第13話 再会
高梨くんが事故に遭って2週間経過した。まだ彼は目を覚ましていない。私もあれから何度もお見舞いに行っているが、未だに彼が起き上がる兆候は訪れない。もしかしたら、もう死んでしまったのかもしれないと考えてしまうこともあったが、繋がれている機械を見ると、そこにはちゃんと生きていると証明されている。
「…私はずっと待ってるよ。ゆっくりでもいい。早く戻ってきてね」
今日も今日とてお見舞いに来て、彼の病室で私は彼の様子を見ていた。語りかけても、やはりというべきか反応は返ってこない。悲しいけど、今はまだこうしているしかない。そう思っていた最中、微かに、それでもハッキリと彼の手が動いた気がした。
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長い夢を見ているようだ。ずっと、まどろみの世界にいるような、そんな感じがする。揺蕩うような感覚が心地良く、ずっとこのままでいたい。だけどここ最近、そんな中に何かが入り込んでくる。この心地よい空間を邪魔するわけではないが、本来入ってくるはずがないもの─というより声が。
『高梨くん』
そう呼ぶ声には優しさを感じ、思いやり、恋慕の情が感じられる。
『兄さん』
そう呼ぶ声には好意を感じ、またその奥には狂愛ともとれるほどの恋慕の情が感じられる。
そしてその声と共に、いくつもの記憶が流れ込んでくる。初めて会った日のこと、好意を抱いていたこと、振られたこと、誤解が解けて友達になったこと、買い物に行ったこと…さまざまな記憶が一気に流れ込んできて、眩暈がする。
だが、今ので思い出した。俺がいるべき場所はここではない、待っている人がいる。早くそこに戻らなければと、そう心が叫んでいる。もがいて、もがいて、もがきつづけて、俺はこの世界から出るために動き始めた。
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私が感じたのは、違和感でもなんでもなかった。高梨くんは、今自分で、戻ってこようとしている。もちろん私には何もできない。だけど、彼の手を持って祈り、願った。
(もうすぐ戻ってこられるよ!頑張って!私がついてるから!)
「う、うぅん…」
はたして、その願いが届いたのか定かではないが、遂に彼は目を覚ました。嬉しさが込み上げてきて、私は我慢できずに彼の胸に飛び込んだ。
「高梨くん!」
「うわっ!城戸さん…?」
高梨くんは咄嗟のことに驚いた声をあげたが、私はそんなことはお構いなしに胸に顔をうずめたまま話しかけた。
「ほんっとうに、心配したんだよ...!ずっと眠ったままで、何度もお見舞いに来て、その度にもしかしたら二度と起きないんじゃないかって思って…!」
無意識に涙が込み上げてくる。彼の病衣が濡れるということも分かっていながらもなお、私は泣きながら話しかけた。
「高梨くんのことが…大好きで...!最初振っちゃった後、すごく後悔して...!友達として仲良くできることになった時は嬉しくて...!なのにこんなことになって会えなくなったのが凄く辛くて...!それでも私は覚悟を決めて...!」
自分勝手で、一方的な告白。こんなの、ダサいよね…。そんな私に彼は、思いもしなかった質問をしてきた。
「え?ちょっと待って頭がまだ追いついてない。…えっと、城戸さんは俺のことが好き…なんだよね?」
その言葉に私も頭が追いつかず、返答が遅れたけど
「う、うん。私は高梨くんのことが好き」
と、ちゃんと答えられた。すると高梨くんは困ったような反応を見せて、私の放った言葉への返答をしてくれた。
「ええっと、気持ちはわかったんだけど…俺、正直ちゃんと好きがどうとかっていう気持ちがわからなくて…だから、良ければ待っててもらえるかな」
その言葉は、私にとっては重く、苦しい言葉だった。まだ認めてもらえない。もしかしたら、他の人のところへ行ってしまうかもしれない。そんなことを考えると、泣き出しそうになってしまう。しかし、高梨くんはそんな私の様子を見てからなのか、ちゃんと返してくれた。
「安心して。今は分からないだけ。ちゃんと結論は出すから」
そう言われて、嬉しかった。今は、彼のあたたかさにずっと浸っていたかった。
「兄さん。入りますね」
しかし、そんな空間を邪魔するかの如く、一人の人物が入ってきた。
「「えっ?」」
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