第4話 出会い(B2パート)校内見学
休み時間になるとさっそく、
「実はね、
「なにがいるのですか」
「芸能人さ」
確かに職員室でそう聞いたな。芸能人が多数いると。
それが誰かは教えてもらっていないが、そのうち現場で会うかもしれないな。
転入したばかりだが、芸能人を見つけてあいさつはしておいたほうがいいだろう。
「坤くんがさっき立ち止まったところにいた女子。実は」
「芸能人、だとか」
「いや、違うな」
即答か、もう少しタメてくるかと思ったが。
仕事で何名か芸能人とも会うが、彼女は現場で見たことはなかった。
少なくとも役をもらっている俳優ではないのだろう。
「ちなみにこのクラスには芸能人は十五名いるから」
「じゃああの女子はなんですか」
河合くんはニヤけた表情を浮かべている。
そのとき、廊下から
「悪いね河合くん。まずは校舎について憶えないといけないから。なるべく早く憶えるつもりだけど、話はそのあとでいいかな」
「かまわないよ、坤くん。情報は逃げやしないからね」
彼女のことが気にならない、といえば嘘になる。
感じのよい女子高生で、同級生になったのだから、少しはお近づきになれるかも、なんて淡い期待を抱いたのだが。
どうにも学校を持て余しているような印象を受ける。
そんなに忠度学園高等部は退屈なのだろうか。
少なくともB組は有名大学進学組か、すでに仕事を持っている組のどちらかである。
授業に飽きたような態度ということは、大学進学組ですでに予習をしていて余裕があるように思えた。勉強に追われていないから、休みの日は機嫌がいいのかもしれない。
教頭先生を待たせてもいけないので、河合くんに断りを入れてすぐに廊下で待つ三浦教頭と合流した。
三浦教頭に従って校舎を巡っていると、予鈴と本鈴が鳴っていた。
「ああ、コンくん。君、今日はあくまでも顔見せと校舎を憶えるのが勉強だから。できれば昼食前までには終わらせるつもりだから、きちんとどこにどんな教室があるのかを憶えるように。私の案内が終わったら、適当に校舎内を歩いてみるといいよ」
「わかりました。ここまで敷地が広いと、憶えるのもたいへんですね」
「うちは中学から高校、大学までが同一キャンパスだから、余計に広く見えるんだよ。高等部生が使用する場所は限られるから、あくまでも自分に必要なところだけ憶えましょう」
中等部の校舎について憶えても、利用価値がないから徒労に終わるだろう。
あくまでも高等部の校舎と共用スペースを憶えさえすれば学園生活は事足りるらしい。
「ただ、部活動に入るつもりなら、それぞれの部室の位置も憶えた方がいいだろうね」
「部活動に入るつもりはありません。ただ、体操部があると聞いていたので、練習場を使わせてもらえたらありがたいのですが」
「部員でなくても体操部で鍛えたいのかな」
「仕事の準備のために、学校でも練習場所があると助かるんです。ここがダメだと住んでいるマンションに併設されている公園を使うしかなくて」
「うーん、そうですねえ。学園の指導者の監視があったほうが危険なことはしないと思えますし。それでしたら体操部の顧問に相談しておきましょう」
「お願いいたします。きちんとリスク管理をしていただけると助かります」
教頭先生に深くお辞儀した。
「おお、帰ってきたか坤くん」
「いちおうひと通り見学してきました。それでさっきの続きなんだけど」
「ああ、そうそう。無愛想なあいつ、
「へえ、アイドルが幼馴染みですか。じゃあ彼女自体が業界人というわけではないんですね」
「そ。そのアイドルのボディーガードをしているんだよ」
「彼女、そんなに強いんですか」
「強いなんてもんじゃないな。本格的にナントカ拳とかいう武術教室で習っていて、全日本選手権でもベストエイトに残るくらいだ。あまりにも強くて、その割に無表情で無愛想ってことで、付いたあだ名が〝絶対零度の女王様〟だ」
「〝絶対零度の女王様〟って、それはさすがに盛り過ぎでしょう。話してみたら意外と人当たりがよいかもしれないし」
河合くんは大げさに首を左右に振っている。
「秋川が表情を緩めるのは、そのアイドルと一緒にいるときだけ。ひとりでいるときに話しかけたら凍りつくような視線で射抜かれるぞ」
「メデューサでもあるまいし」
「君はまだ見られていないからわからないんだよ。挑戦するつもりがあるなら、お昼休みにでも話しかけてみるんだな。そうしたら相当な勇者だと認めてやるよ」
ついため息をついてしまった。今さら勇者と呼ばれたところで、学園生活がスムーズに進むとは思えない。
昨日の表情豊かな彼女を知っているから、彼女の知らん顔の理由が気になって仕方がない。
(第2章A1パートへ続きます)
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