第12話 入り乱れる謀略
高梨が入院して1週間が経過した。アイツは未だに意識不明の状態から戻っていない。よっぽど大きな事故だったのだろう。いつになったら戻ってくるのやら。そんなことを思っていたら、幼馴染のモモカから急に声をかけられた。
「イオリなにボケーっとしてんの?体調悪いの?」
「あ〜ごめん。ちょっと考え事してた」
「…どうせ高梨くんのことでしょ」
「あちゃ〜バレてるか〜」
更には隣にいる同じく幼馴染のカエデからも追及されたので、軽く茶化しながら誤魔化す。この幼馴染たちは、長く付き合ってるからだけなのかもしれないが、人の思考を読むことに長けている。アタシはこの二人の思考ならギリギリ読めるぐらいだから羨ましいけど。
「クラスの色々が大変なのはしょうがないとしてさ〜、アイツがいないとなーんか物足りないんだよね〜」
正直クラス云々に関しては、本気で関わろうとはしないからマジでどうでもいい。高梨と関わりさえ持てれば、アタシとしてはオールOKだから。
「まあその気持ちは分からなくもないけど。高梨くんがいないとやる気が起きないよね」
「…私も」
どうやら二人も同じ気持ちらしい。つまり二人は、アタシからすると幼馴染で親友でありながら、恋敵ということになる。
どこかで聞いた『恋愛の前において、友情なんて繋がりは儚いものである』なんて言葉があるけど、まさにその通りだと思った。二人を蹴落としてでも高梨を手に入れる。もちろん、高梨に近づく女も蹴落していく。そしてアタシが高梨を独占するんだ。
(さ〜て、どういう詰め方で堕としていこうかな〜)
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(イオリは分かりやすいよね。特に高梨くんのことになると顕著になるし)
昼休み、幼馴染達とお昼を食べながらまだ来ていない高梨くんのことを話していた。その時のイオリの様子を見て、やはり彼に惹かれているということを感じた。
(まあ、私も人のこと言えないし、どうせカエデも同じだろうし)
私たちは幼馴染で長い付き合いということもあって、お互いの好きなタイプなどをそれぞれ理解していて、それが偶然にも同じような人を好きになる感じだった。実際高梨くんのことを考えていると、人前では出さないが自分一人でいるとつい恍惚とした表情を浮かべてしまう。自覚はしているが、これが止められないのだ。
「...モモカ?ボーッとしてたけど大丈夫?」
「えっ?」
「いや、私たちが話しているのに、なんだかうわの空で聞こえてないふうに見えたから」
「あー大丈夫、ちょっとだけ考え事してたんだ」
おっと、危うくカエデにバレるところだった。二人の前では高梨くんのことを考えるのは控えておこう。またバレそうだし。
(さて、どうやって私のものにしようかな)
容姿のことでいうと、私はこの二人…なんなら学校中のどの女子にも負けない程のスタイルの良さを誇っている。この身体を武器にして、どんなことをしてでも高梨くんを捕まえてみせる…。
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(イオリもモモカも感情が表に出過ぎ…。高梨くんの話をしただけでこうなんだから…)
幼馴染達の様子をよく見てそう思う。かくいう私も、高梨くんのことを思うと嬉しい気持ちが胸の中に溢れてたまらない。もとより人間観察が趣味だっただけに、人の感情の変化には、ちょっとしたことでも気付くことができる。この二人は、その様子を頻繁に見ることができて幼馴染で色々知っているとはいえ、なんだか面白い。
(私が彼に対してできることとしては…あれかな)
この二人に比べて、女性的な魅力という点で私は劣っていると思う。だけど、人間観察が趣味だからこそというべきか、距離を詰める時のやり方やどういう近寄り方をすればいいかを熟知している。高梨くんだって男子高校生だ。詰め方をちょっと工夫さえすれば、私が手に入れることも容易にできるはず。
(二人や他に彼のことが好きな人には悪いけど、裏をかき続けて私が貰っちゃうね)
「そういえばカエデはさ〜…」
「…その話ならこの前もしたでしょ。なんで同じ話を何回もしなきゃいけないの?」
含み笑いを浮かべながら、私はみんなの会話の中に戻っていった。
この場では、3人の思惑が交錯し、水面下での争いが勃発しようとしていた。もちろん、周囲はこのことはなにも知らない。
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