第16話 ゆっくりわかっていけばいい

休みが明け、久しぶりに教室に戻ってきた。教室に入ると、クラスメイト達がわんさか寄ってきて、労いの言葉を次々にかけてくれる。


「おかえり!」


「無事で良かったよ」


「これからまたよろしくね!」


訪れる人の波は収まることを知らず、ホームルームが始まるまでずっと続いた。病室にお見舞いにも来てくれていた城戸さんも来てくれて「おかえり」と言ってくれた。こっちもちゃんと「ただいま」と返しておいた。城戸さんには、大切なことを伝えなければならない。その事を自覚しているからこそ、言葉を返すときには緊張していた。


「えー今日、今まで入院していた髙梨くんが戻ってきてくれました。しばらく授業に参加できていなかったので追い付くのに苦労すると思いますが、そこは回りの人たちがサポートしてあげてください」


ホームルームで担任にも言われ、クラス中で拍手が巻き起こる。その事に戸惑いながらも、俺は精一杯のお辞儀で返した。ホームルームが終わったあと、凛斗から声をかけられた。


「おかえり」


「ただいま」


「決まったか?覚悟」


「おう」


「なら、気張っていけよ」


短い言葉だけの会話。それでも、俺たちの間ではこれだけで十分だった。父さんにも、親友にも後押しされ、ついに俺は行動に移した。教室の前の方にいる城戸さんのところへ向かい、声をかけた。前回とは逆、城戸さんから俺にじゃなくて俺から城戸さんに。


「城戸さん、この前の約束、覚えてる?」


「うん、バッチリ覚えてるよ」


「そっか。その事で、ちゃんと俺なりに結論は出せた。だからそれをちゃんと伝えたいんだ。放課後、屋上に来てくれないか」


もちろん、今すぐにでも伝えられるように俺の中で考えはまとまりきっている。ただ、最後の心の準備の時間が欲しかったから、あえて放課後に時間を入れさせてもらった。そんな内心を悟られないようにしながら話し、城戸さんの方を見る。


「…もちろん、いいよ。この時を待ってたよ」


そんな俺の様子を気にする事なく、城戸さんはむしろ嬉しそうに返してくれた。ひとまず約束は取り付けられたので、自分の席に戻って授業の準備を始める。戻ってきてすぐに凛斗に結果を聞かれたので、とりあえず上手くいきそうだということだけ伝えた。

***********************

久しぶりに受ける授業は、心なしか以前に比べて楽しく感じた。これまでは特に勉強に何の面白味も感じなかったが、しばらく間が空いたこともあって、ついていくのには一苦労だが、その苦労さえも楽しく感じられた。そんな時間は次々と去っていき、約束の時間─放課後が迫ってきた。クラスの中には、足早に帰宅する者、部活動に向かう者、友達と遊びに行く者、アルバイトに行く者など、いくつかのグループに分かれていた。ただ、今日はこの中のどのグループにも属さない。荷物を持って廊下を進み、屋上へ繋がる階段を登っていく。そこにある扉を開けると、約束通り、城戸さんが待っていた。


「お待たせ。待たせちゃった?」


「ううん、私もさっき来たばかりだったから、全然問題ないよ」


「そっか」


あの日を彷彿とさせるようなやり取り、今回は前回と立場が逆だ。早速、俺の中でまとめた気持ちを伝えた。


「あの時話したとおりだけど、正直、俺の中でまだ好きとかの感情が理解しきってない」


この言葉を発した瞬間、城戸さんの表情が曇る。きっと城戸さんは、ことが悪い方に進むかもしれないと思っていると思う。ただ、俺はそんなことはしたくない。続けざまに、俺は話し続ける。


「だけど、城戸さんから向けられた気持ちには、ちゃんと応えたい。だから、こんな俺だけど、どうか付き合ってほしい」

***********************

高梨くんより一足早く屋上に着いて、彼を待つ。あの時私の感情をぶつけて、ようやく言えたという安堵の感情と、八つ当たりしてしまったという後悔の感情が同時に押し寄せてきた。それから1週間、ようやく彼が学校に戻ってきて、また学校で会えるという事実がものすごく嬉しかった。朝に私の席に来てこの事を伝えてくれた時に、結論を出してくれたことに対する感謝と、どんな答えが返ってきても受け入れようと決心した。


まもなくして高梨くんが屋上に上がってきた。


「お待たせ。待たせちゃった?」


「ううん、私もさっき来たばかりだから、全然問題ないよ」


「そっか」


このやり取り、あの日を思い出すなぁ。私が振っちゃって、その後来てもらってからこの屋上で話した時の最初のような。私がそんな感傷に浸っていると、高梨くんが話し始めたから、私は意識を切り替えて彼の話に意識を向ける。


「あの時話したとおりだけど、正直、俺の中でまだ好きとかの感情が理解しきってない」


その言葉を聞いた時、覚悟はしていたけど、どうしても重たいものが私の胸にのしかかる。どんな結末になっても受け入れるって決めたのは私なのに。悲しくなって涙が溢れそうになる。その時、彼がまた言葉を発した。


「だけど、城戸さんから向けられた気持ちには、ちゃんと応えたい。だから、こんな俺だけど、どうか付き合ってほしい」


一瞬で、胸の中に光が灯った。暖かい光に包まれ、じーんと胸が熱くなって、またしても涙が溢れそうになる。今度は悲しみじゃない、嬉しさで。


(そっか。それが、答えなんだね)


上手く返事がしたいが、言葉が出てこない。その間にも、胸の中の感情がどんどん大きくなっていく。いつしかそれが抑えられなくなり、堰を切ったように溢れて、涙がこぼれ落ちる。そうして私は、ようやく出てきた言葉を口に出した。


「私…ずっと高梨くんのことが好きだった…。どんな君でもいい…だから、ぜひよろしくお願いします!」


私は彼の手を取った。

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好きな子に告白して振られたら、振ってきた子含め何人もの女子に追われてます Yu(カクヨム界の駄犬) @ys200758

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