第23話 こういう時は童心に帰るにかぎる

「うわぁ!いっぱい人がいる!」


「暑くなってきて時期的にも丁度いいしね。それに入ってくる時にうちのクラスの人も何人かいたよ」


「そうだったね。みんなも同じようにチケットもらってきたのかな?」


「多分そうなんじゃ無いかな?」


1学期が終わり夏休みに入ってすぐ、俺たちは以前相馬からもらったチケットを使いプールに来ていた。お互いに更衣室で着替えてきて、外で合流したのだが、穂乃花の水着の露出度が凄かった。


この前の試着の時に着ていた水着の中で、一番露出度が高かった水着を着ている。あの時は試着用に用意されている下着を着てはいたので露出は今より控えめだったが、今は直接それを着ているので、なんというか、スタイルの暴力である。流石にこの格好は何かと危ない気がするので、カバンから薄手のパーカーを取り出して穂乃花に着せることにした。


「ん?どうしたの?」


「あぁ、えっと。その水着、すごく肌が見えるじゃん?穂乃花は綺麗だから見れるのは嬉しいんだけど、その、他の人にジロジロ見られそうで…」


首を傾げる彼女に、嘘偽りない本心を話す。これだけ露出度が高いとなると、絶対に不埒な輩からナンパされてもおかしくない。彼氏として、それだけは絶対に防がなければ。


「そ、そうなんだ。ありがとう…(弘貴くんに見てもらいたかったからこれ選んだのに…)」


そう言って穂乃花は恥じらいながら、同時にシュンとしながら差し出したパーカーを受け取って着てくれた。


俺のために選んでくれているとは思うのだが、今の時点で既に周囲の視線を集めに集めているのに、更にこの後に周りから見られると思うとなんだかいい気分はしない。残念だとは思うが、ちょっとは我慢してほしい。


「プールに入る時とかには脱いでいいからさ。それより、まずはどこにいきたい?」


「う〜ん…あ!じゃあ、ウォータースライダー行きたい!」


そう言って穂乃花が指差したのは、全長500mという謳い文句がデカデカと書かれているウォータースライダーだった。


「いいね。じゃあ、行こうか」


こういう場に来てテンションが上がっている彼女についていき、ウォータースライダーの入場口へ向かった。


「うわぁ、結構人並んでるね〜」


「やっぱり、このプールにある中で一番人気なんだろうね。わざわざあんな風に謳い文句まで出してるわけだから」


待機列の最後尾には、30分待ちと書かれてあった。テーマパークのアトラクションなどと比べると短く感じるが、このような場所だと考えるとかなり長く感じるものだ。それでも気長に待ち続け、俺たちの番が回ってきた。

二人乗りの浮き輪を受け取り、係員さんに連れられて出発点へと向かう。その際、穂乃花と係員さんが何かを話していたが、何を話しているかは分からなかった。


「それでは、浮き輪に乗って、振り落とされないようにしっかりと掴んでいてくださいね〜」


係員さんに言われるがまま、俺がまず浮き輪に乗り、しっかり掴む。次に穂乃花が乗ってきて俺に捕まってきた。ん?俺に?


「ええーっと、穂乃花?掴むのは俺じゃなくて浮き輪のはずじゃ?」


一応俺は俺で浮き輪をちゃんと掴んでいるので大丈夫だとは思うのだが、穂乃花が飛んでいかないかが心配なのだが。


「ちゃんと乗りましたね。では、行ってらっしゃ〜い」


穂乃花の返答を待つより前に、係員さんが俺たちをスライダーの方へ送り出した。その声には嗜虐心が混じっていて、最後に一瞬見えたその顔にはしてやったりという雰囲気が滲み出ていた。


(クソッ!嵌められた!というよりちょっとマズいぞこの状況!)


後ろから抱きつかれており、しかもそれが女性だというこの状況。どうしても直接的には表現できない接触の仕方をしてしまっている。


…一応やんわりと表現するならば「ムニュ」と言った効果音が出るような感じだろうか。


そんなことを考えながらもウォータースライダーはどんどん進んでいく。


「うおおおおお!?」


「きゃぁぁぁぁぁ!」


パイプ状のレールの中に、俺たちの絶叫がこだまする。ここだけ切り取れば、楽しそうに遊んでいるカップルそのものなのだが、俺の方は意識が別のベクトルに向きすぎているのでそう思う余地がない。


「あぶっ!」


「きゃぁ!」


いつの間にか終点へと辿り着き、二人して浮き輪ごとプールへ打ち出される。顔をプールから上げてお互いの顔を向き合い


「「アハハハハ!」」


何がおかしかったかはわからないが、二人で笑い合った。この雰囲気だけでも、すごく楽しかった。


そのままの勢いでもう一度ウォータースライダーに乗りに向かった。さっきと同じ係員さんに誘導され、また出発地点へと立った。すると係員さんが先ほどよりもさらに嗜虐心を強めたような声音でこう言った。


「先ほどは彼氏さんが前に乗られましたし、今度は逆になってみてはいかがですか?」


「「じゃあそうさせてもらいます!」」


しかし俺たちは浮かれていたのか、その発言の真意を理解しようとする間もなく返事を返してしまった。その後の結果は…まあ、うん。一つだけ言えるのは、女の子は全身柔らかいんだなって。

***********************

しばらく遊んで時刻もお昼ご飯時になった頃、施設内にあるフードコートへとやってきた。


「じゃあ、買いに行ってくるね」


「はーい。私はここで待ってるね」


二人で座る席を確保して、俺が席を立って昼食を買いに行くことになった。飲食店のテナントに向かって歩いていると、見知らぬ女性二人から声をかけられた。


「ねえねえそこのお兄さん、いま一人?」


「もしよかったら、私たちと一緒に遊ばない?」


その二人はいかにもチャラい雰囲気で、おそらく普通の遊びではなく、何か別の目的があってだろう。


…最近は男性がナンパやストーカーの被害に遭うことが増えたという話をよく聞くようになったが、まさか俺がそれに遭遇するなんて思いもしなかった。


「あの、俺には連れがいますのでそういうのは間に合ってるんですよ」


「えぇ〜でもその連れの子はどこ?」


「今いないんだったら〜バレないよね〜」


断ってもしつこく付きまとってくる。ちょっと面倒がすぎるな。一旦穂乃花のところに戻って、それでこの人たちが離れてくれることを願おう。


「ちょっと、失礼しますね」


「ちょっ、どこ行くの〜」


追いかけられているのを感じながらも、俺はただひたすらに穂乃花の元へ戻る。我が身の安寧を求めて。そうして穂乃果が待っているところの近くに戻ってきたが、そこには見覚えがある…というより丁度我が身を襲っている状況と全く同じような状況が展開されていた。


「だから、私には彼氏がいるって何度言ったら分かるんですか!」


「でもさ〜彼氏が今いないんだったら大丈夫っしょ」


「こんな可愛い女の子放っておくとか、彼氏くんもなってないよね〜」


そこでは穂乃花が二人の男に囲まれている状況が広がっていた。それを見た瞬間、俺の中でふつふつと怒りが湧き上がってきた。もうその後は何も冷静に考えることなんて出来ていなかったと思う。体は即座に動き出していた。


「あの、俺の彼女に何か用ですか?」


敵意を露わにして、ナンパ男に喰ってかかる。コイツは許してはならない存在だ。今すぐにこの場から立ち去りやがれクズが。


「あ、あ〜ッと。すみません。何でもないです」


「し、失礼しました〜」


そう言って男達はどこかへと行ってしまった。ひとまず穂乃花の方は片付いたな。それじゃあ、後はこっち側だけだな。俺は先ほどの二人に向き直って話しかける。


「で、この状況を見てもさっきまでのこと出来ますか?」


相変わらず怒気を孕ませた声で話しかける。


「ほ、本当に彼女持ちでしたか〜」


「ご、ごめんなさい〜!」


焦った様子でその二人も逃げ出した。ふぅ、一度に四人ものナンパを相手してると疲れは異常なまでに溜まるな。少し落ち着いてから、穂乃花へと向き直る。


「大丈夫だったか?」


「う、うん。大丈夫だったけど…弘貴くんもナンパされてたの?」


「まあ、そんなところかな」


「そっか…」


「っていうか!お昼ご飯買うの忘れてた!どうしよう!」


お互いナンパに巻き込まれ、それを解決するのに時間や意識を使いすぎたので、昼食を買うのをすっぽかしてしまった。


「買いに行かなきゃだけど、どうしようか。二人で一緒に動くと席が確保できないし、さっきみたいなことするとまたナンパとかに巻き込まれそうだし…」


二人で頭を悩ませていると、丁度そこに救いの手が差し伸べられた。


「お!弘貴に城戸さんじゃん!楽しんでる?」


そこには、俺たちより少し年上の女性を連れた、俺にこのプールのチケットを渡してきた張本人、日野相馬が立っていた。

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