第31話 誰のために動く

「そっちで何か情報は掴めた?」


『いや、こっちは何も』


『私もまだ聞けてない』


「分かった。俺もまたいろんなところに聞いてみる」


メッセージアプリを閉じてスマホをしまい、別のところへ向かい聞き込みを再開する。通行人に声をかけるのは不審者みたいに捉えられてしまうので、色々な出店の人に目撃情報が無いか聞いてまわっている。これまでに5、6軒ほど聞いてまわっているが、どこでも情報を得ることができなかった。クヨクヨしていても現状は変わらないので、すぐに切り替えて次のところへと向かう。


「みなさん!美亜を見ませんでしたか?」


次に聞きに行ったのはジャスミンのところ。美亜もジャスミンにはそれなりに来ていて、ここにいる人達も美亜のことをよく可愛がっている。ここで大きな手がかりを掴めなければその後の捜索も絶望的になるため、ここに一縷の望みをかけた。


「うーん、うちは見てへんなー。みんなは見た?」


「私は見てないですね。目の前を通ったとしても見逃してるかもしれません」


「私も見てないな。ごめんね弘貴くん、力になれなくて」


「いえいえ。みなさんに非はないんですし、謝らなくていいですよ」


やっぱり、ここでも情報を仕入れることはできなかった。万事休す…そう思っていたところに、一本の光が差し込んだ。


「美亜ちゃん、美亜ちゃん…あ!もしかしたら私、見かけたかも!」


「海莉さん、それ本当ですか!?詳しく教えてください!」


「え〜でも高いよ〜」


「今はふざけないでください!なりふり構ってられないんです!後日なんでもしてあげますから!」


どうやら海莉さんが美亜と思しき人を見かけたらしく、そのことを聞いた瞬間に俺は食いついた。海莉さんはいつもみたいに茶化してきたが、今はそんなことに付き合っている暇なんて無い。鬼気迫る表情をして、周りから見てもきっと異質に見えるだろうが、今はもうそんなことも気にしない。


「おぉうごめん。そこまでガチなことだとは思わなかったわ。私が周りながら呼び込みしてた時に、本殿裏のあたりで男性に囲まれてる人がいて、隙間からチラッと見えた姿がもしかしたら美亜ちゃんじゃ無いかな〜って思って」


「ありがとうございます!すぐ向かいます!」


お礼を言うや否や、もらった情報の場所へと飛ぶように走り出した。


「タイミング的にまだいるか分からないけど、幸運を祈るよ!」


「気ぃつけてな!何があるかわからへんさかい!」


海莉さんと店長。二人からの激励に軽く手をあげて返して、ただひたすらに進んでいく。人混みをうまく掻き分けながら進んで本殿裏まで着くのには、1分もかからなかった。しかし、そこには誰もいなかった。


「聞いた話ではここなんだけど、誰もいないか…って、あれって」


何かが落ちているのに気づき、近づいて確認すると、それは椿のブローチだった。それも、俺が美亜にプレゼントしたものと全く一緒で、さっき美亜と話していた時にも浴衣につけてあったものだ。それによく見ると、地面には草履の足跡や、いくつかのシューズの足跡がまだ残っていた。足跡は、神社の外へと続いている。


「間違いない。美亜はここにいたし、どこかにいる。この足跡を辿っていけば、見つけられる!」


メッセージアプリを開いて、今手にした情報を共有する。


「今、美亜の手がかりを本殿裏で掴んだ。ちょっと神社の外まで行ってくる」


『分かった。行ってらっしゃい』


『応援が欲しかったら呼べよ』


ほぼノータイムで返信が来た。それを確認してスマホをしまい、足跡の続く方向へと走り出した。

***********************

「よし、ここなら問題ないだろ」


「まあ、向こうの騒がしさがあるから、こっちの声は届かないだろうし」


「ま、迷い込んだとしても親とはぐれたちびっことかだろうし」


神社から離れた人気のない倉庫に連れて行かれ、パイプ椅子にロープで縛り付けられている。猿轡はまだつけられていて、まだ自由に言葉を発することができない。それに呼吸もしづらく、かなり苦しい。


「ンン!ンンンン!(ちょっと!外して!)」


「おっと、ごめんね。今外してあげるから、ちょっと失礼するね」


男たちの中の一人が気づき、私につけられている猿轡を外す。一気に呼吸が楽になり、何度も深呼吸を繰り返す。そうしてある程度呼吸を整えてから男たちを睨みつけて言う。


「あなたたち、一体何が目的なの?こんなとこに連れ込んで」


キツく当たるが、男たちはヘラヘラとした態度を崩さずにいる。


「何が目的って、分からないの〜?こんな人気のないところにいるんだったら、嫌でも理解できると思うんだけど」


「まあ、無知なら無知でいいんじゃね?俺らで徹底的に教え込ませればいいし」


「そうだね〜。俺らでヤることヤって、忘れられないぐらいに刻み込んであげようか〜」


こいつらが言っていることは何一つとして分からないが、会話の後にこちらに向けてきた、さっきよりもより醜悪な笑みに、私は身の危険を感じて逃げ出そうとした。しかし、椅子に体を括り付けられているので、抜け出すことなどできずに椅子もろとも倒れるだけだった。


「痛っ!」


「あーあー、危ないって。せっかく可愛いのに傷がついたら勿体無いじゃん」


「面倒だなぁ。アレ飲ませて大人しくしててもらうか」


「そう言うと思って持ってきてたよ。ほら」


そう言って取り出されたのは、お酒の缶。それも、かなり度数の強いものだ。なんとなくだけどその先が想像できてしまい、身の毛がよだつ。


「嫌っ、いやっ」


か細い声が漏れる。叫んで誰か助けを呼びたいのに、恐怖のあまりうまく声が出せない。


「お、やっと気づいたんだ。でももう遅いよ」


男が缶を開けて持ったままこちらへと歩いてくる。逃げたい、なのに逃げられない。体は一向に動かせないまま、男が目の前に来て顔を固定させられる。


「それじゃ、これ飲もっか。お楽しみはこれからだよ」


「いっ、いやっ…」


目の前に迫る恐怖に怯えて、全然声が出せない。でも、今何かアクションを起こさないと、誰も助けに来ないし、酷いことをされるのは明白。その事実が、私の最後の後押しをした。


「嫌ぁぁぁぁぁ!!!!!」


「!!」


今まで出なかった大声。それが、この咄嗟の状況で出すことができた。そのことに驚いたのか、男たちは一瞬怯んだ。が、すぐに平静を取り戻したようで、すぐに行動を取り直した。


「ったく、うるさいなぁ。抵抗されても困るんだけ、ど!」


そう言われ、缶から液体を口の中に流し込まれた。熱い、苦しい。口の中から頭まで、全身が焼けるみたい。地獄のような苦痛に襲われること1分ほど、ようやく苦しみから解放されたが、頭がふわふわする。きっとこれが、お酒を飲んだら感じるものなのだろう。


「ふぅ、これでいいか。じゃ、お先に楽しませてもらいますよ」


「ああ、いいぞ」


「次俺ね〜」


椅子に括り付けられていた紐が解かれ、拘束から解放される。地面に倒れて、浴衣がはだけてしまう。そんな私に男が近づき、唇を奪おうと迫ってくる。抵抗もできず、諦めようとした。その時


「美亜っ!」


倉庫の入り口の方から、聞き慣れた声がした。私も、男たちも一斉に入り口の方へ振り向く。そこには、息を切らしながらも強い意志を持った目をした兄さんが立っていた。

***********************

「クソっ!どこだ!」


神社から離れて足跡を頼りに探していたが、途中から地面が植物に覆われたことで足跡を見つけることが困難になり、近辺を探す方法にシフトしたのだが、それでも見つけられなかった。焦りだけが募る中、微かに声が聞こえた。


「…!この声、美亜だ!」


10年も聞いてきた声だ。微かな大きさだとしても、聞き逃すことはない。すぐさま、声の聞こえた方向へと走る。無我夢中で走りながら、今度は男たちが会話している声がちょっとずつ大きく聞こえるようになり、最終的に廃倉庫に辿り着いた。


「ここか…」


ついに居場所を突き止めることができた。スマホを取り出して廃倉庫の外装、マップアプリのスクリーンショットの2枚の写真を添付したメッセージを送る。


「美亜の居場所を突き止められた。ここだ。警備員でも誰でもいいから連れてきてくれ!」


『分かった。俺が呼んでくる』


「ありがとう」


最後は確認する暇もなくスマホをしまい、躊躇することなく扉を開く。


「美亜っ!」


そこにいたのは、地面に打ち付けられていて浴衣もはだけてしまっている美亜と、そんな状態の美亜に顔を近づけている男、それを外野から見て楽しそうにしている男たちだった。


「兄…しゃん…」


呂律の回っていないか細い声で美亜がそう呟く。美亜の顔は赤くなっており、目も開き切っていない。よく周りを見てみると、近くに空のお酒の缶が転がっていた。こいつらがしようとしていたことを想像して、沸々と怒りが湧き上がってくる。


「お前ら、その子から手を離せ!」


「は?なんなのこいつ?」


「正義感の強いやつだこと」


「…先にこっち黙らすか。じゃなきゃこっちが楽しめないし」


「「了解」」


男たちが一度美亜から離れて、俺の方を向いてくる。その目には、邪魔するものを排除するというような、ねっとりした殺気を感じた。


(勝とうなんて思うな…。今は時間を作ればいいだけ…)


俺の力の強さでは、三人まとめて相手にしきることは不可能だ。事前に穂乃花達とのグループチャットに応援を頼むメッセージを送っておいてよかった。誰か大人を連れてきてくれるから、それが到着するまでの間耐えればいい。


「オラァ!消えやがれ!」


その言葉と同時に2人が殴りかかってくる。逃げられそうなエリアを探し、走って躱してそこまで行って今度は迎え撃つ。


「ぐっ!」


振り上げられた拳を受け止めるが、想像以上に強い痛みで一瞬顔を顰める。しかしそれを我慢してその手を掴みかえし、投げ技で地面に叩きつけた。


「生意気なんだよテメェ!」


休む間もなくもう1人の男からの攻撃が襲いかかってくる。さっきみたいなことはまだできないので、躱して受けることだけを繰り返す。

そういえば、三人いたはずだがもう1人は一体何をしているんだろうか?途中そんなことを考えていたが、答えはすぐに結果となってかえってきた。


「ヒャッハー!後ろがガラ空きだぜ!」


「ぐあっ!」


背中に強い衝撃が走り、地面に倒れ込んでしまった。三人いたのに二人しか俺のとこに来なかったのなら、もう一人の居場所にも意識を向ける必要があったのに、俺はそれを怠った。それが、このザマだ。


「兄…しゃん…」


「はぁ、邪魔が入ったけど、とりあえずひと段落か」


「それじゃ、気を取り直してお楽しみの時間といきますか」


そう言って男たちは美亜の方へと近寄っていく。


「嫌っ…いやぁ…」


「やめろ…やめろ!」


美亜が抵抗しようと動いているが、飲まされたお酒の影響か体が動かしきれていない。俺も止めようとからだをうごかそうとするが、衝撃と痛みで動けない。万事休すか…そう思っていると、最後の救いが舞い降りてきた。


「お前たち!そこを動くな!」


そう言いながら数人の警備員が入ってきて、男たちを取り押さえていく。よかった、間に合った。そう思っていると、俺のところに近づいてくる足音が聞こえた。軽く顔を持ち上げると、凛斗と穂乃花がいた。


「お疲れさん。よく耐えたよお前」


「美亜ちゃんのためとはいえ、こんな無茶して!心配したんだからね!」


二人の手を借りて起こしてもらい、凛斗は俺の勇姿(?)を褒め称え、穂乃花には心配されて抱きつかれた。


「ごめん。でも、やり遂げたよ」


「そうか、なら良かったよ。お前の願いが届いたんだよ」


「それならよかったよ」


心が休まると、一気に疲れが襲ってきて体勢を崩すと同時に意識がどんどん薄れていった。


「ちょっ!弘貴くん大丈夫!?」


「…今は休んどけ。目覚ましたら教えろよ」


最後に二人のそんな声を聞いてから、俺は意識を手放して眠りについた。

***********************

「…ハッ!」


どれだけ眠っていたのだろうか。意識が覚醒して目を覚ますと、最後に見た光景とは違う光景が目に入ってきた。あの時に見たのは廃倉庫の殺風景な景色、今目に映るのは白い布の屋根。


「お、目を覚ましたか」


声がした方を向くと、白衣を着た男性が椅子に座っていた。それを見て、ようやくここが救護テントの中だと理解することができた。少し落ち着いて辺りを見渡すと、美亜も隣のベットで眠っていた。


「事情は聞いてるよ、災難だったね。幸い、君の外傷は比較的簡単に治療できるものだったから、ここで応急処置はしておいたよ」


「あ、ありがとうございます」


「いいさ、これくらい。それで、そろそろお祭りも終わるけど、その子は妹さんだよね?連れて帰れるかい?」


そう言われて、隣で眠っている美亜の方を見る。お酒を飲まされた影響もあってか、起きる気配もなくスヤスヤと眠っている。


「お気遣いありがとうございます。自分が連れて帰ります」


「そうか。一応、君も怪我人なんだ。無理だけはしないようにね」


「分かりました。お世話になりました」


そう言って美亜をおんぶして、救護テントを辞する。家に向かう道でも、美亜はスヤスヤと安らかな寝息をかきながら眠っていた。むしろ、少し揺れながらだからかさっきまでより心地良さそうだった。


「ん…お兄ちゃん…」


甘えるようなその寝言を聞いて、俺の心の中で微かな揺らぎが生じた。


(やっぱり、言わないべきなのかな…。いや、それでも…)


少しの葛藤は、家に帰り着くまで続いた。

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