第25話 高梨美亜の兄さん観察録②
「え、兄さん?」
私は今、友達と一緒にプールに遊びに来ている。期末テストが終わり、1学期も終わった今が一番ちょうど良いということになって遊びに来たのだが、更衣室から出てすぐに水着姿の兄さんの姿が目に飛び込んできた。その横にはあの城戸穂乃花が並んで立っている。
(まさかあの2人も今日来てたんだ…こんな偶然ある?)
はじめはそんなことを考えていた。しかしある程度考えがまとまった後、私の頭の中は一つのことに支配された。
(兄さんやっぱり体格いいなぁ。いい感じに引き締まって、筋肉のつきかたも無駄がないし)
「美亜お待たせ〜…どうしたの?なんだかぼうっとしてたけど」
「え!?ううん、なんでもないよ」
「そう?最近暑いから、プール入るとはいえ体調悪くなったら休んでいいからね」
「うん。ありがと」
兄さんに見惚れて、恍惚とした表情が自然に出てたみたい。家の中でならまだいいかもしれないけど、ここは一般の人もいるし、気をつけなくちゃ。
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あのあと友達と一緒に遊んでたけど、やっぱり兄さんにしか目線はいかなかったな。あんなにいい体を惜しげもなく晒しているんじゃ、多くの人が兄さんのことを見ちゃうだろうし、私のこれも不可抗力…だよね?
「それじゃ、私お昼ご飯買ってくるね」
「うん、いってらっしゃーい」
「ナンパされないようにね〜」
「き、気をつけるよ」
ちょっと言い淀んだのには理由がある。午前中、みんなで一緒に遊んでいる最中、3人まとめてナンパに巻き込まれたからだ。そのときは近くにいた大人の人が間に入ってくれて事なきを得たけど、1人になるとそううまくはいかないだろうから、今まで以上に気を張らないと。
「ねえねえそこのお兄さん、いま一人?」
「もしよかったら、私たちと一緒に遊ばない?」
すると、私の少し前からそんな声がした。女性の声がして、話の内容からしていわゆる逆ナンだろう。ちょっと気になって体を動かして様子を見てみると、ナンパに巻き込まれていたのは兄さんだった。
(やっぱり、兄さんほどカッコよかったら男性でもナンパに巻き込まれるんだ…)
そんなことを思っていると、兄さんは列から離れて城戸穂乃花の元へ戻って行った。そちらを見てみると、城戸穂乃花も同じくナンパに巻き込まれていた。
(向こうも向こうでナンパに巻き込まれてる…あ、兄さんメチャクチャ怒ってる。あんな雰囲気、今まで見たことない…。私関係のことでもそんな雰囲気を出して欲しいな…)
「次のお客様、どうぞー」
「あ、はい!」
そんな考えに耽っている間に、列は進んでいて、もう私の順番が回ってきた。後ろにいる人たちの迷惑にならないように急いでオーダーして、受け取ってから2人の元へ戻った。
「お、おかえり〜。ナンパされなかった?」
「私はされなかったよ。ただ、私の近くにいた男性が女性からナンパされてた」
それが私の兄さんだということは伏せておいた。むしろ伏せてないとこの2人が調子に乗って兄さんのもとに突撃しかねないので、たとえ天変地異が起きようとも言わないことにした。
「うわー、それ逆ナンじゃーん。リアルにする人いるんだー」
「私たちに逆ナンは関係ないけど、普通のナンパはあってもおかしくないから気をつけないとね」
「目の前で見た人の言葉だ〜。説得力ある〜」
「茶化さないの。私たちだってさっきナンパにあったじゃん」
「思い出させないでー!実際に受けるとものすごい不快感あったし、それを思い出しちゃうからマジ最悪!」
そんな話をしながら、私たちはお昼ご飯を食べた。
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お昼ご飯を食べた後も遊んでいたが、やっぱり私は兄さんにしか目がいかなかった。目線の先にいる兄さんは、お昼ご飯を食べる時に一緒にいた、城戸穂乃花ではない別の女がいた。見た目などから推察するに、私や兄さんよりも年上だ。多分、大学生くらいだろう。2人で話しているその様子を見ていると、その女が兄さんに当たり前にボディータッチしている。しかも割と際どいところまで当たっている。流石に私もそんな光景を見せられると絶句するしか無かった。
(城戸穂乃花がするならまだ10000歩譲って分からなくもないけど、それ以外の女が兄さんにあんなことをするなんて許さない。さっさと離れろこの女豹めが)
果たして、私のそんな願いが届いたのか分からないが、その女は兄さんから体を離した。その様子を見て私はひとまず胸を撫で下ろした。
あれ以降、これ以上兄さんに女が近寄ってほしくないという感情にしばらく私の頭の中は支配された。
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「今日は楽しかったね〜」
「今年また来るかはわからないけど、来年もまた来たいねー」
「うん、そうだね」
帰りながらそんなことを話していたが、心の底から楽しめていたかを考えるとそんなことはなかったと思う。
突然の兄さん達との遭遇、ナンパに巻き込まれた、兄さんが別の女に詰め寄られている。
いくつものイベントが重なりすぎて、プールで普段と違う体の動かし方をしたというのもあって、私は予想以上に疲れていた。
「バスが帰り着くまで寝るね。おやすみ」
2人にそうことわりを入れて、私はウトウトとする感覚に抗おうとせず静かに眠りについた。これから兄さんにどうアプローチしていくかを考えながら。
「にいさんは…わたしの…」
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