第22話 はたして神のいたずらか

テストが終わってモチベーションが一気に低下し、教室中が惰性で授業に取り組んでいるように思える。更に今は5限目、昼休みを挟んだ後というのもあり昼食後の眠たい雰囲気まで漂っている。しかし、6限目になるとその雰囲気が一変し、みんなして真面目に授業を受けるようになる。理由は明白であるが、今日はそれだけにとどまらない。なぜなら1週間前から待ち遠しく思われていたとあるものが出るからだ。


「今日の放課後から、期末考査の成績上位者30名が掲示板に張り出されました。混雑するとは思いますが、ぜひ見に行ってみてください」


担任からそう告げられ、ホームルームが終了するとクラスメイトたちは一斉に掲示板の方へと向かった。


「ねぇ弘貴くん!私たちも行こう!」


「うん、行こうか」


俺と穂乃花もクラスメイトたちとは少しだけ間を空けて掲示板へと向かう。その間に以前からもあったが他の男子生徒からなにかを恨めしく思うような目線を向けられていたが、あまり気にしないことにする。

***********************

「うわぁ~、まだ人いっぱいいるね~」


「やっぱり気になるんだろうね。さてと、俺たちの名前載ってるかな」


「聞いとくけど。勝負のこと、忘れたわけ無いよね?」


「もちろん」


そう話しながら人の隙間を通っていき、張り出された紙のもとへたどり着く。ここには学年の上位30人が掲載されており、関係ない生徒でも友達が載ってないかと見に来る人がたくさんいるので、毎度ここはごったがえしている。


「ええっと一位の人はいつもと同じだし…あ!あった!」


「いつもの順位ぐらいにはなかったからちょっと上の方見てみるか…お、あった。って」


「「ええええええ!!!」」


二人でそれぞれの名前を探して、お互いに自分の名前を見つけることが出来た。しかし、そこには衝撃的なことが書かれていた。



3位 城戸穂乃花

  高梨弘貴



つまり、俺たちの合計得点が同じだったということになる。それに3位ということで、終業式の日に全校集会で表彰されることになる。というより


「フラグ回収って本当にあるんだなぁ…というか、俺のこれってとんでもない大躍進じゃないか?」


「私も3位なんてはじめてだし…しかも順位が一緒だから勝負のお願いするだけじゃなくてお願いを聞かないと行けないのか~」


お互いに色々考えながら見続け、ある程度見終わったところで周囲の邪魔にならないようにその場から立ち去って二人で並んで帰り始めた。


「いや~まさか同じ順位になるとは思わなかったね~」


「俺だって驚いたよ。しかも3位って自己最高順位を大きく更新してたからなおさらビックリだって」


「そこはほら!弘貴くんが勉強頑張ったからだと思うよ!」


いつもの調子の帰り道。テストが終わって順位まで発表されて、ようやく全てが終わって肩の荷が下りたからかいつもより足取りが軽やかだった。


「それより、どうする?同じ順位だったから、お互いになにかお願いするってことになったけど?」


「自信があったとは言ったけどそもそも勝てる気がしてなかったから何にするか全然考えてなかった」


そう、同じ順位だったということは、勝負をする際に決めたご褒美として相手にひとつお願いを出来る権利を受けられるのだが、同時に相手のお願いを聞くことになる。


(まあ、穂乃花ならそこまで過激なことはしないと思うから大丈夫とは思うけど…。それよりも俺の方をどうしようか…って、これはちょうどいいんじゃないか?)


穂乃花のお願いはルールだからちゃんと受けるとはいえ、俺の分が思い浮かばなかった最中にひとつの妙案が突如として浮かんできた。


「穂乃花、ちょっといい?」


「なに?弘貴くん?」


「俺からのお願いのことなんだけど、これ」


そういって、2枚持っているチケットのうちの1枚を穂乃花に差し出した。


「こ、これって!あのプールの特別入場券だよね!」


「うん。もうすぐ夏休みだから、良ければ一緒に行かない?」


「行く!」


そう、手渡したのは以前相馬からもらったチケット。どのタイミングでどう誘おうか悩んでいたのだが、今のこの状況は渡りに船だ。


「ん〜でも、私いま水着少ないからな〜…あ!じゃあ私もお願い決めた!弘貴くん、今週末、私の買い物に付き合って!」


買い物に付き合うのか。それだけでいいのかと思うが、穂乃花がそれがいいと思うんだったら俺から特に口出ししなくてもいいだろう。


「それくらいだったら全然いいよ」


「やった!」


この時、俺は甘く考えすぎていた。穂乃花がお願いする前に言っていた言葉を、ちゃんと理解していれば…。

***********************

週末、俺は穂乃花からのお願いでショッピングモールへ一緒に買い物に行った。行ったのだが…


「じ、じゃあ。次はこれ着てくるね」


「う、うん」


そう言って穂乃花が試着室の中に入っていき、カーテンが閉められて衣擦れの音が聞こえてくる。2人がいる場所を隔てるものがカーテンたった1枚だけ、しかも店内には女性客がほとんどなので、必然的にこの状況が居づらくなってしまう。


「どうして、こんなことに…」


そう、後悔の言葉が口から溢れる…いや、理由は明白だし、俺が一番理解しているはずだ。

あの時の言葉をちゃんと聞いて、違和感を働かせていればこんなことにはならなかったはずだ。


俺たちは今、女性物の水着のショップに来ている。今、穂乃花は更衣室で着替えているので俺は1人だけであり、女性物を取り扱う店に男が1人いると、それはまあ周囲から好奇の視線を向けられるわけで


(この空気感、めちゃくちゃ居ずらい…。頼むから早く終わってくれ〜)


そうか弱く、心の中で祈ることしかできなかった。

***********************

(フンフンフフーン♪)


私は今、鼻歌を高らかに鳴らしながら更衣室で次の水着に着替えている。この前のテストの結果でのお願い事で、弘貴くんからプールのチケットをもらった時は、すごく嬉しかった。でも、私はそういう場に合うような水着を持っていなかった。だからこうして買い物に来たのだ。


(試着用の下着をつけてるとはいえ、ほとんど肌が見えている状態を見せるのってすごく恥ずかしいな…)


こういうビキニは初めて着たけど、体の大切な部分が隠されている以外は全部見えている状態で、それを多くの人に見られるということに対する羞恥心が一気に込み上げてきた。


(でも弘貴くん、私以上にドキドキしてそうで可愛かったな♡)


私の水着姿を見て、いつもは優しい雰囲気でいる弘貴くんがドギマギしているのが、いつも一緒に過ごしていてもなかなか見ることができない貴重な光景で嬉しかった。それが今日はこの後もまた見られるので、自然と表情が緩んでしまう。


(それに、実際プールに行ったら周りの人もこんな水着を着てるわけだし、私のこの姿にも慣れてもらわないとね!)


そう、これが今日の私の中での最大の目標だった。たくさん私の水着姿を見て、こういう姿を見ることへの耐性をつけてもらって、さらに私だけを見てもらうことでその場にいる他の女に目移りしないようにするためだ。


ああいう場には私たちみたいな恋人同士で行く人たちもいるし、家族連れ、更にはナンパ目的という下世話な人たちもたくさんいる。

しかもナンパは最近は男女問わずやってくるので非常にタチが悪い。そんな人たちに靡くつもりは一切無いし、なにより私の大切な弘貴くんに手を出すなんて絶対に許さない!


それでもしそんなことが起きても私のことだけを考えてもらえるように今日は連れてきたわけですよ。見ている感じだと効果ありみたいだし。


(ちょっと恥ずかしいけど〜次はこれ!)


私は次に試着する水着を手に取った。もっともっと弘貴くんを私のものにして、たくさん愛してもらおう!

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