、あれから少し仕事内容にも変化が起き


「ねぇ、この仕様書だけで書いてもなんだかあってる気がしないんだけど」


今は、新しくデビューするVtuberの絵を描くことに苦労していた


「ていっても、これ以上詳しくしようとしたら流石に本人と話さないと難しいぞ」


今彼女が見ているのは、葉月が担当するVtuberの特徴と、その要望、それと趣味、好きなもの、嫌いなものが書かれたいわゆるプロフィール帳と言われるものだ


それをもとに、キャラを作っていってるのだが、どうやら彼女としては、その人の雰囲気がわからないとキャラを作ってもVtuberとしての完成度が高いのかどうかがわからないらしい


「うーん、けど私は人と話せないしなぁ」


ちなみに、葉月がどれくらい人と話せないのかというと、対面した瞬間全く言葉を出せなくなる。しかも、これは対面だろうが、オンラインだろうが、メッセージだろうが変わらないので厄介そのものである


…まぁ、そうなった原因もあるのだが


「あ、そうだ。なら私の代わりに羽月が相手の子と話してきてよ」

「はぁ?」


いきなりの事に俺は、怪訝な表情で聞き返してしまう


「だって、あんたは普通に人と話せるし、なんなら得意でしょ?その様子を私が聞いていれば私も、その人の雰囲気がわかるし、相手の要望に沿った絵が描けそうなのよね」

「まぁ、俺は別にいいが、その場合俺の事はなんて説明すればいいんだ」


基本的に、俺は外の人と会話をするときはイラストレーター「はづき」として、活動している。これは、下手に本人ではないという事がばれてしまったら無理にでも葉月と接触しようとする人が出てくるかもしれないという事を危惧しての事だ


ただ、正式に取引が決まった相手には他言しないという契約書にサインをもらって、俺が窓口の役割をしていてイラストを描いているのは葉月であるという事は伝えている

まぁ、口だけではいわゆるゴーストライターや、AI生成を疑われかねないので、全く話すことが出来なくなって人形になっている葉月を同伴させて対面しているのだが


だから、今回のVtuberのキャラ作成においても、相手企業の担当の人とは顔合わせはしている

だが、正直な話、それ以上に葉月についての情報を外に出しすぎるのは避けたい

というよりも、企業の人間ならば問題が起きたときに企業の問題として対処をすることが出来るが、事ライバー関連になると、ライバーは社員としての扱いになるのかが、俺にはわからないので、対処が遅れる場合がある

だからこそ、例え自分が担当するライバーだとしてもあまり、葉月の情報を外には出したくない


「普通にマネージャーでいいんじゃない?」

「マネって…いや確かに、それなら大丈夫なのか?というか、それならそれで、お前はどうしとくんだ?俺からのまた聞きでイメージは固められるのかよ」

「あんたと通話をつなぎながら、適宜私があんたに対して色々質問を送れば問題なし!」

「俺は通訳かよ…」

「そうよ!」


認められちゃったし…


「とにかく、わかったけど、流石にすぐには難しいだろうから、先方と連絡を取って予定が決まったら知らせるわ」

「わかったわ。けど、それまでどうしようかしら?今は他に受けてる案件も無いんでしょ?」

「そうだな、とりあえず今日は時間も微妙だし、ゲームでもするか…出来ることないし」


今は朝の11時、今日は朝から葉月からの電話が来たので、起きてすぐにここに来たが、正直さっきの話を連絡したらやることが無くなるし、葉月もやることが無くなる


まぁ、この間の締め切りを短くしたお詫びとして、しばらくはゆったり過ごしてもいいだろう


「そうね、けど、お腹が空いたわ」

「そうだな。今日は冷蔵庫の中にある野菜を片付けたいから焼き飯でもいいか?」

「なんでもいいけど、お腹が空いたと思ったら何か食べたくて仕方がないから早くして」

「へいへい、承知しましたよ。お姫様」


お姫様の要望は叶えないといけないので、俺は冷蔵庫を開け適当に野菜と、ベーコンを取り出す


良く動画サイトで美味しいチャーハンの作り方が上がっているが、小さいころから祖母が作ってくれた焼き飯の方が好きだった俺は基本的にチャーハンを作らない

ついでに言うと、ばあちゃんっ子過ぎて、圧力釜で米を炊いていたのが影響して、俺も圧力釜を使っている


炊飯器では急速炊飯でも30分近くかかってしまうが、圧力釜なら15分程で炊けてしまうので、ご飯の準備をするときの時短術になっている


さて、それじゃあお姫様を満足させるために頑張りますかな

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