第9話 お買い物(美亜視点)
今日は待ちに待った兄さんとお買い物!どれだけ待ちわびたことか。木曜日から先生の話なんかまともに聞けていたか怪しいし、昨日の夜も楽しみで全然寝付けなかったし。ワクワクするのはいいことだけど、体調管理だけは気を付けとかないと。
特別な日だからと、今日は服装やメイクにいつも以上に気合いをいれた。可愛い洋服を選んで、いつもより色が綺麗なリップを選んで完璧に着飾った私は、兄さんが準備できるのを待った。
兄さんは昨日例の城戸さんと洋服を買いにいったようなので、きっとすごくかっこいい服を選んでるはず!ただ、その服を一番最初に見たのが私じゃなくて城戸さんなのが悔しいところ。
そうこうしているうちに、兄さんがリビングに降りてきて私はその姿をとらえた。白のシャツに黒のジャケットを羽織り、スラックスを穿きこなしている。さらに髪型もセットされていて、そんな兄さんの姿はいつも以上に大人な雰囲気を醸し出していた。
(えっ!兄さんカッコよすぎ!最高でしょ!)
「美亜おはよう」
「お、おはよう兄さん」
カッコよすぎて挨拶を返すのが少し遅れてしまった。だって仕方ないじゃん、いつも一緒に過ごしてる人の新たな魅力を発見したわけだし。
「兄さん、すごく似合ってるね」
「美亜もすごく可愛いよ。良かった、ちゃんと似合ってるって言ってもらえて」
「カワッ!!」
不意打ちを食らった、それも特大の。普通に仲の良い異性の友達だとしても嬉しい言葉なのに、好きな相手から言われたとなるとそりゃあんなリアクションを取ってしまうのも無理はない。
「…?顔赤いけど大丈夫?」
「だ、大丈夫。早く行こ」
「うん。それじゃあ、二人とも行ってくるね」
「おう、行ってらっしゃい」
「楽しんできてね~」
両親にも出発を伝えて、二人で歩いて駅まで向かう。向かう先は、電車で一時間ほどの場所にある大型アウトレットモール。私も年に2〜3回ほど行くけど、兄さんと行くのは初めてだ。
「美亜はどんなのが欲しいとか決まってるのか?」
「ううん、特にこれっていうのはないかな。だから、兄さんがこれがいいなって思ったものでいいよ」
「分かった」
そんな会話をしながら歩いていると、周囲からかなり見られていることが分かった。耳を澄ませば、なにを話しているかもある程度は聞き取れた。
「あの二人、すごい美男美女さんね~」
「付き合ってるのかな?」
「ワンチャン告白したら行けないかな?」
なんて聞こえてきた。美男美女だとか、付き合ってるのかなという言葉はすごく嬉しい。だってそんな風に見えてるってことだからね。それに対してワンチャン告白とかふざけるなよ。男女それぞれから聞こえてきたけど、私は兄さんのためだけだし、兄さんにはそんな女、指一本たりとも振れさせはしない。
そんなことがありつつアウトレットモールに到着。兄さんと回っていって、私は気になった洋服を色々試着していって、兄さんは試着した後の私を見て感想を言ってくれた。兄さんに「綺麗」とか「可愛い」って言われるのはちょっと恥ずかしいけど、とっても嬉しかった。試着した中から何着か購入するものを選んでレジでお会計を済ませると、兄さんもいつの間にか買い物を済ませていた。一体いつ買ったのだろう?気になるけど、私へのプレゼントだから、あまり詮索しないでもいいかな。
モールで買い物を済ませた後は一緒にご飯を食べて、特に他愛もない話をしながら一緒に歩いてた。
「今日は付き合ってくれてありがとね兄さん」
「美亜が楽しそうだったからそれは良かったよ。あ、今のうちにこれは渡しておこうかな」
そう言って兄さんは、私が知らぬ間に買っていた包みを取り出した。
「はいこれ。洋服とか渡すにしてもサイズとか合わなかったらあれだし、その人の好みとか分かってないとって思っちゃったから、小物系だけど」
そういって渡された包みを開けると、椿を型どったブローチと髪飾りが入っていた。綺麗な赤色で、素敵なものをもらえた嬉しさと、兄さんが私のための選んでくれたという事実だけでも、何よりも最高のプレゼントだった。
「わぁ!ありがとう兄さん!」
***********************
「そろそろ帰ろっか」
「うん、そうだね」
いつの間にか、時刻は17時を回っていた。遅くなりすぎてしまうとお母さんたちに心配をかけてしまうと思うので、そろそろ帰ろうと、私たちはモールを後にした。それにしても、今日は楽しかったな〜。私は機嫌よく、かなり早いテンポで歩を進めていた。兄さんはそれを後ろから見ているような形で。そんな中突然
「危ない!」
そんな兄さんの声が聞こえて、私は前に突き飛ばされた。あんな兄さんの切羽詰まった声は初めて聞いた。
「兄さんどうし...兄さん?」
突き飛ばされた後に兄さんのいた方を振り向いたが、兄さんはそこにはいなかった。否、いなかった訳じゃない。よく見ると、道路に倒れ込んでいる兄さんと、恐らく兄さんを轢いたであろう車が止まっていた。
「兄さん!」
その姿を見てすぐに私は呆然としていた。しかしそんな意識をすぐに振り払い、私は兄さんのもとへ走った。
「兄さん!しっかりして!兄さん!」
周りにいた人が救急車を呼んでくれた。程無くしたら救急車が来て兄さんを運んでくれるだろう。私も両親へ電話をかけた。
『もしもし。美亜どうした?』
「兄さんが…兄さんが車に轢かれたの!」
『え!?美亜は大丈夫なのか?』
「私は大丈夫。だけど兄さんが…」
『救急車は呼んであるの?』
「うん、近くにいた人が呼んでくれた」
『分かった。モールの近くだよな?私たちすぐに向かうから、病院に着くまで、弘貴のことを頼む』
そういって電話は終わった。私にも何か出来ることがないか考えたが、それでもただひたすらに兄さんの側にいることしか出来なかった。
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