立冬②

「さむっ」


ついこの前までは、半袖で過ごせる程暑かったのに、最近は長袖にしないと肌寒くなってきた


「そろそろ、ちゃんと冬服を用意しないといけないな」


個人的にはパーカーが好きな人間なので、冬はほとんどがパーカーで過ごしているのだが、まだ早いかと思い、未だにタンスの中に封印されているのだが、もう出しておいた方がよさそうだ


「さて、ハンバーグを作るのに必要な食材はっと」


そういいながら、俺はスーパーを野菜コーナーから順にぐるりと店の中を回りながら必要な食材を買っていく


また、の健康面も考えて、少し野菜を多めに買ったり、集中面を支えるために、あいつの好きなチョコと駄菓子を少量かごの中に入れた


「結構重たくなったな」


ハンバーグの素材だけなら別にそこまで重たくないのだが、牛乳やら、スポドリ等を入れるとそれなりの重量がある


☆ ☆ ☆


ピンポーン―


目的地についた俺はインターホンを鳴らし、家主が出てくるのを待つ


…のだが、一向に出てくる気配がない


は集中すると、自分の世界に入り込み、周りの音や環境が全くというほど気にならなくなるので、インターホンくらいの音量じゃ気づかないことも多い


まぁ、そういう時のために合鍵を持っているのだが


カチャッ―


俺は合鍵を使って鍵を開けると、あいつが作業しているだろう部屋に向かった


部屋を覗くと、机に向かって集中しているあいつの姿を確認だけし、部屋から離れる

流石に集中している人間の邪魔をするほど人間やめてはいない


部屋から離れ、キッチンまで進むと要冷蔵の食品は冷蔵庫の中に詰め込み、夕食に必要な食材のみをキッチンに並べる


「さて、あいつの集中が切れるまでに頑張って仕上げますか」


彼女がいつから集中しているのかは知らないが、彼女の持久力はそんなにない

というよりも、元の体力が無いので長く集中することが出来ない

その分、短時間での作業量は目を見張るものがあるが


まさに量より質という物を体現している


☆ ☆ ☆


ガタガタッ


もうすぐ出来上がるというタイミングで、彼女が作業していた部屋から物音がし始めた

どうやら、ひと段落付いたのか、集中が切れたのか、何にせよ作業を中断したらしい


ガチャッ―


「あれ?羽月はづき来てたの?」

「ああ、お前が作業に集中してたから、ご所望のハンバーグ作っといたぞ」

「やった!羽月の作るハンバーグ好きなのよね」

「極々普通のハンバーグなんだけどな」

「作ってくれる気持ちが嬉しいものなのよ」


そういうと、俺が座っている前の席に座り用意しておいたハンバーグを頬張り始める


さて、さっきの会話で気づいた人もいるだろう


俺の名前は柿原羽月かきはらはづき、さっきふざけた電話をしてきて、今目の前でおいしそうにハンバーグを頬張るイラストレーター神谷葉月かみやはづきのマネージャーというか、外部とのやり取りの窓口をしている


羽月と葉月

同じ読みの名前を持つ俺達は、高校の頃から何かと一緒に行動することが多く、周りからは良くカップルだと思われるのだが、実際には全然違う


基本的に、誰とでも会話をでき、交渉等も得意としているが、特技を持っていない羽月と、何か一つの事に集中する特技を持っているが、周りとのかかわりを持つのを大の苦手としている葉月

それぞれが得意としている事を分け合うことで、人として完成する


と、彼女は言っていた事があるが、結局のところ、彼女の苦手分野を少し支えているだけの腰巾着が俺だ


「やっぱり羽月の作る料理はどれもおいしいわね!」

「そこまで言うなら、俺が丹精込めて切ったキャベツも食べてくれてもいいんだぞ」

「それとこれとは話が別よ」


俺が作っておいた料理を美味しそうに食べる葉月だが、ハンバーグと一緒に皿に盛りつけておいたキャベツの千切りには一切手を付けていなかった


こいつ、ただでさえ不健康な生活をしているのに、食事でさえアンバランスになってしまおうものなら近いうちに倒れるぞ


「そうか、じゃあ食べ物を粗末にしている奴に俺は料理を作りたくないから、これからは自分で頑張ってくれな」

「あら、このキャベツおいしいわね~」


(自分で料理が出来ないからって、いくらなんでも現金すぎだろ)


ちなみに、放っておけばすぐに不摂生な生活になりかねない葉月だが、なぜかスタイル、容姿ともに整っているのだ

俺が作っていない時は野菜なんて食べないし、お肉関係の物ばかり食べているのだが、髪は天使の輪が見えるほどツヤツヤだし、肌も感想しらずのプニプニなのだ


というか、何故か程よく運動して、食事に気を付けている俺よりも健康的な身体をしている


男なのに嫉妬しそうだ


「それで、えらく集中してたけど、締め切りまでに出来上がりそうか?」

「ええ、どっかの誰かさんが締め切りを短くしてくれたおかげで捗ってるわ」

「それは良かった」


俺が満足そうな表情をしていると、「チッ、皮肉に決まってるでしょ」と言っている彼女の姿が見えるが、気にしないでおく


「そういえば、その案件が終わったら面白そうな仕事があるんだが、やるか?」

「なによ、その面白そうな仕事って?流石に内容を聞かない限りは私もOKだせないわよ?」

「わかってるよ」


そういって、少し溜めてから


「お前、ママになる気はないか?」


と伝えてみた

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