第26話 そんな姿初めて見たよ!

「ここだね…『喫茶 ジャスミン』は」


私はとある喫茶店の前に立っていた。今日の目的は、ここで期間限定で販売されているパフェを食べることだ。夏限定なので、今のうちに食べておかなければ。


改めましてこんにちは、私は城戸穂乃花。趣味は喫茶店巡りです。

以前、普段行っているコーヒーのチェーン店が臨時休業となっていて、代わりと言ってはなんだけど近くにあった喫茶店に入って、そこでチェーン店とは違う面白さを見つけて、それ以来、私はこういう喫茶店にハマっちゃった。それ以来、週末になると初めていくような喫茶店を探して行ってみたりしている。当たりのお店やハズレのお店とさまざまにあるが、そういうところに触れるのもすごく楽しいなって思うの。


そして、昔助けてもらったことがきっかけで好きになって、ちょっと前にはすれ違いもあったけど、今ははれて高梨弘貴くんと付き合ってます。彼と一緒に過ごす時間がすごく楽しくて、最近はずっと弘貴くんのことを考えてる。


(本当は弘貴くんと来たかったけど、予定があるからって断られちゃった…。夏休み中に一緒に来れるかな…)


大好きな人のことを考えながら、私は店のドアを開けた。そこまで広くない店内には、4人がけのテーブル席が2つとカウンター席が8席ほどあり、カウンターの奥には、ギャルソンスタイルの店員さんが立っていた。


「いらっしゃいませお客様。お好きな席にお座りくださ…って穂乃花?」


「えっ!?弘貴くん!?」


なんとそこにいた店員さんは、私の彼氏である高梨弘貴くんだった。突然の遭遇に私はもちろん驚いた。だけど、それ以上に弘貴くんのスタイルがものすごくカッコいいということにしか意識が向かなかった。


(ねぇ!カッコ良すぎない!いつもとテイストが違うし、髪までキッチリセットされてて綺麗に顔が見えるし!)


「えっと、大丈夫?顔赤いけど」


「う、ううん大丈夫!気にしないで!」


「そっか。それじゃあ、お好きな席にお座りください」


ずっと見惚れていると弘貴くんに心配された。自然に私のことを心配してくれるのもものすごく嬉しいし、やっぱり好きだなぁ。


「それにしても、普段は普通に話しているってのもあって、敬語なのってなんだか不思議な感じがするな〜」


「まあ彼女とはいえ、今はウチに来てくれた大切なお客様だから。接客態度は大事だから」


「そっか〜」


促されるまま私はカウンター席に座った。そうすれば、カウンターの中でお仕事をしている弘貴くんの姿をずっと見続けることが出来るし。すでに何をオーダーするかも決めていたので、私は弘貴くんを呼んでオーダーする。


「えっと、夏の果物勢揃いパフェと、アイスコーヒーをください」


「かしこまりました。夏の果物勢揃いパフェと、アイスコーヒーですね。コーヒーは先に提供してもよろしいでしょうか?」


「はい、おねがいします」


「かしこまりました。それでは少々お待ちください」


そういって弘貴くんはカウンターの中でコーヒーを淹れ始めた。その仕草を見ていると、ただでさえ今の格好というだけでも大人っぽくてカッコいいのに、一つ一つの挙動が洗練されていて、カッコよさがさらにプラスされていく。カッコいいの過剰摂取で、もしかしたら私、倒れちゃうかも。


「お待たせしました、アイスコーヒーです。ミルクとシロップも置いておきますね。パフェを持ってきますので、少々お待ちください」


そう言われて、グラスに入ったコーヒーが私の前に出された。ソーサーには、ミルクとシロップがセットで置かれていた。私は普段コーヒーにはミルクや砂糖を入れて飲んでいるが、弘貴くんが淹れてくれたこのコーヒー、まずはそのまま飲んでみようかな。


「ん、美味しい!ちょっと苦味があるけど、甘味も感じられる!」


口に含んだ瞬間のファーストインプレッションは、やっぱり苦かった。だけど、その苦味は意外にも強くなく、その中にフルーティーな香りと甘みが感じられた。これくらいなら、私でもミルクやシロップを入れなくても飲めると思う。


「お待たせしました、夏の果物勢揃いパフェです」


「ありがとう弘貴くん。コーヒー、すごく美味しかったよ!ブラックコーヒーは飲めないんだけど、ここのコーヒーならブラックで飲めたの!」


「それなら良かったよ。…はぁ、接客中はちゃんと敬語使ってたけど、いつもの口調で話せないのはキツかったよ」


そういうと、弘貴くんはいつもの口調に戻ってカウンターから出てきて、私の隣の席に座ってきた。私はパフェを食べながら話しているんだけど、いつもよりもカッコいい姿の弘貴くんがすぐそばにいることで私の心臓はずっと高鳴っていてはち切れそう!


「お疲れ様〜。このパフェもすごく美味しいね!果物の甘酸っぱさとクリームの甘さのバランスがすごくちょうど良くて!もうパクパク進んで止まらないよぉ!」


「ははっ、それなら良かったよ。メニュー自体はこの店のやつだから、口にあって良かったよ。それに今は店長も買い出しに行ってるのと、まだもう1人のシフトの人が来てないから俺が作ったんだけど、問題無かったかな?」


「え!?これ弘貴くんが作ってくれたの!?何も問題なかったよ…というか、味も見た目も完璧だったよ!もう何個でも食べられちゃいそう!」


「ははっ、喜んでもらえたのなら幸いだよ。さて、俺もそろそろ昼飯の賄いでも作ろうか…」


弘貴くんが話している最中、"バンッ!"と大きな音を立てて入り口のドアが開かれ、ストライプのシャツにジーンズ姿の、高身長で快活そうな女性が入ってきた。


「やあ高梨くん!今日も頑張ってるかね?…って、君と一緒に座っている女子は一体誰だい?」


「…海莉さん、一応営業時間中ですし、もし他のお客さんがいらっしゃってたら迷惑じゃないですか。それとこの人は俺の彼女の穂乃花です」


「ほう!その子が以前聞いてた高梨くんの彼女か!はじめまして、私は波川海莉。ここでは高梨くんの先輩だ!よろしくな!」


そう言って波川さんは私に手を差し出してきた。その手の意味を私はしっかりと理解して、その手を握って答えた。


「はい!よろしくお願いします!弘貴くんの彼女の、城戸穂乃花です!」


私も元気に挨拶を返した。なんだか、この人にはシンパシーを感じる気がする。


「…先輩っていったって、1ヶ月しか変わらないし、ミスの多さとか色々あるから、店長からも『あんた達先輩後輩逆とちがう?』とか散々言われてる癖に」


「うっ、それは…高梨くんの仕事を覚えるスピードが速いからでしょ。私だってちゃんと覚えることだって出来るんだから!」


「バイト入って一年以上経ってるのに何をいってるんだか」


「なにをぅ!」


ただの先輩後輩という関係とは思えない波川さんと弘貴くんの会話。そんな2人の様子を見ていると、なんだかこの前藍華さんに大して感じた嫉妬心が芽生えてきてしまった。仲良くなった人にこんな感情を持っちゃうなんて、ちょっと悲しいな。


「おやおやぁ、なんかやかましいなぁ。海莉はんも弘貴はんも、お客さんがおる前では静かにしいひんとなぁ」


そう思っていると再び入り口のドアが開かれ、京都弁の女性が入ってきた。その顔には、貼り付けたような笑みを浮かべている。


「げっ、店長。すみません」


「私も、やりすぎました」


「分かったらええんどすえ。お客さん、おいでやす。うちはここの店長をしてます、伊藤沙綾どす」


そういって丁寧にお辞儀をしてくださった伊藤さんは、この前の藍華さんとは違う大人っぽさを感じた。背はそこまで高くないが、所作がしっかりしているため頼れるお姉さんというふうに感じた。


「はじめまして、城戸穂乃花といいます。弘貴くんの彼女してます。よろしくお願いします」


「へぇ!あんたが噂の穂乃花はんかぁ!弘貴はんも、ええ女の子掴まえたなぁ!」


「店長、茶化さないでください」


「おっと、かんにんかんにん」


「…ええっと、伊藤さんって、今おいくつなんですか?」


「うちの年齢ねぇ…つい最近30になったばかりどすえ」


「え!?30歳!?嘘でしょ!?もっと若いって思っちゃいました!」


大人っぽいオーラを纏っていると感じていたが、見た目は全然若々しかった。伊藤さんを初めて見た時に、てっきり藍華さんと同じぐらいの年齢だと思っていた。それが否定された今、その美貌に見惚れていた。


「若く見えるって、おおきにねぇ。弘貴はん、そろそろ賄い食べるタイミングやんな。うち作るさかい、穂乃花はんと待っとってね」


「え、店長。いいんですか?」


「ええねんええねん。彼女と一緒におる時間は、多いほうがええやん?」


「お、店長ナイスアシスト〜」


「海莉さん、お願いですから茶化すのやめてください」


またいっそう店内が騒がしくなったが、この空気感、私は嫌いじゃないかも。

***********************

その後、あまりにも収集がつかなさそうということになったので、予定より早く午前中の営業が終了することになった。私は特例で店内に入れてもらって、今は私服姿に戻った弘貴くんと隣同士で座っている。


「はぁ、店長も海莉さんも俺のことを茶化しすぎなんだって…はあ、2人が入ってくるのがもう少し遅ければ…」


「アハハ、お疲れ様…」


今は伊藤さんが弘貴くんの賄いを作っている最中で、波川さんは制服に着替えてカウンターの中で午後営業の準備を始めている。弘貴くんは、2人の収集をつけるために奔走していたこともあり、カウンターで項垂れている。


「さっきはすまんなぁ。はい、賄いのオムライスデミグラスソースがけとアイスコーヒー」


そういって伊藤さんが弘貴の目の前に料理を持ってきた。そのオムライスの卵は半熟トロトロで、デミグラスソースの濃厚な香り、そこにかけられたクリームが見事なコントラストを生み出している。


「やっぱり店長、オムライス作るの上手いなぁ。俺なんかまだこんなに綺麗な半熟にできないのに」


「そう?そやけど弘貴はんもあと少しコツを掴んだら出来るようになんで」


そう言いながら、弘貴くんはオムライスを口に運ぶ。しっかり味わい、口元を綻ばせる様子を見ると、なんだかこっちまで幸せな気分になってくる。


「美味しそう、私も食べたいな…。ねぇ、食べさせて?」


いつのまにか、そんな言葉を口にしていた。それに気づいた瞬間、パッと口元を隠し、そっぽを向いてしまった。うぅ、恥ずかしすぎて消えちゃいたい…。多分、弘貴くんも同じ感じなのかな?今の状態じゃ顔も見れないよぉ。


「2人とも恥ずかしがってもうてぇ。ほら弘貴はん、食べさせてあげたらええのに」


伊藤さん、何言っちゃってんのお!そ、それって、間接キスじゃん!私だって恥ずかしいのに、弘貴くんだって絶対気まずいでしょぉぉぉ!


私がそんなことを思っていると、弘貴くんから、予想外の声がかかった。


「じ、じゃあ穂乃花、こっち向いて。はい、あーん」


おそるおそるそっちを向くと、弘貴くんがスプーンにオムライスをすくって私の方へ向けていた。恥ずかしそうにしながらも、私の顔をまっすぐに見つめてきている。その瞳には、覚悟を決めたと取れる炎が見えた気がした。


(あ、弘貴くんは全力で向き合ってくれてる…。なら、私も!)


私も覚悟を決め、弘貴くんの持っているスプーンに顔を近づけ、オムライスを口にした。

口の中にデミグラスソースの濃厚な味わいが広がり、トロッとした卵の舌触りが心地いい。ただそれよりも、弘貴くんと同じものを食べられたということに、これ以上ないというほどの高揚感を覚えた。


「んんっ!美味し〜い!」

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