第3章 病院
第9話 病院(A1パート)救急搬送
頭部を強打し血を流しながら意識を失ったコンくんは、
救急受付で垂水先生が身分証明書を提示すると、看護師が駆けつけた。
「忠度学園の養護教諭の垂水様ですね。先ほど救急搬送されたのは、おたくの生徒である
「はい、間違いありません。それで彼はどのような状態でしょうか」
「坤さんはまだ意識が回復しておりません。頭部にも大きな裂傷が見られます。精密検査を進めてはおりますが、このまま意識が戻らない可能性もあります。なぜ彼がこのような状態になったのかについては、これからこちらへやってくる警察の方に詳しくご説明くださいませ」
垂水先生は後藤くんの様子を
真夏美は後藤くんの代わりに手早く答えた。
「ここにいる後藤くんがコンくんを階段へ投げ落としました。そのとき頭部から落下したようです。階段を転げ落ちて動かなくなり、頭部からの出血もあったので、先生に伝えて救急車を呼びました」
「やはり頭部から叩きつけられていましたか。加害者はそちらの後藤くんという方でよろしいのですね」
「はい、間違いありません。私とひらりがその様子を見ています。だよね、ひらり」
「私も後藤さんがコン先輩を階段に投げ落としたところを見ています。ですが、それも私のせいです。私がコン先輩と話していたのが、後藤さんには気に食わなかったらしくて」
真夏美とひらりは後藤くんを見るが、やはり震えているだけで口がきけないようだ。よほど恐怖心が強いのだろう。
成り行きとはいえ、仮に意識が戻らなかったり戻っても動けなくなったり最悪死んでしまったりすれば、へたをすれば殺人犯。少なくも傷害事件であることは疑う余地がない。意識が戻ったとしても後遺症で不遇の身となれば重罪と莫大な損害賠償は確定だろう。
いっときの過ちで一生を棒に振りかねない。後藤くんは人生の岐路に立たされている。
「そうですか。ではそのことはこちらからも警察の方にお伝え致します」
看護師も慣れているのだろう。にこやかな笑顔を浮かべて後藤くんの緊張をほぐそうとしている。
「それと、気になることがあるのですが。垂水先生、よろしいですか」
垂水先生がなんでしょうかと応じた。
「彼の手足や身体に無数のあざを確認しました。もしかしたら日常的にいじめられていた可能性はありませんか。たとえばこちらの後藤くんが常日頃からいじめていて、それがエスカレートして今回の事態が起こった、というようなことは」
「いえ、いじめられてはいないはずです。彼はそもそも今日転校してきたばかりですので。全身にあざがつくほどの揉め事はなかったでしょう。そうよね、後藤くん」
「は、はい。彼と接したのは今回が初めてです。それ以前に出会ったことはありませんし、話をしたこともありません」
後藤くんは震えながらも気持ちを抑え込むようにゆっくりと語った。
「なるほど。つまり、あざはあなた方とは関係ない、ということでよろしいのですね」
看護婦の念押しに垂水先生が答える。
「はい。過去の傷はこちらでは把握しておりません。もしかしたら以前いた学校でいじめを受けていた可能性も否定できませんが、それについてはわが校では伝え聞いておりませんので」
「もしかして、父親から虐待されていた、ということは」
真夏美は看護師と垂水先生に問いかけた。
「彼は父親と二人暮らしだと聞いています。ですので父親からの虐待はあったのかもしれません」
「編入試験のときもひとりで来ていたので、学園側は父親とはまだ対面しておりません。ですので、まだ家庭環境まで把握できていないのです」
「そのことも警察の方に聞かれるでしょうから、できればお父様にもこちらへおいでいただきたいのですが。お父様の勤務先へ連絡していただけませんか」
「こちらへ向かう前にコンくんの緊急連絡先に電話を入れてみたのですが、応答はありませんでした。留守電も入れましたが折り返しはありません。これからもう一度電話してみます」
「お願いいたします。それでは警察の方が来られるまでお待ちいただく部屋へご案内致します」
「わかりました。皆、移動しましょう」
看護師を先頭に待合室へと通された。
「かなり古いうっすらとしたあざもありましたから、日頃から怪我をしていたことは否めないでしょう」
その言葉に真夏美は思い出した。
「コンくん、昨日公園のブランコで着地に失敗してお腹を打っているはずです。そのあざなら原因はわかるのですが」
「普通、ブランコをしてお腹を打つことはありえないのですが。作り話ではないですよね」
看護師が疑いの声をあげる。確かに普通に乗っているかぎりブランコでお腹を打つはずがない。
「えっと、ブランコで宙返りをして手すりの上に着地しようとして足が滑って、手すりにお腹を打ちました。それはこの目で見ています」
「ブランコでアクロバットですか。忠度学園には体操部がありましたよね。彼は体操部員ですか。体操選手なら体中にあざをつける選手もよく見ますから」
「体操選手だとしても、今日転校してきたばかりですから入部はしていないはずです」
「昨日話したところからなのですが、どうやら体操選手ではないそうです。サーカス団員でもないって言っていました。ただ仕事はしていて、そちらでは危険なこともやっているようなことは、コンくんから直接聞きました」
「え、真夏美さん、コン先輩と面識があったんですか」
ひらりの疑問もわかる。学校ではツンケンしていた間柄なのに、なぜ転校前に会っていて話をしていたのか。垂水先生も後藤くんも
「偶然、ね。まあ、そのときにうちの学校に転入してくるっていうのは聞いていたんですけど」
「危険な仕事ですか。学園側は把握していますか」
「彼の仕事については教員全員が把握しています。ただ、生徒たちには知られたくないとのことだったので、ここでは話せませんが」
「それでは垂水先生は警察の方にお話しください。彼を階段に投げ落としたのがそちらにいる後藤くんで、その原因を作ったのがひらりさん。名字はなんと言うのですか」
「
「蛭沢さんですね。そしてその様子を見ていたのが真夏美さん。あなたも名字を教えて下さい」
「秋川です」
看護師が状況を確認しようとしていると、彼女の携帯電話が鳴った。
(第3章A2パートへ続きます)
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